『京都六角通の獏さん 一、夢路の鬼と赤い傘』冒頭試し読み

結来月ひろは@京都東山ネイルサロン彩日堂

プロローグ

「夢」とは、一体何だろう。

 いわく眠りに落ちている際に見る幻覚であり。

 いわく未来への希望や願望であり。

 いわく気持ちや記憶を整理するための現象である。


 夢を見るのは人間だけとは限らず、犬や猫なども人間と同じように夢を見るらしい。

 生きているものは夢を見ると、そう考えてもいいのだろう。

 だとすれば「夢を見ない自分」は一体なんなのか。

 他の人達と同じように夢を自分も普通に持っていたはずだ。

 しかし、いつしか夢を見なくなり、夢はからっぽになってしまった。


 夢も希望も願いもない、からっぽな自分。

 夢のないからっぽな自分は、気づけば夢を彷徨うようになっていた。

 ふらふら、ふわふわ。

 現実と夢の間を、まるで花から花へと移ろう蝶のように。


 実際は蝶のように綺麗なものでもなんでもない。

 からっぽで、自分がよくわからない。

 けれど、それは当たり前だ。

 だって、からっぽなのだから……。

 それでもなにかを求めて、懐かしい場所を選んだのだ。

 

一体なにを求めているのかさえもわからない。

 ただなにかを、自分だけのなにかを、からっぽな自分の中に無理やりにでも詰め込みたかったのだ。

 たとえ、そのなにかが石だったとしても、ぽかりと空いたそこが埋まるのであれば……。

 きっと喜んで石を詰め込んで、川の底へと沈むのだろう。


 なにも見えない、なにも聞こえない、夢すらも見ることのない場所。

 そんな場所を夢見ながらも、私は今日も夢を見ずに生きている。

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