蘇生術は時を刻む
藺日 凛
『やり直し』を振り返る
俺は一体、何度同じことを繰り返しているのだろう。
一回、二回の話ではない。考えるのも馬鹿らしくなる程に多くの回数を重ねきたことは確かだ。
一回目の時に、目の前で消えていく彼女を見ているだけに留めてしまい、禁忌に手を伸ばした。 恐ろしく卑しい自己満足の為に。
二回目には、二度目ということで俺の手が届くと慢心していたことを漬け込まれて、またしても同じ失敗をして『やり直し』を望んだ。
三回目では、自分はよくやったと、自身のこれまでの諸業を正当化して諦めた。そんな唯の『ごまかし』に、後悔が沸き立つとも知らず。 ひたすらに逃げ続けた。そしてまた、『やり直し』を選ぶ。
四回目では、自分の過ちを正すことをやめて、文字通りに『命を賭して』でも立ち向かった。 彼女の身に降りかかる理不尽な運命の数々。何度身を焼かれ、何億と斬りつけられても、『呪い』に近いその深い愛で、俺は立ち上がった。 そしてまた叶わずに彼女を失い、『やり直し』を選んだ。
五回目、彼女だけのために自我を捨て、彼女のためだけに一生を捨てた。 たかが一生だ。一生捨てたところで、俺の目的が果たされるのなら、俺は壊れ続けても構わない。 どうせまだ、彼女の『運命』には敵わない。だからせめて、次の『俺』が少しでも強くなれるように願って。 五度目の『やり直し』をした。
六回目?なのかも分からない。 だがともかく、強くならないと。既に『やり直し』の術は持っているんだ。あとは『運命』に立ち向かえるだけの力が、速さが、技が、強さが欲しい。 それだけあれば大円団だ。ハッピーエンドを目指そう。 失ったと知っているのは、俺だけでいい。俺だけが憎むこの地獄を塗り替えるためだけに。俺は『やり直し』をする。
さて、今は何回目だろうか。 何にせよ、そろそろ勝ちたいな。 好きな人の笑顔を見続けていたいだけなのに、それがこんなにも苦しいものだったなんて。 知っておいて良かった。知っておけば、涙なんてもう、流れることは無いんだから。
詠唱を終えて、『次の自分』に『運命』との闘いに勝利を収めると祈りながら、俺は浴びたものの心の穢れを浄化してしまいそうな程に眩い光の渦に、身を投じた。
願わくば、『次の自分』には護れる強さがある事を。
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