『セイズ』
「管理局職員に必要なのは、『共感』でした」
セイズは顎を引き、視線を動かさず、ニュースを読み上げるアナウンサーのように背筋を伸ばして、そう口火を切った。
「考えてもみてください。この世界にあふれる多様な異世界人たちと、その生活について。
この世界には、いくつかにジャンル分けされた人々がいます。
『本の一族』、異世界人、『適応』できる異世界人、『適応』できない異世界人、文明世界に生まれなかったもの、映画や音楽を日々浴びて育ったもの、言葉持たぬもの、文字持たぬもの、光持つもの、耳の長いもの、耳を持たぬもの、鼻の利くもの、腕と脚が二つずつあるもの、複眼、卵生、哺乳類、光合成する脊椎植物……。
数え切れないジャンルの人々が、人の数だけ存在しており、この世界において『共存』することを求められます。
それによって起きる
ゆえに、第一部隊は、はじまりの数字を与えられ、設立以来、この
セイズの演説は続いた。
「
すべての人々が互いへ『共感』すれば、適切な距離をはかり、ときには団結することも可能なはず。
第一部隊は、表向きは『職員間の事件解決』が
私、セイズは、そのために生まれてきた」
セイズは、膝の上に揃えて置いていた手をほどき、手のひらを見せて自分を示した。
「
同名の魔法は、神話の中にあります。
魔術の女神が宴の席、あるいは戦場で放った『素晴らしい魔法』が、つまり『セイズ』であると。
どう素晴らしいのか、それは誰も知らない。失われた伝承の答えが、あるいは『
『
『
人は、何をもって相手に『共感』するか?
自分と同じものを相手に感じたときに『共感』するのです。
『
さながら、キュービッドの金の矢のように、相手を結びつける。
言葉も、姿も、生態も違う
肉体を環境に『適合』させるのは、
渡り鳥に種を運ばせるために、甘い果肉を持つのと同じです。適合度を上げるという効果は、『
このとおり。『
ただ、どうしても『
『共感』が行動の指針にないもの、もしくは『共感』こそが、暴力のきっかけになるものなどです。
そうした方こそ、『
『
排除すべき存在などいないのだと、『
あなたは『
眼が二つしかないあなたに、目が六つある友と同じ景色が見えないように、現実は残酷なものでしょう。
しかし街を見てください。理想は実現し、我々には秩序がある。
この世界において、絶対的に必要な『
それが『
セイズは、にっこりと笑みを浮かべた。
「あなたはやりすぎた。ニル、
雨が降っている。瓦礫と砂と、体を濡らしてく。
「ニル……いいえ、こう呼ぶべきですか?
――――転生者、
セイズは自身のふくらはぎごしに、少年を見下ろして満足げに息を吐いた。
「『
だってあなたが、佐藤幸一くんが『
あの日、あの時。最初の六年前に、この世界に『召喚』されたあなたの死に逝く細胞が、『
足が少年の頭の上に置かれる。少しずつ、少しずつ、力がこめられていった。
痛みに呻くニルの黄色い瞳を、自身のふくらはぎ越しに見下ろして、セイズは恍惚とした。
「三十四回。『
これはとても言いにくい提案ですが……そろそろ休んでは? 見れたものではありませんよ。あなたは何度、最愛のパートナーと仲間を殺すのですか」
ニルの動きが、目に見えて小さくなった。呼吸は浅く、瞳は陰る。
「次は三十五回目。その数だけチャンスはあったのに、あなたは多くの命を無駄に殺してしまった。分かっているでしょう? 自分の罪を。
知らないふりはおやめなさい。あなたは賢い人だから、気付いていないふりをしているだけ。『
もういいじゃあないですか。もう我慢の限界でしょう? また十年なんて、あなたには耐えられない。心がはちきれそうなのを感じますもの」
言葉が染みていく。魔法のように、
真っ黒で土砂降りの雨が、その心を染めていく。
「次もきっと、うまくいきませんよ。だってこの世界には『
「……明」
呼ばれて、セイズは志村明の顔を上げた。
小鳥遊忍が険しい顔で
「あなたの幼馴染は、もう戻りませんよ」
セイズは微笑んで、額を指差した。
銃声。地面をえぐる。幼馴染を打ち損ねた手からこぼれた凶器は、濡れた地面に落ちて鈍い音を立てた。
「へたくそ」
そのとき、もう一発の弾丸が、志村明の額を穿った。
ビス・ケイリスクは、引き金に手をかけたまま、膨れ上がる黒に飲まれていく。
――――暗転。
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