私が好きなのは先生だけなのに!!

ツッキー

第1話

 授業というものはなんなんだろうか。

 偉大なるウ〇キ様で調べたところ『学校などで学問・技術などを教え授けること』と書いてあった。

 しかし、現代の授業……特に社会とか生物理科とか、教え授けてもらったところで人生に彩が加わるとは到底思えない。

 英語は許してあげよう、旅行に行ったときや海外の友達が出来た時とかに覚えていて損はない。

 国語も許そう、本は読んでて楽しいし、なにより勉強しなくても点数取れるんだから。

 数学も、まぁギリギリ許してあげよう。確率の問題とか素因数分解は解いてて楽しい。円周とか公式覚えたりは大嫌いだけど。

 さあ、教えてごらんよ社会理科などの価値無い、記憶するだけさせてその後何も人生で使えない学問達。

 君達は勉強して楽しいか?人生に彩加わるか?お?

 こういうのは興味のある、ある意味馬鹿なやつだけ教えたほうがいい。

 というかそうしろ日本。


「愚痴はそれだけか?速水」

「え?もっと言っていいんですか?」


 私がウ〇ダーゼリーを飲みながら愚痴を駄弁っていると、目の前に座っている先生が卵焼きを食べながらジト眼を向けて呆れたような声で話しかけてくる。

 どうでもいいけど、ウ〇ダーゼリーって飲むなのか食べるなのか分からないよね。

「お前は頭はいいのに、やる気はないんだよなぁ」

「当たり前ですよ、どうしてあんな無駄なことを覚えなきゃいけないんです!」

「本当になんでだろうなぁ……国が馬鹿だからだろ」

「そうですね、国が馬鹿です」

 お昼ご飯を食べながら二人で自国を馬鹿にする。仕方ない、だって国が馬鹿なんだもん。

「私が高校生の頃は、円周角の問題とかも好きだったし、歴史とかもまぁ好きだったかな。地理や生物は今も意味分からんが」

「ですよね、現役教師が言ってるんですから意味ないですよだから―――」

「そこから動物の研究したいって人間を作るために高校の勉強があって、興味を持った人が大学に行って……って考えると、案外大事かもしれないよな」

「―――そんな綺麗事、今は求めてないですよ」

「そうか」


 私に好き勝手喋らせないことに成功して嬉しいのか、はたまた先生らしいことを言えて嬉しいのか分からないけど、先生は普段浮かべない笑顔を薄っすらと浮かべた。

 この顔、好きだな。


「所で先生、このあと暇?」

「言葉だけ聞いたらただのナンパだぞ。別にいいけど」

「やったぁ!じゃあ家行くね!」

「好きにしろ」


『キーンコーンカーンコーン』


 予鈴が鳴ると共に先生はお弁当の目の前で黙って手を合わせる。

 その姿を黙って見ていると、先生は片手を前に出して。

「ゴミ」

「え?」

「食べ物のゴミは食堂前に出さなきゃだろ。職員室寄るから私が持って行ってやる」

「あぁ、そういうこと。でも悪いですよ。もうちょっと一緒にいたいし」

「ここから職員室からだと遠いだろ。間に合うけどギリギリだし」

「うぅ……じゃあ頼みます」

「それと」

 先生は私の頭に手を置くと、先程見せた、私の好きな顔を浮かべてこう言った。

「お前、ダイエットしてんのか」

「…………へっ?」

「図星って顔。いや、お前食ってるもんがウ〇ダーゼリーってところでもうダイエットって思うだろ」

 いや、それだけで分かるのは先生だけだよ。

 私はそう思った。先生には銀子検定一級を授ける。

「お前は顔も良ければ体系も十分いいだろ、体重も平均だし」

「ちょっ!そ、そんな、誰かが聞いたりしたら」

「それに」

 私の頭に置いた手が頭の上で動く。

 撫でられたと気づくのには時間が掛かった。

「例えお前が、銀子が太っても好きだから」

「なっ……!」

「さてと。もう少しで授業始まるぞ、またな」

「ああ!もう!そういうところ!またね!」

 私はヤケクソにそう言って教室に向かった。






 もうお気づきの方はいるだろうが、私と先生は付き合っている。

 先生と生徒の恋愛、女同士の恋愛、私達は二つの業を同時に犯している。

 当然、周りの人たちには内緒で。



「銀子っていつもどこで食べてるの?」

 教室に帰ってきた響がそう言った。

「え?うーん、内緒かな」

「内緒ってなんだよ」

「まさか、トイレで食べているとか!?」

「なんだって!?銀子がイジメられてるのか!」

「そ、そんなんじゃないから!」


 かたひびき金剛こんごうつばさたか飛車びしゃ火南ひなん

 うるさいこの三人は私の幼馴染、私が幼稚園の頃に引っ越してからずっと一緒の仲だ。

 でも、そんな三人にも私と先生が付き合っていることを隠している。仕方ないね。


「もう、一人で適当に過ごすのが好きになってきたの。前にも言ったでしょ?」

「うーん、でも気になるし」

『キーンコーンカーンコーン』

「ほら、チャイムなったよ。この話は後でね」

「待ってよー!」

 心配されること自体は嬉しいけれど、関係が知られるのは死んでも嫌だ。

 いつまで隠し通せるか不安だし、明日は皆と食べてご機嫌を取っておこう。

「……本当に大丈夫か?」

 今にも消え入りそうな声から、私は目を背けた。


「あーい、じゃあ授業を始める。教科書の……」

 先生が少し遅れ気味に、けれど反省する素振りは一切せずに教室に入ってきた。

 先生以外なら私は許さないなーとかどうでもいいことを考えていたら、ぷつんと、教室の電気が全て消えた。

「停電か?……点く様子もない」

 先生が独り言を呟きながら電気のスイッチをポチポチと切り替えるが、一切反応は見せてくれない。

「別に、今までそういう気配は一切なかったですけどね」

「うーん……獅子山先生、職員室に———」


 先生が何か言おうとした時、突如、教室の床から大きな大きな光の円が浮かび上がった。

「なんだこれ!」

「ななななななんなんですううぅぅうう!!」

「いったいこれはなに!?」

 大声を上げる人も、ただ茫然とする人も、教室の外に逃げる人もいて、教室はパニック状態になる。

 先生はどうすればいいのか、私達にどう指示をすればいいのか分からず、その場でどうしようかと考えている。

 その間にも光は徐々に光度を上げていき、目を開けられないほど明るくなる。


 とりあえず、叫んだ。

 周りの皆もしているように、周りの皆の安否を確かめつつ、自分の存在をクラスメイト達に知らせた。

 しかし、そんな行動を無意味にするかのように。

 周りの悲鳴も物音も、さらには自分の声も聞こえなくなり、突然全身浮遊感に襲われる。


 目を瞑り、音は聞こえず、全身の感覚がない。

 怖い、怖い、一体これはなんなんだろう。

 クラスメイトの皆はそこにいるのかな。

 先生は、大丈夫なのかな。


 そんな状況が、だいたい一分くらい経った後。


 全身に感覚が戻り、尻もちをついた。

 周りからも「いてっ」と聞き覚えのある声が何人も上げていて、その声に安堵して、安心と共にうっすらと目を開ける。

 強い光の後だったから目が少し変な感じだが、うっすらと開けたその目線の先にはクラスメイト達がいて、先生の姿も確認できた。


 だけど、一つ不安があるとするならば。


 体育館よりも広く、真っ白な壁床、豪華なシャンデリアがぶら下がり、パッと思いつく言葉は結婚式会場だが、私達を囲う白いローブと黒いローブ、その人達は皆仮面を着けていて人、異質な存在を放っている。

 真下には先程教室で光った円があり、それは電池切れのように赤い線と文字が綴られている。



 ここは、どこ?

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