第4話小隅さんがゆく
人生終了のお知らせを受けた小隅さん。
引き続き、第2の人生を送ります。
さあ、今日から貴方は隙間暮らしの仲間です!
という茶番も程々に、小隅さんは隙間に棲む「彼ら」の仲間となった。
小隅さんは「彼ら」のことを度々「妖精さん」と呼んではいたが、今では当の自分が妖精さんである。
隙間での暮らしは意外に便利であった。
なんと、全ての隙間は繋がっていたのである。どこへ行くにも自由自在。そして、自分の存在自体自由である。
気紛れに悪戯をし、気紛れに人助けをし、気紛れに制裁を加え、気紛れに神隠しをする。
これこそ正しく「隙間暮らし」。
やったー!俺、自由!
歓喜に吠える小隅さんであったが、すぐにおとなしくなりいそいそと何かの準備を始めた。
彼は言う。世話になった人たちに、しておきたいことがあるんだ。と。
準備が出来たのか、どこかの隙間へ向かう小隅さん。
向かった先は、自分の棺。
まだ火葬されていない小隅さんの遺体は、未だ自宅にある。
棺の周りには小隅さんの家族を始め、親友たちや職場で特に世話になった、世話をした人たちが揃っていた。
そしてとうとう、最期の。最後の最期の別れがやってきた。
誰もが彼との別れを惜しみながらも、涙を流して列を作る。
そして、最初の1人が彼の死に顔を見ようとしたその時。
棺の隙間から手がにゅっと出てきた。
当然ではあるが、この手は遺体である元小隅さんの手ではない。新小隅さんの手である。
驚いて引く最初の1人。その手はゆっくりと握手を求める。
最初の1人は、ある日小隅さんが言っていた「隙間の妖精さん」のことを思い出す。
恐怖に震える手を出すと、隙間から出された手は意外な程に優しく手を握ってくる。
この握手は、小隅さんの握手だ。
気づいてしまえば、後から後へと涙が溢れ出してくる。
この手は、あの小隅さんの手なのか。
小隅さんは最期の別れとして、親しい人たちに話していた「隙間から」メッセージを贈る。
ある人には借りていたボールペンを。
(貴方の助けはいつでも嬉しかった。ありがとう)
ある人には肩を思い切り叩き。
(笑え笑え。お前の笑顔はいつでも周りを明るくする)
ある人には拳をぶつけ合い。
(最後まで競えなくてごめんな。後は任した)
ある人には居酒屋のクーポンを。
(来週の約束、守れないな。みんなで笑って行ってきてくれや)
ある人たちには日記の仕舞われた引き出しの鍵を。
(今までありがとうございました。俺は幸せでした)
ある年下の人には自室の鍵を。
(じゃあな。あそこにある物、全部おまえにやるよ)
そして最後に
小隅さんは隙間から出した手を大きく振って、さよならを告げた。
なんとも小隅さんらしい最期である。
そして、静かにその手は隙間に戻って行く
ように思われたが、ここは小隅さんである。
親指を上に立ててグッと拳を握り、ゆっくりと隙間に沈んでいくような演出を見せた。
(あいるびーばっく…)
(俺はいつでも隙間に、お前たちの側にいるんだぜ)
最期の最後にやらかしたこれには、その場にいた誰しもが顔を笑顔にさせた。
これにて、小隅さんの人としての人生は幕を閉じた。
ここからは「スキマハンター・小隅さん」の誕生である。
昔から憧れていた正義のヒーローになるチャンスだ!
やりたいようにやっていくぜ!
まずは毎日子どもを見守るだろ?
ストーカーは全て排除しなくては。
机の中からいじめとカンニングを防止するだろ?
パパラッチの鞄から手を出して、恐怖映像にしてやるのもいい。
政治家のポケットからキャラマスコットをチラ出しして笑いの種にしてやろうか。
みなさんに言いたいことがあります。はい。
俺は隙間に棲んでいる「小隅 夕(こすみ ゆう)」です。元人間です。はい。
今では立派な隙間の妖精さんです。はい。
みなさん、聞いてください。
隙間には「妖精さん」が棲んでいるのです。
俺のような正義のヒーロー気取りの「妖精さん」がわんさかいます。
悪いことをしても、悪いことをしなくても。
良いことをしても、良いことをしなくても。
俺たち隙間の妖精はみなさんを見ています。監視しています。
警察より、何より近いところから見ているんですよ。
だって、一番近い隙間は貴方の「心の隙間」でしょう?
俺たちはそこにだって潜んでいます。
じゃね。
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