第31話 どんなに嘆いてもこの時には戻れない



 しかし、私が近づいていくと勇者様は、死にものぐるいで抵抗を始めてしまいました。


「魔王の元から姫を救い出さなければ」


 と。


 自分の体が傷つくのもおかまいなしです。


 それは、魔王の元から私を助け出した時の比ではありませんでした。


 勇者様の猛攻に、魔王様は息も絶え絶えになってしまいます。


 魔王様自身の言葉を信じれば、死ぬ事はないのでしょう。


 しかし、私はいてもたってもいられませんでした。


 魔王様の前へ飛び出します。


「魔王様、しっかりなさってください!」


 へたをしたら殺されるかもしれません。


 けれど、魔物と人間の関係を考えるなら、魔王様を死なせるわけにはいきません。


 助けてもらった恩もあります。


 一人の人間としても、姫としても、魔王様を守らなければ。


「あの、勇者様、魔王様は必要なお方なのです。どうか殺さないでください」


 だから、緊張のあまり何を言ったのかおぼえていませんでした。


 優しい魔王様が「出てくるなと言っただろう」と制止する言葉と、「クリスティーゼ姫?」と信じられないものを見るような勇者様の顔だけが記憶に強く残っています。


 やがて、勇者様は何かをあきらめたような顔で去っていきました。


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