第42話 潜入捜査(5)ライバル
探すと言っても、この建築中のビルの敷地内だ。たかが知れている。そう思っていたのに、意外と見つからない。
「もう持ち出されているんじゃ……」
イチが言うが、あまねは首を捻った。
「周辺に隠し場所があるのか?それとも、受け取りに来る誰かがいたのか?」
そして並んで考え、同時に言った。
「無理だな」
意見は一致した。
このシートに隠された敷地内ならある程度の自由はあるが、外に出たりできないようには管理されている。鍵は勿論のこと、センサーが仕掛けてあるので、出入りする人間がいればすぐにわかる。それに、唯一の入り口は、運転していた「正社員」も見張っているのだ。
薬はトラックに積まれたままで、そのトラックは、エントランスになる予定だった場所に駐車してあった。
階段にも近いが、物音で目が醒めるほどには近くはない。
ここからどこに隠せるというのか。あまねはエントランスホールを眺めてみた。
と、やけに青い顔でガタガタ震えている青年がいた。
「大丈夫か」
そう声を掛けたら、飛び上がって、怯え切ったような目であまねを見返した。
イチが声を潜めて訊く。
「まさか……お前か」
彼は分かり易く動揺し、あまねとイチは嘆息した。
「お前がしたとは言わないから。どこに隠した?」
彼は観念したように俯いて、蚊の鳴くような声で言う。
「トラックの下。タイルが外れるようになっているんだ。そのタイルを外せば、穴があって」
「灯台下暗しだな」
イチが言った。
あまねは辺りの様子を探った。
探し回ってるので、今は全員が敷地内に散っている。今なら見張りもいない。
「何でだ。それとペアは」
彼は俯きながら言う。
「トイレ。緊張したらお腹に来るタイプなんだって。
借金があって、返済のためにこの仕事をさせられてる。妹は今中学生で、卒業したらソープに行かされるから、早く何とかしないとと思って……」
一発逆転を狙ったらしい。あまねとイチは溜め息をついた。
もうすぐここに、幹部とキングと呼ばれるトップが来る。そこを捕まえられれば一網打尽だ。組織の魔術士も逮捕できる。
「わかった。
今ならここを抜け出せる。あるところに電話をして、打ち上げ花火で突入って伝えてくれないか」
あまねはそう頼んだ。
言いながら、イチの反応を窺う。
イチは顔色を変え、あまねを鋭い目で見た。
「サン。お前」
「イチ。邪魔するなら、眠っていてもらう。緊張から昏睡する体質だ」
「あるかそんなもん」
小声で言い合う中、あまねは杖をイチに向け、イチはどこに隠していたのかナイフをあまねに向けている。
「何もんだ、サン」
「……警察だ」
それに、イチは舌打ちをしてナイフをしまった。
「だからか。警察は相性が悪いんだ。いつもこっちの仕込みの邪魔をしやがって」
「お前は?」
「厚生省」
「マトリ」
「ああ」
あまねとイチはお互いに納得した。
どちらも薬物を取り締まるが、やり方などが違う。それで昔からお互いに邪魔し合う結果になってしまう事があり、仲は良くないのだ。
「潜入してたのか、イチ」
「ああ。新種の薬物の出所がこいつららしいとわかったんでな。
そっちは」
「僕は公安の6係だ。魔術士が窃盗団にいるんで、潜入をな」
そこで、お互いの顔を見た。
「先に潜入してたのはこっちだ。これはうちが挙げる」
「近くに仲間がいるから、保護してもらえるし、キングと幹部が来たところを一網打尽にできる。そっちはできるのか?」
イチは悔しそうに唇を引き結んだ。
「そういう事だから」
あまねは紙の切れ端に電話番号を書いて、10円玉を10枚程持たせた。
「いつもの温泉に公衆電話があったから、そこに行ってかけろ。走れば7分ほどで着く。それで、そのままそこで待ってろ。僕か仲間が迎えに行く」
そう言って、センサーを切って青年を送り出した。
「おい。どういう意味だ、花火とか」
「魔術で突入の合図を送るんだよ」
「窃盗はともかくだ。クスリの方はうちで引き取らせてもらうぞ」
「僕に言われてもなあ。その辺は上の連中が決めるんじゃないか?」
イチもそう思ったのか、渋々了承した。
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