第32話 復讐の炎(6)冬休みの後
令音も希も、警視庁に着くとまずはおにぎりとカップ麺を食べさせ、その後で事情を訊いた。
勿論その間、あまねとヒロムも事情を説明し、チンピラの一部を回収して来たが、組対が舌なめずりをして引き取って行った。
令音は無理心中を謀ろうとする両親に驚いて、火の魔術を覚醒させてしまったのだった。しかしその後しばらくはそれもよくわかっておらず、街でたまたま見かけた取り立て屋をビルまで尾け、「こいつらのせいで」と腹立たしく思っていると、窓の近くに火が付いたと言った。
全くの無自覚のままの、事故のようなものだ。
魔術に覚醒したばかりの初心者には、ありがちな事象だ。
「神崎君は、その力をコントロールする方法を覚えるために、専門の学校へ行かないとな」
ヒロムの言葉に少し不安そうな顔をする令音だったが、希が、
「私も今そこにいるのよ。検査前に覚醒してしまった子がほかにもいるわ」
と言うと、途端にほっとしたような顔をする。
「希ちゃんと一緒なら……」
希は頷き、言った。
「私はもうすぐにでも出るつもりなんだけど」
「え」
「まずは6係の戦力になりたいわ。あまねのお嫁さんになるのはその後よ」
あまねは固まり、令音はライバルをキッと睨みつけ、ヒロムは爆笑した。
「のの希、まだ早いよ、な?」
「ええ。だからまずは婚約ね」
「ちっがーう!」
「私、役に立つ女でしょう?」
真剣な顔とその言い方に、ヒロムは呼吸困難寸前だ。
「やめて。お願いだから。社会人失格者のレッテルを貼られるから」
あまねは机に突っ伏して半泣きだ。
騒ぎを見ながら、笙野は、
「当分希はまだ学校へ入れておいた方がいいみたいね」
と呟いたのだった。
ケーキバイキングへ行き、初詣に行き、全力での羽根つきでヒロムと勝負し、そうして希は学校へ帰って行った。
遅くなったクリスマスプレゼントとして童話を買い与えたのだが、欲しがった料理のレシピ本も一緒に、大事そうに抱えていた。
「良かったな。嫁の来てが見つかって。まあ、ライバルもできたけどよ」
「やめろよ、マジで」
「でも、まあ、希も子供らしくなって来たなぁ」
その希と真剣に羽を打ち合い、負けて本気で悔しがっていた大人のはずのヒロムが言う。
「あとは令音君だな」
「まあ、希に夢中になったのは、プラスになるだろ。
ライバルだからって攻撃されるかも知れねえけどな」
「本当に勘弁して欲しいんだけど。
というか、係長。僕、希の身元引受人じゃないですからね。お願いしますよ」
笙野はあまねに言われて、言う。
「知ってる人間って、一番は深見で、二番は悠月だからねえ。深見と引き離されて心細いんでしょうし」
「学校へ入る前ならそうでしょうけど、今は社会にも慣れて来たし、知り合いも増えたし、刷り込みみたいなもんだから、やめさせて欲しいんですけどね」
「ま、考えとくわ」
全然考えていない顔で笙野は言い、話はここまでと真面目な顔付きに戻った。
「でもさあ、希、美人になるぜ」
ヒロムがニヤニヤするので、
「じゃあ、お前が婚約しとけよ」
とあまねが言うと、ヒロムは、
「オレはもっとこう、巨乳のお姉さんが好みなんだよなあ」
と締まりのない顔でフニャッと笑う。
「嫌らしいです」
マチが胸を隠すようにして言った。
「とにかく、女の子を引き取るとか気を使うよ。今度はマチか誰かがやって下さい。
はああ。これで今晩はゆっくりできる」
あまねが言った時、笙野が声を上げた。
「乱闘騒ぎが発生。待機班は3班ね。出て。
それから魔術強盗が発生。4班、出て」
ブチさんが苦笑した。
「ゆっくりはお預けだな。行くぞ」
あまねは嘆息してから表情を引き締め、4班は部屋を飛び出して行った。
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