第6話 爆ぜる魔術士(5)警察へ乗り込んだ犯罪魔術士
そっとまずは様子を窺った。
犯人は20歳前後の男が1人。杖を来庁していた一般人に突き付け、ニヤニヤとしている。
「あいつ、誰だ?うちに恨みがあるのか?」
ヒロムが訊くと、刑事課の刑事が小声で応えた。
「谷川大地」
「何か、自然豊かな名前だなあ」
「中学高校とワルの仲間に入ってたやつだが、所詮は使いっ走りだった。高校3年生の時、因縁のチームを闇討ちしようとしたのを通りすがりの魔術士に見つかって、いともあっさり全員が抑え込まれたらしい。
それで、目的が果たせなかったのも、補導歴で就職できなかったのも、全部警察と魔術士のせいだって仲間に言ってたらしい」
「言いがかりだな」
「八つ当たりも甚だしい」
全員で溜め息をつく。
「それと、やつは魔術士じゃなかったはずだ」
「またか」
そして、作戦を立てた。
あまねがまず、男の前に出る。
「魔術班の者です。落ち着いてお話をお伺いします」
「うるせえ!!」
男が歯を剥いて怒鳴り、杖を突き付けられている人質も運悪く来合せた来朝者も、ヒッと声を上げて身を縮めた。
「まあまあ、落ち着いて。あなたの名前も目的も知らないんですよ」
言いながらゆっくりとあまねが近付いて行く。
「止まれぇ!
お前ら魔術士のせいで、デカイ面をするあいつらを叩きのめす事ができなかったんだ!それで、補導されたせいで、就職もバイトすらもできないんだぞ!」
何人かの人質が、ん?という顔を犯人の男に向ける。
「補導歴は公開されないし、暴力事件を起こしそうなら放っておけませんしねえ。
その時の相手が魔術班だったんですか?」
「いや。ただの警察だよ。いつもの地域課のポリ公だった」
また何人かが首を傾ける。
「ええっと?じゃあ、何で魔術班を?」
「魔術士が割って入って警察に補導されたから、警察の魔術士を殺せば一石二鳥だろうが!バカか!」
お前がばかだろうと、何人が思った事だろう。
あまねは交渉係が苦痛になって来た。
イヤホンに、待っていた合図が入る。
「いや、バカみたいな理屈だな」
「何!?」
「補導されたのは当たり前だし、就職やバイトがダメだったのも、別に警察のせいじゃないし。八つ当たりだよ」
「何だとぉ!?お前から殺してやる!お前が!おまえ、があ!」
人質を突き放し、男が杖をあまねに向けて引き金を引く。
それをあまねは、背後に差し込んでいた魔銃杖を引き抜いて男に向け、キャンセルする魔術を放つ。
2つの魔術がぶつかり、空中で消えた。
「なんでだよお!?おれ、は、魔術、士、に、なったん、だ――!」
見る見る男の顔が赤くなる。
その男に、カウンターや背後から身体強化をかけて接近していたヒロムとブチさんが襲い掛かり、杖を取り上げ、拘束しようと腕をねじり上げる。
「はな、は、はなせ」
男はどうにか言葉を発するが、その間にも、顔が膨らんで行く。
「離れろ!!」
あまねに言われて、瞬時にヒロムは飛びのき、ブチさんと、人質を抱えたマチも離れる。それを確認しつつ、あまねが男の周囲に風の幕を張って覆う。
それに、赤黒い色が付く。まるで、ミキサーにトマトでも入れてスイッチを入れたようだった。
「まさか!?」
ヒロムが顔色を変える。
「ああ。破裂死だな」
一般人には見えないようにしながらあまねは言い、解放された人質達を見た。
中に深見がおり、食い入るような目でそれを眺めて、目を輝かせていた。
「深見先生。なぜここに?」
「いやあ、たまたまです。落とし物を、届けようと」
笑ってそう言った深見は、新品にしか見えない財布を掲げて見せた。
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