第16話 一週間後……
「あ~~、今日も働いたー」
部屋のベッドに腰掛けぐっと伸びをする。ぱきぱきと鳴る骨の音を聞きながら、そのままベッドに倒れ込んだ。
仰向けになった俺の目に飛び込んでくるのは、見慣れた梁と天井。
この部屋にはじめて案内されたのは、もう十日以上前になるだろうか。そりゃ見慣れもするだろう。
一週間ほど前。芋掘り&ユエちゃんのお守りで一日を終えたあの日。二つのクエストを達成したことでレベルが一つ上がった。
マーモット退治にいそしんでいたときと比べると、なんともあっさりとしたものである。
その日からは、雑貨屋のばあさんのメモを頼りに、仕事仕事散歩と依頼達成の毎日だ。
ホントいろんな仕事をしたよなぁ。
例えば掃除。錬金術師のお姉さんがこの街でポーションを売ってるんだが、そのスマートな見た目と違って片付けが苦手だ。
いや、それは正確な表現じゃないか。見えないところは極力手を抜こうとするんだよな、あの人。
船からこちらに運んできたであろう商品が、最低限店に出してあるもの以外は全部箱に入れたまま適当に放置されているんだもの。
あれの整理はしんどかったなぁ。まぁ、報酬に渡されたポーション類、これが結構質がよかったからいいんだけどね。
それになにより、眼福にあずかれたのが一番の報酬だ。いや、あの人、外に出るときはピシッとしてるのに、うちに入ると途端にだらしないというか、無防備になるんだよ。……ありがとうございます。
あとはそうだな。ファニートラップという店で服のモデルなんかもした。
いやまあ、メインはユエちゃんで俺は添え物だったんだが……。
っていうかあのおっさん、もといおねぃさんは明らかに俺のクエストをだしにしてユエちゃんを呼んでるよ。
俺そっちのけで、ユエちゃんにいろんな服を着せて楽しんでるんだもの……。
まぁユエちゃん自身もいろんな服を着られて、且つお土産にその服を全部持たされて、大変ご満悦。Win-Winの関係だったからいいんだけどさ。
俺も報酬で、その時に着せられた服をいただいた。これがまた冒険者用としても十二分な性能をしているもんだから、文句の付けようもない。
他にもいくつもの依頼をこなした。どれもちょっとした頼み事の域を出ないものではあったものの、逆にそのおかげでいろんな経験ができた。
エインヘリヤル以外の知り合いも増えたしな。
俺が開拓使が受け付けてないような細かい依頼をこなしていることも認知されてきたようで、何日か前からは直接“妖精のとまり樹亭”に依頼を持ってきてくれる人もいるくらいだ。
伝言に使われたおっちゃんには怒られたけれども……。
まあ、そんなこんなで依頼をこなし続け、気づくと加護のレベルが10まで上がっていた。〔エルルーンの冥助〕さまさまだ。
無論クラスのレベルも上げ、新しいスキルも入手した。
改めてステータスウィンドウを表示し眺めるも、その成長ぶりに頬が緩んでしまう。
https://32334.mitemin.net/i515953/
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名前:コダマ・パサド
種族:ヒューマン
加護:エルルーン Lv10 ↑6
GP:0
クラス:ウェポンマスター Lv5 ↑3
妖精使い Lv3 ↑2
エッグマスター Lv5 ↑4
能力値:肉体(10)
能力値:感覚(13)
能力値:精神(10)
能力値:信仰(12)
アビリティ
戦乙女の祝福 Lv1
戦乙女エルルーンの冥助 Lv1
共感 Lv5 ↑4
武器習熟 Lv5 ↑4
スキル
精神感応 Lv1 new
―――――――――――――――――――――
クラスのレベルと取得済みのアビリティをそれぞれ上げたのまでは、順当なレベルアップと言っていいだろう。
新しく〔ホワイトレディ〕のアビリティを取得しようかと迷ったんだが、それは保留した。
理由は待望のnewスキル、〈精神感応〉の取得が解禁されたからだ。
この〈精神感応〉というスキル、《エッグマスター》のクラスレベルと〔共感〕のアビリティレベルが両方5になったところで取得できるようになった。
だが、取得のための消費GPが10と重く、今日のレベルアップでようやく取得に至った形だ。これの取得のために〔ホワイトレディ〕は見送った。いずれはこれも取得したいんだけどね。
ちなみにこの〈精神感応〉の効果は、獣魔を含めいろいろなものとの、言葉を介さない意思疎通――ただしなんとなく――が可能になるスキルらしい。
〔共感〕のアビリティとなんの違いがあるんだよと思ったが、フジノキ曰く「アビリティはキャラクターの土台や基礎能力、スキルはできることを表すから、違うものなんだよ」とのことだ。
その辺の違いについて細々と説明してくれはしたんだが、いまいち理解できんかった。
何か変わるかと思いとってはみたものの、今のところ大きな変化はなし。
卵に話しかけてもうんともすんとも言わない。まぁ、卵が意思表示をしてきたら、それはそれで怖いけどな。
レベルが上がったら何か変わるかもだけど、パッシブ能力だから意識的に使うものでもないしなぁ。
上がったら、それこそ念話みたいなスキルでもとれないかと期待してるんだが……。
うーん、やっぱ卵に話しかけるしかないのか……。
他にこの一週間で変わったことと言えば、やはり大きなものは“妖精のとまり樹亭”のお客さんが増えたことだろう。
雑貨屋のばあさんのところの看板の効果か、その日からポツポツと開拓者が来るようになり、今では夕飯時には結構なお客さんが入っている。
今晩もおっちゃんはもちろんのこと、ユエちゃんやソレイユさんもうウェイトレスとして忙しくしていた。
看板の件についてもおっちゃんに「勝手なことするんじゃねぇ」とげんこつを落とされたけど。その時も顔は笑っていた。まあ悪いことではなかったのだろう。
それに、お客さんが増えたことでちょっとした副産物もあった。なんと、“妖精のとまり樹亭”に定休日ができたのだ。
以前は開店休業状態だったから休みなんてものは設定してなかった。だけどお客さんが増えることで、さっきも言ったようにユエちゃんもうウェイトレスで手伝うようになったからつくった形だ。
くるくると働くその姿は微笑ましく、来る人来る人からかわいがられているのだが、そのおかげでユエちゃんは外に遊びに行くことがなくなってしまったのだ。
もちろんおっちゃんも「手伝わなくていいから適当に遊んでろ」と言ったのだが、ユエちゃんは頑として聞かずウェイトレスを続けた。全く頑固なものだ。一体誰に似たのやら……。
まあ、そんなこんなで困ったあげくひねり出したのが定休日だ。
この定休日――おとといがそうだった――を利用してユエちゃんとはピクニックに出かけた。
もちろんまたユエちゃんに手を引かれてだが、その日はカネティスも一緒だ。
ユエちゃんが俺とカネティスの手を引いてのお出かけだ。
ユエちゃんはもちろんのこと、カネティスも終始ご機嫌だったなぁ。なんか昔のこと、引っ越してカネティス、いや暁ちゃんと分かれる前のことを思い出してしまった……。昔はあの子、どこに行くにも後ろをひっついてきたからな。
ま、この間は俺じゃなくてユエちゃんに引っ張られてたけどね……。ユエちゃんに振り回されつつも、それが楽しくて仕方ないといった風のカネティスを見て、昔を思い出してしまったわけさ。
あの日の弁当が、豪華ピクニック仕様だったのも、楽しさに拍車をかけたのかもしれないな。
あ、ちなみに豪華ピクニック弁当の制作者であるおっちゃんはというと、ソレイユさんと二人でお出かけしていた。夫婦水入らずのデートでも楽しんだのだろう。
っと、いかんいかん。
ぼうっと天井を見ながら物思いにふけっていたら、結構な時間がたってしまった。
明日は喜助さんにナイフの使い方を教えてもらうんだ。早く寝ないといけないのに……。
実は昨晩、真理恵さんと喜助さんが二人でご飯を食べに来てたんだ。その時よければ教えてくれないかって頼んだら、快諾してくれた。
明日は真理恵さんの方が忙しく、喜助さんは手隙になるらしく、ちょうどよかったらしい。この街の地下遺跡で稽古をつけてくれるとのことだ。
初の遺跡……。楽しみだ。
期待に胸をふくらませながら、俺は眠りに落ちた。
◆
「おう、もう行くのか?」
翌朝、冒険の準備を終え一階に下りてきたところで、おっちゃんに声をかけられた。
ちなみにユエちゃんはまだ朝寝中だ。お疲れらしい。
「ほらよ、持ってけ。あの爺さんの分も詰めてある」
ぶっきらぼうに突き出された手には、包みが二つ。二人分のお弁当を作ってくれたようだ。
これは喜助さんも喜ぶだろう。さすがおっちゃん、気が利くな。
「ありがとうございます。それじゃあ行ってきますね」
頭を下げ出かけようとする俺を、おっちゃんが呼び止めた。
「あー、ちょっと待て。ときにコダマ、今日はいつくらいに帰ってくる?」
「え!? 今日ですか? 日暮れ時には帰ってくるつもりですけど……」
なんだろう。帰る時間を聞かれるなんて初めてだ。
「いやな、今日はソレイユと二人で出かける用事ができてな、昼から出かけるのよ。店も臨時休業にした。もしかしたらだが、夕飯時になっても帰れねぇかもしれないんだわ。だからよ、俺たちが帰ってなかったら、一緒に庁舎にでも飯を食いに行ってくれねえか?」
おっちゃんが困り顔でひげをしごく。
「もちろん大丈夫ですよ。でもそれなら、喜助さんに断りを入れても……」
ユエちゃんに一人留守番をさせるのもと思って提案する俺の背中を、おっちゃんは乱暴に押す。
「はっ。ガキがいっちょ前に気ぃ使ってんじゃねぇよ。英雄目指してんだろ? ただで人から教えてもらえる機会なんざ、そうはねぇんだ。さっさと行け」
確かにおっちゃんの言うとおりではあるんだが……。いや、ここはおっちゃんの言うとおりにしよう。後ろ髪を引かれつつも首を縦に振った。
「わかりました。それじゃあいってきます」
「おう、いってきな」
おっちゃんに押されるがまま、“妖精のとまり樹亭”をあとにする。
「それじゃあユエのこと、よろしく頼むぜ」
俺の背に、ぽつりとそんな言葉が投げかけられる。
おっちゃんも、ユエちゃんが一人留守番をするのは心配なのだろう。俺も早めに帰るのを心がけないとな。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
エルのひとりごと
画像の方には書いてるんだけど、アビリティはGPをつかってレベルを上げる。スキルやアーツ、マジックとかは取得はGP、レベルは使用することで上がるんだ。
GPを使用することでレベルを上げることもできるけど、厳密には底上げって感じかな。
だから追加分はキャップを超えることもできるんだけどね。
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