第4話 キャラメイク

「よーし。それじゃあキャラメイキングを始めるよ」


 エルは居住まいを正し声を上げた。


「最初はクラス設定。いわゆる職業選択ってやつだね。選べるクラスも多いし時間もないから簡単な説明のみ表示してあるよ。詳しいことが知りたければ、あらためて言ってね」


 エルがヴァルホルサーガの本を開くと、目の前に半透明のウィンドウが立ち上がった。そのウィンドウには様々なクラスと、それについての簡単な説明が書いてある。



 ―――――――――――――――――――――

 ☆見習い戦士

 武器を使う戦闘職の見習い


 剣術士

 主に剣を使う戦闘職

 

 精霊術士

 精霊術に長けた戦闘職

 ・

 ・

 ・

 ―――――――――――――――――――――



 といった風に。ざっと見ても百はくだらないだろうか。その数に圧倒されていると、エルが話しかけてきた。


「その中で最大三つまで取得することができるよ。☆のついているクラスは、今ここでしか取得できないやつだね。ゲーム中には取得できないから注意! 逆にゲーム中にしか取得、転職できないやつもあるよ。ちなみに見習い○○ってクラスは、ようはお試し職! いろんなことができる代わりに能力に制限がかかる。でも専門職への転職はローコストでできるよってやつになるよ」

「なるほど、例えば前衛やりたいけど武器は決めてないから見習い戦士をやって自分に合った武器を決める。剣が性に合ってるなら剣術士に転職って感じかな」

「そうそう、他にもみんなを守りたかったら、盾術士に転職するって方法もある。それじゃあじっくり悩みつつも急いで選んでちょうだいな」


 ふむふむ、これは悩む。

 武器を使って戦いたいっていうのもあるし、せっかくのファンタジー、魔法を使いたいって言うのもある。

 だけど体験ムービーでの適性は、所謂テイマー、サモナー職だった。ならそれ系のクラスにも就きたい。

 俺自身は特に職にこだわりがない分、こういうときに困るなぁ。金長ならヒーラー一択だろうに……。

 MMOなんだから、もちろんどれかに特化した方がいいんだろうけど……。う~ん、悩む。


「ずいぶん悩んでるみたいだけど、時間がないよー。他にも設定することはあるんだからね」


 エルがせかしてくる。

 そうだな、時間もない。こうなったらなるようになれだ。


「……よし、決めた。この三つにする」


 俺は選んだクラスをエルに見せた。



 ―――――――――――――――――――――

 ウェポンマスター

 あらゆる武器の取り扱いに長けたクラス


 妖精使い

 妖精が手助けをしてくれるクラス


 ☆エッグマスター

 自分専用の使い魔が孵る卵を持ったクラス。

 ―――――――――――――――――――――



 コンセプトは、やりたいことは全部やれるようにする、 だ。

 ウェポンマスターでいろんな武器を使って、卵から孵った使い魔とともに戦う。さらには妖精使いでそれをサポート。

 もし使い魔が外れだったり卵が孵るのに時間がかかっても、妖精使いがあれば大丈夫。魔法も妖精がいれば擬似的に使えるかもしれない。

 逆のパターンでも、どれかしらが他のクラスのサポートができるだろう。

 ふ~む。我ながら完璧ではないのか?

 そう思ったが、エルは俺の選んだ三つのクラスを見て渋い顔をした。


「本当にそれでいいの?」


 エルがおずおずと尋ねてくる。


「確かに中途半端になるかもしれないけど、βテストだしね。色々試してみたいからこれでいいよ」


 そう、せっかくのβテスト。本番前に色々試すのも悪くないだろう


「……それならいっか。最悪、管理AIのイザヴェルが詰んだりしないように調整はしてくれるはずだしね」


 頷きエルがページをひとつめくる。


「よーし、時間もないから次に行こー。次は種族と能力値だ!」


 エルの動きに合わせ、目の前にウィンドウが移り変わった。



 ―――――――――――――――――――――

 所持AP:25

 ―――――


 種族:人族 AP:0

 ごく一般的な種族。

 特殊な能力はなく、能力値も平均的なものとなっている。


 能力値:肉体(10)

 力強さや肉体抵抗。その人の持つ運動能力。

 重武器や単純武器の取り扱いにも影響。


 能力値:感覚(10)

 器用さや察知能力。回避能力。

 軽武器や複雑な武器の取り扱いにも影響。


 能力値:精神(10)

 意志の強さや精神抵抗。

 魔法の行使にも影響。


 能力値:信仰(10)

 戦乙女との関係性。

 肉体抵抗や精神抵抗に補正。

 神や祖霊、精霊等の力を行使する際に影響。

 


 ―――――

 

 種族:エルフェン族 AP:10

 夜目が利き、機敏で魔法の行使にも長けた種族。

 反面体力的にはもろい。

 ・

 ・

 ・

 

 ―――――――――――――――――――――


「さて、以上12の種族の中から一つを選んで、能力値を決定してちょうだい。能力値を+1するごとにAPを5消費、+4以上は7消費。-はひとつまでで、獲得できるAPは5だよ。余ったAPはゲーム内に持ち越せるし、ゲーム中に獲得したAPでも能力値を上げられる。だけどその場合APの消費は倍になるから注意してね」


 なるほど。それなら、後に能力値を回さずに、できるだけここで使い切ってた方がいいか……。

 とはいえ俺のクラスの取り方から考えると、どこかに特化するのも難しいし。うーん、どうしようか。悩むなあ。


 ……よし、これでどうだ。



 ―――――――――――――――――――――

 所持AP:0

 ―――――


 種族:人族 AP:0

 


 能力値:肉体(10)


 能力値:感覚(13)


 能力値:精神(10)


 能力値:信仰(12)


 ―――――――――――――――――――――


 決定したステータスを見て、エルはふむふむとうなずいた。


「なるほど、なかなか面白いねー。ちなみにどうしてこの能力値にしたのさ?」

「肉体をあげなくても感覚をあげてれば戦闘はできるかなと」

「ふむふむ、それじゃあ信仰はどうしてあげたの?」

「ああそれか……それはまあ、せっかくエルと仲良くなれたし、記念にあげてみた。この能力値、戦乙女との関係性を示すんだろ?」

「え!? それはその、そうだけど。……うん、ありがと」


 エルが指をもじもじさせ、上目遣いでこちらをうかがってくる。効果は抜群だ。

 ……いやまて、そうじゃない。ここは「妖精使うために信仰必要だからあげたんだろー」とか言うところだろ? AIなのに、さっきから照れたり怒ったりと、感情表現豊かすぎじゃないですかね。これじゃあ本当のことを言い出せないじゃないか。


 …………よし。なかったことにして、話を先に進めることにしよう。

 その前にまずは、まだもじもじくねくねしてるエルを正気に戻さないとな。


「おーい、エル。次は何の設定をすればいい?」


 軽くエルのおでこをつつくと、はっとしたように目をしばたかせた。


「――あう! ご、ごめんよー。えっと、次は容姿の設定だね」


 エルはぺらりとページをめくる。


「これに関しては時間もないし、僕としてはランダムをおすすめするよ」


 ランダムかー。昔、洋ゲーで容姿をランダムにしたら、なかなかひどいことになったんだよなぁ。

 ……悩むな。かといって時間もないし、仕方ないか。


「なんだか心配そうな顔をしてるけど、多分大丈夫だよー。完全にランダムって訳じゃなくて、現実の容姿に合わせた形でのランダムもあるからね」


 へー、そういうのもあるのか。


「ふむ。例えば髪の色とか瞳の色が変わったりする感じ?」

「うんうんそんな感じだよ」


 エルは大きく頷いた。


「後は能力値に合わせて肉付きが変わったり、特徴的な痣ができたりとかかなぁ。それだけでも結構印象変わるんだよねー」


 理解が早くて助かるよーと、エルは満足げに再度頷く。


「わかった。それじゃあ、そのランダムでよろしく頼む」

「おっけー。ほいっとな!」


 エルが手を振ると、ポンッと言う音とともに、部屋の姿見に映り込む姿が切り替わる。

 そこには一人の人物が写っていた。

 髪は藍に白のメッシュがかかった色。それを編み込み、長めのオールバックにしてまとめている。

 目つきが少し鋭くなっていて体つきは若干締まった感じはするが、体格自体はそんなに変わらない、かな。

 全体的に、現実の俺を美化した感じだ。


「ふっふっふー、どーだ! なかなかにかっこよくなっただろう。さっきのお礼に僕がしっかりと監修したからね。違和感はなく、それでいてファンタジー感のある絶妙なかっこよさだ」


「お、おう。ありがとう」


 額を拭うそぶりで達成感を出すエル。そんな彼女を見てるとなんだか少し申し訳ない気持ちになってくる。お礼って言われてもただの軽口、冗談のつもりだったのになぁ。


「よーし! 次が最後だよー。ここではどの戦女神から加護をもらうか選んでもらうのさ」


 目の前のウィンドウに、ずらりと名前が出る。


「それぞれにメリットとデメリットがあるからしっかり考えて選んでね。一応加護のレベルが上がればデメリットを少なくしたり、逆にメリットを伸ばしたすることもできるけど、それはまだ先の話だからね。とはいえ時間は残り少ない。あの時計の針が0を指すまでだったら一陣に間に合うようにするから、いそげいそげ―!」


 エルが指さす先を見ると、長針はもうすぐてっぺんを指そうとしている。後数分もない。ゆっくり悩む時間はなさそうだ。

 急いで目の前のウィンドウに目を落とす。


 ―――――――――――――――――――――

 ・アルヴィトル

 ・エイル

 ・エルルーン

 ・ゲイルドリヴル

  ・

  ・

  ・

 ―――――――――――――――――――――


 全部で12か。さすがに全部のデータを見比べる余裕はないな。こうなったら……。

 俺はぐるりと周りに目を向けた。

 すると、こちらを見ていたエルと目が合った。


「?」


 エルは小首をかしげている。

 うん、そうだな。せっかくだしそうしよう。


「よし、決めた。エルルーンの加護をもらうことにするよ」

「お、あっという間に決めたね。ちなみに何でそれを選んだか聞いてもいい?」

「ん? ああ、エルと名前が一緒だからな。正直効果とかは見てない。まぁこれも一つの縁ってやつだ」


 俺の答えに、エルはきょとんとし――、


「んふふー、ありがと」


 ――その顔に花が咲いた。


「よーし。それじゃあこれでキャラメイキングは終わり。これからキミを送り出すことになるけど、最後に少し注意点を。このヴァルホルサーガVRの体感時間はものすごーく加速されている。だからいったんログアウトしてしまうと再度同じキャラでのログインはできないんだ。そして一定条件を満たすか、一定時間――外部時間で3時間、内部時間で2年――たつと終わり。ゲームクリアになって、ランキング表彰に移る。詳しくは中でヘルプを見てね」


 内部時間が2年!? 聞き逃せない言葉にエルを止めようとするが、本当に時間がないのか彼女は早口でまくし立てる。


「他は……。うん、こんなものかな。よーし、それじゃあコダマの冒険に幸多からんことを。僕はキミのことを応援しているよ。いってらっしゃい」


 そう言ってエルが小さく手を振ると同時に、視界が白く染められていく――。


「また会おうね」


 ――最後にそんなつぶやきが、小さく聞こえた気がした。


――――――――――――――――――――――――――――――――――

GameTips:戦乙女の加護について


加護の種類は12種類(エイル、ゲイルドリヴル、ゴンドゥル、ヘルフィヨトゥル、アルヴィトル、フロック、エルルーン、シグルーン、ラーズグリーズ、ランドグリーズ、レギンレイヴ、シグルドリーヴァ)。

それぞれデメリットとメリットがあるので、自分のキャラクターに合ったものを選ぶといいだろう。

選んだ加護によって取れる○○の冥助のレベルを上げることにより、デメリットの軽減やメリットの増強を選ぶことができる。キミだけのキャラクターを目指そう!


――――――――――――――――――――――――――――――――――

次話より本編開始です。

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