岩瀬農業甲高、僕たちに人権など無いっ!

こば天

第1話 僕たちに人権は無い。

鳴り響く目覚ましの音に叩き起こされ、僕は朝を迎えた。


時計を見ると時刻は朝の四時半だ。


まだ、外は真っ暗。


自分の目覚ましは止めたが、同室のやつらの目覚ましは鳴り響いていた。


僕はベッドから降り、順繰りに目覚ましを止めていって、ついでに寝ているやつらの頬をひっぱたいていった。


「お前らおきろぉぉぉ、朝だぞぉぉぉ」


僕はみんなを起こすつもりで声を出したのだが、その声は目覚ましの10000分の1にも満たないだろう。


だって、まだ眠いもん。


「栄治、うるせぇ。もちっと寝かせろ」


同室の一人が頭から毛布をかぶって僕に言ってきた。


こいつ、まだ寝る気か。いいご身分だ。


「義実、早く起きないとヤバイぞ?」


「うるへぇ~。俺を起こしたかったら大砲でも撃ちやがれ。俺はまだ寝・・・zzz」


大砲ときたか。


同室の『楢木義実』はとにかくデカイ。僕よりも頭2個分はでかい。そしてごつい。


そのゴリラが毛布にくるまって体を丸めている姿はまるで巨大なダイオウグソクムシだ。


「起床ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」


僕たちの部屋のドアが勢いよく開け放たれ、怒声を発しながら寮監がカチコミをかけてきた。


僕たちの住む岩瀬寮の寮監である『橘剛毅』さんである。


橘さんは、義実よりもさらにでかい。


全長2m10センチ、肩幅は部屋のドアより広く、腕は丸太だ。


「神島栄治、貴様は許す。残りの三名に対して、今から教育的指導に入る!」


寮監様から許しをもらえた僕は、歯ブラシを口にくわえて共同の洗面所へとダッシュした。


義実よ、橘さんの『教育的指導』は大砲より強烈だぞ?


僕は心のなかで同室の三人に対して十字を切り、僕が部屋から出た瞬間、三人の悲鳴が寮全体に響き渡った。



農業高校の朝は早い。


今の時刻は朝の5時である。


別に、今から授業が始まるわけではない。


『実習』と言う名の『強制労働』である。


僕たち寮の同室の四人は、ジャージに着替えて鶏舎に向かった。


朝っぱらから鶏の世話である。


鶏舎の中はとにかく臭い。


鶏フンは、とにかく臭い。


最初のうちは鼻にティッシュをつめていたが、人間は慣れる生き物だ。


「栄ちゃん、今日は僕とフン掃除やったよな?ほい、スコップ」


「あんがと」


僕は、同室の榊竜馬から掃除用のスコップを受け取った。


竜馬は小柄で、細目のごま塩頭が可愛らしいやつだ。


「俺は義実と二人で卵拾いじゃ。卵割ったら殺されるけーのー」


「うちの学校の殺すはマジで殺す、だからな。須藤、きばってこーぜ」


須藤時臣はとにかく強面だ。


パンチパーマにつり上がった目。


どっからどうみても『本職』だ。


だが、根は優しい。


こいつらが僕の同室の三人。


僕の通う『岩瀬農業甲校』のクラスメイトだ。


僕と竜馬はスコップで鶏フンを集め、台車に乗せて『フン捨て場』へと運んだ。


フン捨て場に集められたクソたちは、良質の肥料へと生まれ変わる。


「今日は出ないといいね~」


「あったかくなると、増えるからね~」


僕と竜馬は、台車をひいて鶏舎に戻る途中、とりとめのない会話を始めた。


「最後に出たのいつやったっけ?」


「鶏舎で見たのは、二週間前じゃなかったっけ?デカイのがたくさん」


「アレ、ただでさえ気持ち悪いのに、さらにデカイって鳥肌もんやで!おぇっ」


「それが群れでって最悪だよな~」


なにげなく二人で会話をしていた。


噂をすれば、なんとやらである。


鶏舎の方から怒鳴るような叫び声が聞こえてきた。


「でたんとちゃう?!」


「やっべ、早くいこう!」


僕と竜馬は台車を投げ捨て、鶏舎へ走った。


「時臣、義実、大丈夫か?!」


「栄治、鶏が数羽やられた!小さいが群れだ、気を付けろ!」


「こいつら、わしらの頭数が減るのを待っとったんじゃろ!抜け目のないやつらじゃ!」


僕は腰に携帯しているナタを抜いて構えた。


義実は巨大なハンマーを。


時臣は大振りの太刀を。


竜馬は両手に鎌を。


「先生たちには知らせた?」


「とっくにしたわ!鶏やられたのがバレたら、わしらセンコーにタコ殴りじゃ!」


僕は少し安心した。連絡をしたなら、すぐに救援が来るだろう。


僕は、緊張して乾いた唇を舌で湿らせた。


さっき竜馬と話していた事が起きるとは運が悪い。


僕たちの前に蠢いているのは、鶏を狙って現れた数十匹の『蟲』の群れだ。


近年、家畜用の餌や作物用の肥料の改良が進み、その栄養化は飛躍的に向上した。


しかし、その一方で生態系が大きく狂った。


畑にまいた肥料や家畜に与えた肥料を食べた虫たちが急激に成長し、食物連鎖の最下層であるはずの小さな虫たちが巨大化してしまったのだ。


鶏舎に現れたのは、鶏よりも大きな蟲の群れである。


おそらく、ムカデの仲間だろう。


細い体にたくさんの足をくねらせて、鶏舎じゅうを這い回っている。


そのムカデの一匹が、鶏に食らいついた。


普通のムカデくらいなら、鶏の嘴でひとつきだが、大きさが互角なら鶏に勝ち目はない。


鶏の体に巻き付いたムカデは、その鋭い口腔で鶏を貪りはじめた。


「やばいで、栄ちゃん!はよやらな鶏が食われてまう!先生らに殺される!」


竜馬は顔面蒼白だった。


僕たちが怖いのは、巨大化した蟲じゃない。


鶏を守れなかったことに対しての、先生からの『教育的指導』の方だ。


僕たちは覚悟を決めた。


ヤラなきゃヤラれる。


「やるぞっ!駆除開始だぁぁぁぁ!」


僕たちは武器を握りしめ、蟲たちの群れに突っ込んだ。




僕は、愛用のナタに殺虫剤を吹き付けた。


3人も腰のホルダーから殺虫剤を抜いて、それぞれの武器に吹き付けていく。


「いてまえやぁぁぁ~!」


真っ先に斬り込んだのは、大振りの太刀を握る時臣だ。


パンチパーマの強面が振り回す太刀姿。


ただのVシネマじゃん。


時臣の太刀の威力は絶大で、次々とムカデを切り捨てていく。


竜馬は小柄な体を生かした素早い動きでムカデの群れを撹乱し、手に持つ二降りの鎌で蟲たちを切りつけていく。


動きの弱ったムカデを仕留めるのは、筋肉ゴリラの義実だ。


蟲たちの生命力はすさまじく、ちょっとやそっと切り刻んでもまだ死なない。


だが、義実の振るう巨大なハンマーなら話は別だ。


ハンマーの一撃は、確実に蟲の命を押し潰す。


だがハンマーはうち下ろしに時間がかかるので、僕たちが刃物で蟲たちの動きを鈍らせる必要があるのだ。



巨大化した蟲に殺虫剤をかけても意味がない。


硬い表皮や粘膜で効果が薄まるからだ。


蟲に有効なのは、刃物に殺虫剤を塗布し、直接切りつける方法だ。


傷口から入り込んだ殺虫剤の威力は絶大である。


少し切りつけるだけで蟲は弱っていく。



だが、蟲もバカではない。


こいつら蟲は、巨大化しただけではなく、知能か本能かはわからないが、とにかくずる賢い。


群れをいかして僕たちを囲い混み、足止めをくらった僕たちを尻目に鶏様を喰らっていく。


「あかぁ~ん!鶏様食われとるでぇ!」


「センコーは、わしらの命より家畜様の方が大事じゃからの~!死ぬ気で死守じゃああぁぁぁぁぁ!」


竜馬と時臣が前に出すぎた。


その二人の隙をつかれ、小柄な竜馬にムカデが飛び付いてきた。


「竜馬、首を守れっ!」


僕は竜馬に駆け寄った。


蟲たちは、本能で生き物の急所が分かるのだ。


竜馬は体を丸め、腕で首をガードする。


ムカデたちは丸まって動きを止めた竜馬に群がる。


僕はナタを放り投げ、両手に殺虫剤を持ち、竜馬に群がるムカデどもに吹き掛けた。


やはり効果は薄く、僕は素手で竜馬からムカデどもを引き剥がす。


スペアのナタがホルダーにさしてあるが、ここでナタを使ったら竜馬の体を傷つけてしまう。


僕は必死でムカデを引き剥がしては投げ捨てた。


それでもムカデたちは止まらない。


「痛い、痛いぃぃぃぃ」


「竜馬、今助けるからな!腕を離すなよ?首を守れっ!すぐに助けるからっ!」


竜馬の腕や体に噛みついていくムカデの群れ。このままでは竜馬が危ない。


「世話が焼けるのぉ~!」


時臣が、僕が放り投げたムカデの一匹を切り捨てた。


「どんどん行くぜぇぇぇ!」


義実がハンマーを振り回してムカデたちを牽制する。


僕は、やっと竜馬に群がるムカデたちを全て引き剥がすことに成功した。


「栄ちゃん、ありがとうな・・。みんなも、ありがとう・・」


竜馬は血だらけだった。


これでは戦えないだろう。


「怪我人かかえて戦うんは、ちと辛いのぉ~」


「けっ上等だぜ!余裕だ余裕!栄治、竜馬を守ってやれ!」


義実も時臣も、表情に余裕がなかった。


僕たちは、ムカデに包囲されてしまった。


一斉に飛びかかられたら、やばい。


僕は覚悟した。


とにかく、傷ついた竜馬を守らなければ。


「はぁ~い。君たちは今死にました。仲間も守れず、鶏様も全滅でぇ~す」


気の抜けた女性の声が、鶏舎中に響き渡った。


その声が消えたとき。


数十匹いたムカデたちが、一斉に弾けとんだ。


ムカデの頭や胴体が宙に舞い、体液があたり一面に飛び散った。


僕たちを取り囲んでいたムカデの群れが、一瞬で消え去った。



鶏舎の地面には、ドングリが突き刺さっていた。


「まったく、今年の1年は使えないわね。不作だわ、不作」


ドングリを飛ばした張本人は呆れていた。


たったの一瞬で、ドングリを飛ばしただけで、数十匹のムカデの群れを駆除した女性。


栄治たち、岩瀬農業甲校1年を担任する女教師。


柊 あけび。


「あんたら全員、教育的指導が必要ね?」




僕たちは、柊先生の『教育的指導』により半分殺された。


HANGOROSHIである。


血だらけの竜馬は保健室へ。


半殺しの僕たちは教室へ。


ちなみに、竜馬の怪我は担任からの『教育的指導』によるものが大きい。


竜馬の治療は、あくまでムカデの毒を中和することにある。


ムカデの顎には、毒性のあるセロトニンやヒスタミンなどの成分が含まれ、この毒が人間の体に入ると、激しい痛みが発生し傷口が赤く腫れてしまう。


あのサイズのムカデの毒も、体の大きさに比例する。


「はい、みんな注目~。今日、鶏舎にムカデの群れが現れました。大きさは鶏と同じかちょい大きいくらいです。雑魚です、まったくの雑魚です。その雑魚相手に死にかけたやつらがいま~す。はい、そ~で~す。そこにいるボロ雑巾三人組の神島班で~す」


僕たち、神島栄治・楢木義実・榊竜馬・須藤時臣は寮の同室で四人の班、僕を班長とする『神島班』なのだ。


なんで僕が班長なのかって?みんなから慕われてるから、とかじゃないよ?誰もやりたくないから押し付けられただけだい、チクショー!


「先生が助けに行かなかったら四人は死んでました~。わたしは命の恩人です。班長の神島君、なにか言うことは?」


「先生は、大変強く美しく聡明であらせられます。イツモアリガトウゴザイマス」


「よろしい」


柊先生は満足げに微笑んだ。


確かに、柊先生は美人の部類に入るだろう。


年は25と若く、すらりとした背の高い細身の体躯に、タイトスカートからのぞく素敵なおみ足。


長い艶やかな黒髪に、丸いメガネが知的である。


が、性格は悪い。


なにかあるたび、理不尽に振るわれる『教育的指導』。


なにかあるたびに浴びせられるねちっこい罵倒。


いちいち誉めてあげないと気分を損ねるめんどくさい性格。


それが、僕の担任である。


どうせなら、年齢不詳なロリ教師がよかったな。ロリ巨乳最高!柊先生、スタイルはいいけど貧にゅ


「神島君、なにか先生に言いたいことがあるかしら?」


「ナニモナイレス、タスケテイタダイテアリガトゴザマス」


「よろしい」


女教師が、にこりと微笑んだ。


あの人は、心の中が読めるのでしょうか?


「では、社会科の授業をはじめるわね?」


そう言って、柊先生は黒板に書き出しながら話始めた。


農業甲高といっても、ちゃんと授業は行われる。


ちなみに、柊先生は『社会科』担任である。


「肥大化した蟲により、農業従事者たちが被害にあう事例が多くなりました。そこで設立されたのが、この農業甲高です。高校の甲の文字には、守るという意味が込められています。農業の未来を守る、食の安全を守る、人命より家畜を守る。あなたたちより、食育を守る。甲の一文字には素晴らしい意味が込められているのです」


最悪だ。


この学校に入学して、はや二ヶ月。


僕は『人権』を失った。


ここでは、僕たち生徒の命は野菜や家畜以下なのだ。


蟲たちが巨大化して被害が出始めたとき、真っ先に警察や自衛隊が動いた。


蟲の巣を焼き払ったり、大量の殺虫剤をばらまいたり、ところ構わず爆破したりと、過激な行為を繰り返した。


国はやりすぎた。


そして、広大な土地、土壌、田畑や森を汚染したのだ。


大量の農薬や殺虫剤を撒いたせいで土地は死に、作物は育たなくなった。


やがて蟲たちは殺虫剤に耐性がついてさらに進化し、被害が増えた。


土地や田畑、仕事を奪われた農業従事者たちは怒り、国相手に真っ向から対立した。


長きにわたる、泥沼の戦いである。


多くの逮捕者、死者もでた。


国を見限った農業従事者たちは立ち上がり、みずから私設で『農業守備隊』を結成した。


独自に蟲を退治する術を確立し、蟲と戦いながら、農業・畜産・水産、全ての『食』を自分たちで守るのだ、と。


農業守備隊の戦果と功績はすさまじく、自衛隊や警察、国はおいそれと手を出せなくなった。


で、今がある。



この『岩瀬農業甲校』は、農業守備隊により設立され、完全に治外法権らしい。


未来ある若者の命は、ここではキューリ1本以下である。


とんだブラックだよ、国はなにをしているのかね~。


自分にあった『武器』を持って作物の手入れをしたり家畜の世話をしたりって、漫画じゃん!ラノベじゃん!緋弾のアリアの武偵高かよw


普通に法律に違反してるじゃん?でもここでは違法ではなく合法です!


ま、やたらめったら蟲が現れることはないんだけどね?今日の蟲は手強かっただけ。


現れる蟲はそんなに大きくはないし数も少ない。


今日は、運が悪かった。


この学校の敷地はかなり広い。


そして、大量の作物や家畜がここで育てられている。


だから、蟲とは切っても切れない縁なのだ。


「日本最大の耕作地、北海道。ここは今、日本で一番の最前線になっているの。蟲の発生率、蟲のサイズや凶暴性は本州とは段違いよ。ヒグマっているでしょ?アレよりでかいのがウヨウヨいるらしいわよ、キモいわよね」


教師がキモいとか言うなよ。僕は授業を聞いているかいないのか、とりあえず授業なんかよりは女教師の生足をガン見するほうがよほど生産的だ。あ、僕は胸より足派の『足フェチ』です♪


「東京で開発された特殊な肥料や飼料は、最初に北海道で使用されたわ。効果はてきめん、使用した年の収穫量は5倍に増え、生育の早さも普通の収穫時期より一ヶ月ははやくなったわ」


その代償が『蟲』の発生だ。


農業革命だとかはしゃいでいた日本だったが、突如大型化して現れた害虫の発生に、北海道の農家はあわてふためいた。


キャベツに群がる、手のひらサイズの芋虫の大軍。


稲穂に影響を与えた、通常の3倍サイズのウンカやカメムシ。3倍サイズのイネミズゾウムシやイネドロオイムシに葉を食べられて米農家さんは大打撃を受けた。


畜産業も『特別製の飼料』で変わった。


変わったとはいっても、牛や豚や鶏が巨大化しました~なんて話じゃないよ?それじゃただのB級パニック映画だ。


劇的に変わったのは、家畜ではなく虫だ。


ウシアブやイヨシロオビアブ、蚊やハエなどが飼料を食べ、巨大化したのだ。


ただ、こいつらは普通より大きくなったくらいですんだが、とにかく数が増えた。


危機感を覚えた日本政府がいろいろとやりすぎて、やらかして、今がある、みたいな話だよ?授業とかよく聞いてないけどさ。


もちろん、特別製の肥料や飼料は生産中止で使用禁止。


でも、一度変わった生態系はもとには戻らない。


北海道で起こった蟲による被害は拡大し、作物や段ボールに紛れて蟲たちは本州に上陸。


瞬く間に東北一帯に『蟲』が現れるようになった。


最悪だよね?


「蟲のせいで、日本は今孤立している。輸入や輸出が規制されているの。そりゃそうよね?わけのわからないきもい虫が自国に入り込まれる危険性があるなら、はぶられて当然よ。日本の自給率は37%が国内で生産されたもので、残りの63%は海外からの輸入に頼っていたの。それが今は逆転して、私たちの食の85%以上は日本国内だけで賄っている」


完全にはぶられた訳じゃない。


日本は他国から信用されているから、完全に鎖国状態にはならないのだ。


「37%しかなかった自給率を、85%まで可能にしたのは、今から10年前に行われた農業大改革よ。これ、誰か答えられる?」


おっ、先生からの質問タイムだ。僕は目を伏せた。僕は貝になりたい。


「はい、先生」


一人の生徒が手をあげた。


「轟、答えてみて」


柊先生にうながされ、その生徒がイスから立ち上がった。


「農業大改革は、東北一帯のほとんどを耕作地に作り替えたことです。これで、日本の食は安定しました。これが、大規模農業の始まりにして、蟲たちとの戦いの始まりだったのです」


お、映画の導入みたいだな。


ハキハキと答えた女生徒は、轟沙也加。


1年生で一番の秀才だ。


柊先生なみのスタイルの良さ、胸の大きさは段違いで、セーラー服の上からでもわかる豊満な・・・あ、僕は足フェチだから、胸より太ももに目がいっちゃう。


今どき珍しい姫カットな和風美人で財閥のお嬢様らしいよ?ここいらで女性キャラクター増やさないとね♪


ちなみに、僕らの制服は男子は学ラン・女子は黒のセーラー服で、かなり古風で地味なんだよね・・。


授業は、つつがなく進行していった。


「今わたしたちのいるここは、東北のど真ん中。農業大改革によって作られた我が校は、北海道につぐ蟲との戦いの最前線である!日本の食を守ると言うことは、それすなわち蟲との戦いである!貴様ら、日本の食に心臓を捧げよ!」


担任、急になにいってんの?進撃かよっ!


とにかく、僕のいるここ『岩瀬農業甲校』は、東北のど真ん中にあって、回りはほとんどが耕作地。


田畑や牧場しかないってこと。


つまり、回りは蟲だらけ。



一般の常識は一切通じない場所、それがここだ。


普通に人死に出るからね?


ちなみに、入学してすぐに8割の生徒が脱走した。


当たり前だ、誰もこんな場所にいたいわけがない。


ありえないだろ、普通。


怪我して、死ぬ思いして、それを国が黙認して、普通なら逃げ出すよ。


だから、今この教室にいるやつらはみんな『普通』じゃない。


もちろん、僕も普通じゃない。


ここにいるやつらは、全員なにかしらのわけありだ。


別に死にたい訳じゃない。


怪我したくもないし、蟲も怖いし嫌いだ。


だが、農業は好きだ。


みんな、ここにいる『理由』がちゃんとあるのだ。


命を懸けて学ぶ『理由』がちゃんとある。



僕は逃げない。


傷つき、死にそうな目に遭っても。


僕にはここにいる『理由』があるのだから。



















































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岩瀬農業甲高、僕たちに人権など無いっ! こば天 @kamonohashikamo

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