第九十二層目 荷電魔粒子砲《マギア・ギガス・カノン》
モビー・ディックの前方に出現した超大型個体の異形。
そもそも、異形はそのほとんどが体長10mを超すものが多く、烈式が開発されたのも大型のモンスターである異形に対抗する為である。探索師はこれまでも自身より遥かに大きなモンスターと対峙してきた。しかし、それでも限界というものがあるのだ。今回の様に、明らかに人類を討滅しようと十を超える異形を何度も送られてきては。
「出たわね、ボスが......総司令ッ! 時間はどれくらいかかるのッ!?」
『現在総出で魔力炉を活性化しているッ!! 五分頼むッ!』
「七分。それ以上は魔力が持たないわ。それまでにアレをぶっ飛ばす準備をしてくださいッ!」
『承知したッ!!』
「さぁて......そんなわけで、あんたには私とダンスをする招待状をプレゼントする......わッ!!」
モビー・ディック前方で四枚の翼をはためかせる超大型の異形。三つの首はそれぞれ鷲、狼、竜のものであり、体は上半身が八本の腕を持つヒトの女性、下半身が山羊である。
その異形に対し、オルトロスのアームに備え付けられたガトリングガンを放つ恵。弾倉は持たざる者の陣営が尽力して開発した、『DMシリーズ』の最新型だ。以前は大型ミサイルに搭載するのがやっとだった機構を、この二年の間に小型化、さらに高性能化にも成功していた。
とは言え、30mを超える巨体には牽制の効果しか与える事しかできない。が、いまはそれで十分だ。
通常の弾丸では効果など無いはずと高を括っていた異形は、自身の皮膚を削るその攻撃に驚いて防御姿勢をとる。例え効果が薄くとも、目などの急所に当たればどうなる事かわからない。
異形種はその見た目や凶暴さとは裏腹に、そこまで知恵がないわけではない。ただ猪突猛進する獣とは違うのだ。
八本ある腕で顔面を守りつつ、威嚇の鳴き声を上げる。
「メェエエエェェッッ!!」
「鳴き声がそれって......下半身に寄せてんじゃないわ、よッ!!」
恵はオルトロスを走らせ、異形種に向けて拳を振るう。弾倉には限りがあるし、必殺の魔術も消費魔力の関係上ここぞという所でしか使うわけにはいかない。だが、もしもモビー・ディックに取りつかれでもすれば、かなりの被害を被ることになる。
奴らの最大の武器。それは、内包する魔力を暴走させて引き起こす超爆発である。その威力は、新宿メイン・ダンジョンの『門』を一階層目と二階層目と共にまとめて吹き飛ばすほどだ。それも、それを行ったのは先ほど恵が退治した15m級の異形でだ。
この30mを超える異形が爆発を起こせば。恐らくモビー・ディックは半壊......いや、メイン部分をやられたモビー・ディックは崩壊して堕ちるだろう。
まだ烈式を扱える者は少なく、今はまともに戦えるのは自分のみ。
恵は自身の双肩にかかるプレッシャーと共に、空中を舞う。
「そのまま、散りなさいッ!!」
「メェエエエエェッ!!」
背面にある魔粒子ブラスターで立体機動をとりつつ、異形種を殴りつける。金属の塊であるオルトロスの腕は、纏う魔力も相まって凄まじい破壊力を発揮した。
殴りつけられた部分がへしゃげ、異形は悲鳴にも似た鳴き声を上げる。しかし、大体の個体が標準装備している超再生能力はこの異形にも当然の様に備わっており、へしゃげた部分がみるみるうちに回復していく。
「くッ、厄介ねッ!! でも、そっちがその気ならッ!」
回復できなくなるまで殴り続けてやる。
恵は半分を切った魔力を振り絞り、オルトロスの出力を上げていく。
急激な出力の上昇はオルトロス自身の耐久度を蝕む。関節部が軋みをあげ、警告音が恵の座る台座に鳴り響く。だが、恵はそれを無視して異形を追い詰める。
と、その時。透過モニターにジェイの顔が映し出された。
『準備完了だ、恵君ッ! 退いてくれッ!!』
「了解ッ!! 何ッ!?」
モビー・ディックが口を開いて搭載している中での最大最高出力の武装を異形へと向ける。
荷電魔粒子砲。かつて一輝の装備していたデバイスにボブが搭載していた、ヒトの出力では放つことのできないと言われていた超兵器。モビー・ディックの持つ大型魔力炉であれば実現ができると、改良を加えて搭載した決戦兵器だ。
その砲口から放たれるのは、恐らく自分を消し飛ばしてあまる威力がある。そう悟った異形は、すぐさま反転して逃亡を図る。
この巨大な建造物は、主の邪魔に成り得る。報告をせねばならぬと、その使命感が生存を選んだのだ。
「逃、がす......かぁぁぁッ!!」
全力で空を駆けだした異形の逃げ足は、先ほどまでの動きとは比べ物にならない程に速かった。ぐんぐん離されていく距離。恵はオルトロスの出力を限界まで引き上げる。
鳴り響くアラート。耐えられず、小爆発を起こすオルトロスの補助エンジン。
「いらないわよッ!! こんなものッッ!!」
恵は両足と左腕のデバイスの接続を一気に断ち、小規模の爆炎魔術で切り離す。
四肢のほとんどを失ったオルトロスは一瞬だけバランスを崩すが、恵は背面のブースターを一気に加速させて無理矢理姿勢を制御する。
「メエエェエエエッ!?」
まさか自分の手足を落として向かってくるとは。驚いた異形は目を見開きつつも、迫って来るオルトロスに向けて火球を放つ。
両足と左腕を失い、重量が半分程になったオルトロスのスピードは桁違いにあがる。竜の首から放たれた火球を避けつつ残った右腕で異形の翼を握りしめる。
「つ~かま~えたッ!! 司令ッ!!」
『応ッ!! モビー・ディック、
モビー・ディックの口内が眩い光を発し、七色の光線が極大の帯となって放たれる。
魔粒子は、その構造上『+魔電子』と『-魔電子』が存在する。普段はそれらが1対1で結合し、なんの効果も持たない魔粒子として空中を漂っていたり、物質に潜り込んでいる。
そこに詠唱などで+魔電子に働きかけ、様々な効果を与えるのがいわゆる『魔術』だ。例えば、火の魔術であれば『(燃焼)+魔電子』と『-魔電子』によって構成された、『燃焼効果魔粒子の集合体』というのがその正体だ。
詳しい事は長くなるので割愛するが、通常、影響を及ぼす事ができるのは『+魔電子』のほうである。+は結合する性質を持つので、外部からの干渉に呼応するのだ。なので、基本的に-魔電子に触れることは出来ない。
が、それを可能としたのが、孤高の魔工学者ボブである。
『+魔電子に更に+魔電子を付与することにより、+魔電子の対消滅を誘発し、-魔電子のみを残存させる。-魔電子の持つ、+魔電子に結合しようとする性質を利用し、周囲の魔電子を連鎖的に崩壊、結合させていき、その際に生じるエネルギーを利用する。この際、-魔電子が消滅しないように、疑似+魔電子をあてがう。
従来、これをオルクミンによって可能にしておったが、ご存じの通りオルクミンの効果で発生させつ荷重魔粒子は周囲への影響が大きすぎる。そこで、オルクミンに頼らず、摘出した+魔粒子を加えて反応させることにより、荷電魔粒子の制御を可能とするのじゃ』。
この説明を聞いた人々は首を寝違えるかと思うくらいに捻った。
まず、+魔電子に+魔電子を加えるという時点で謎だ。その+魔電子を何処から持ってくるつもりなのか。摘出するといったが、その方法は?
更に言えば、一時的とはいえ-魔電子のみになった魔粒子を保っておく技術など存在しない。
周囲の反応を見たボブはため息を吐いて、そこから二週間ほど自分のラボに引きこもった。そして、出来てしまったのだ。
他の誰一人としてその構造や原理解らない、謎の超兵器が。
ボブのいない現状で、この荷電魔粒子砲を使うのはリスクを伴う。しかし、そうも言っていられないのが現状なのだ。
「メエェエエェェッ!!」
迫りくる破壊の光から逃れようと、異形は翼を動かしてもがく。しかし、恵は逃がしはしないとオルトロスをしがみつかせて、台座のレバーを思いっきり引っ張る。
「残念だけど、一人で死んでよね。ばいばいッ!」
大量の魔粒子と共に
そして、一匹だけ取り残された異形は、光に飲み込まれて塵一つ残らないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます