第四十二層目 『天照』と『月詠』
「『
「そうじゃ。ゴーレムの
ボブに促された一輝は、二つの球体に手を添えて魔力を注いでいく。すると、ゴーレムを起動させた時の様に球体を包む光が紫から黄色に変化し、一輝に寄り添う様に宙に漂う。
「あとは一輝が動かしたい方向に思い描けば、そちらへと動く。推進力や出力は一輝の魔力次第じゃが、ゴーレム・マジシャンに搭載されておった魔力充填機能と魔力変換機能を補助に使っておるから、持ち主の負担はかなり軽減できておるはずじゃ。どうだ?」
一輝は頭のなかで球体を左方向へ動かそうと念じる。すると、二つの球体は考えた方向に考えた距離だけ移動した。
「基本動作は追い追い慣れていってくれ。まずは機能説明をするぞい。赤い模様が入っている方が『天照』じゃ。こいつは防御、回復などの補助の役割を持つ。いまの所デバイスには最新の対物シールドと回復魔術Ⅱを搭載しておるが、まだ容量も残っておるし、カスタマイズは任せる」
「なるほど……『対物シールド』、ON」
一輝の声に従い天照の形が変化し、赤い半透明のシールドを展開する。丁度、大盾くらいの大きさであり、しゃがめばからだ全体を隠すことが出来そうだ。
「対物シールドじゃから魔力のよる攻撃は防げん。あいにく魔力に対応するデバイスがなくてのう」
「それなら大丈夫です。知り合いに伝手がありますから」
実際は伝手ではなく、一輝が所有している『エレメント・バリア』なのだが。『エレメント・バリア』は属性魔術に対して大きな効果を持つ防御魔術だ。以前、ツイントゥースドラゴンの食料を大量に横取りした時に得た能力である。
「ふむ、ならば大丈夫そうじゃな。次に『月詠』じゃが……これは攻撃に特化した能力を持っておる。まずは『ブレード』じゃ。魔力を剣状に展開し、魔粒子の振動によって物質を切断する」
「魔粒子?」
「む? そうか、技術者でなければあまり知らんわな。簡単に言えば、魔力は魔粒子が集まったものじゃ。魔粒子はそれだけではただ空中に漂うものじゃが、指向性を与えてやることで様々な働きができるようになる。それが魔術だ」
「えっと……また勉強しておきます……」
「ホッホッホ! まぁとりあえず、そう言うものだと思っておくんじゃな。それで、『ブレード』が一つ目の武器。もう一つは『レーザー』じゃ。これは魔力をそのまま照射し……うーむ、説明すると長くなるのじゃが、魔粒子を照射することによって、物質が持つ魔粒子の配列を狂わせることで破壊効果を誘発するのじゃ」
「つまり、魔力を持たない物には意味がないって事ですか?」
一輝の後ろでじっと話を聞いていた恵がひょっこりと顔を覗かせる。
「その通りじゃ。基本的にいまのこの世界に生きるものは大概が魔力を持っておるので、効果はある。じゃが、例えば鉄などの魔力を通さない物には効果がないし、極端に魔力を持たぬ者には効かんのう。お嬢ちゃんはなかなか理解がある」
「えへへ……魔工学にちょっと興味があって」
「おぉ、若いのに見所があるのう。最近の若いもんはやれ魔術はファンタジーのものじゃと思っとる節がある。魔術、牽いては魔力は科学の一種じゃ。ちゃんと物事には理由があるのに……っと、そんな話は置いといて。最後にとっておきのモードがあってのう……」
ボブがそう言いながら一枚の紙を取り出す。そこには変形した天照と月詠が合わさった物の図面が描かれていた。
「これこそ、儂が追い求めた『力』の終着点じゃ。その名も、荷電魔粒子砲……『
「須佐之男……! それはいったいッ……!」
「それはのう…………すまん、使用できんのじゃ」
「…………はい?」
「いや、システムだけは出来ておるんじゃがの? ただ、理論上これを放つには一級探索師相当の魔力が50人分は集まらんと無理じゃ。魔力補助システムだけでは、恐らく一輝は二秒も持たずに魔力欠乏に陥って死ぬ」
「意味ないじゃない! 一輝はただでさえ魔力が低いのにッ!」
「ホッホッホッ! 面目ない!」
笑って誤魔化そうとするボブにツッコミを入れる恵。
実の所、一輝の魔力量は一級探索師50人分など軽く賄える。ツイントゥースドラゴンを食った事によって大幅に上がったステータスは、その数値だけで言えば瑞郭やグラハムを越えているのだ。
名称:神園 一輝
種族:人間
職業:私立ルーゼンブル学生
年齢:17
健康状態:良好
体力:1087
筋力:879
俊敏:662
頭脳:318
魔力:18280
一般的な一級探索師の魔力を数値化すれば、およそ200~300程度。魔術特化型でも400程だ。
グラハムは特殊な肉体なので例外だが、瑞郭でさえ1000に届くかどうかである。もはや一種の魔力の塊と言っても良い。
ただし、それらはダンジョンの出入りでバレてしまう可能性もあるので、通常時は『擬態』という能力で抑えてはいるが。
勿論、一輝はこの数値については誰にも教えていない。そもそもステータスが数値として見えるなど人に知られれば、一輝が今後どういう扱いを受けるかわかったものではないからだ。なので、瑞郭にもジェイにもこの数値の事とベルゼブブのことだけは伏せていた。
「まぁこのロマン砲は実用的でもないし、ちょっとしたおふざけじゃよ。良いじゃないか! ジジイの趣味だものッ!!」
「人の装備で遊ばないでくださいよ……ちなみに、これを放つとどうなるんです?」
「理論上、『城塞蟹』でも穴をぶち開けることが出来るッ!! ……はず」
「どんな物騒なもの積んでるんですか……」
溜め息をついて呆れる一輝と恵。
しかし、一輝はそれでもちゃっかりと図面を記憶していた。
それを起動する為のプロダクトキーを。
「まぁそこまでしないと倒せないモンスターじゃと、どのみちみーんなお陀仏じゃ。諦めるんじゃな。と、まぁこんなもんじゃ。習うより慣れろ。色々と動かしてみるといい」
「わかりました。それじゃあ、少しガレージをお借りしても良いですか?」
「うむ。お嬢ちゃんも探索師を目指しておるのじゃろう? そこの棚にあるものなら好きに見て貰って構わんからのう」
「ありがとうございます!」
早速、天照と月詠の起動テストを始める一輝。
その様子を眺めつつ、恵はこのガレージに来てから内心思っていた事を一人心の中で叫ぶ。
(どうなってるのよ! なんで一輝がこんな凄い装備作って貰ってるのッ!? ジェイ先生の仕業にしても、常識外れ過ぎでしょ!?)
ジェイが一輝に個別指導をしているのはクラスでも有名な話だ。
そもそも一輝が何故私立ルーゼンブル学園に入学できたのかもよくわかってはいないのだが、それにしてもあまりにもここ最近の一輝の周りで動く変化が大きすぎる。
恵としても、一輝が力を付けてくれる事に関しては喜ばしく思っている。だが、自分が知る最底辺の探索師見習いだった一輝が、どうしてこんなにも変化してしまったのか、身近な存在であるが故にモヤモヤとしていた。
「……なによ、一輝のくせに」
口を尖らせながらポツリと呟く恵。
と、その時。鞄から着信音が聞こえてきた。
「誰かしら……? え?」
取り出したスマートフォンの画面に映し出される文字。
そこには『日本ダンジョン協会』と書かれていた。
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