無能なクロノ
「クロノ…君にはそろそろ我慢の限界だ」
そう告げてきたのはローエル
称号【勇者】をもつ僕の在籍するメンバーリーダーだ
「……ごめんなさい」
実際に僕は荷物持ちでしかメンバーの役には立てていない自覚があったので謝罪する
「ローエル様の言う通りよ、この役立たず!!てゆーか何で私達と同じテーブルを囲ってるの?!」
「……」
少しヒステリックに僕を怒鳴る女性は【拳剛】の称号を持つヴァリア
同じパーティーなのだからテーブル位囲っても良いんじゃないかな?と思うけれど、よりヒステリックになるのが目に見えてるので黙っておく
「実戦では使えないレベルの剣術に、魔法も辛うじて初級程度の実力では私達のパーティーには相応しくありません。せめて上級魔法を使いこなす位でないと…」
当然の様に淡々と話す女性は【魔術士】の称号をもつライア
確かに僕の所属するこのパーティーは、この国である【フィングルス王国】の中でも有名だ
SS級で有り、現在現役で活動しているパーティーでの最高ランクに分類されている
「そもそもアンタ、役立たずなのにこのパーティーに在籍出来てるのは【剣聖】のお姉ちゃんがいる事と、私達の広ーい心を持った慈悲だという事を忘れてないでしょうね?!
アンタみたいな使えない、ましてや黒髪黒目の不吉の象徴なんて何処のパーティーも普通入れてはくれないわよ?!」
「………」
ヴァリアの言葉にも微動だにせず、目を閉じて腕を組んでいる女性が僕の姉であり【剣聖】の称号を持つアカノ=エンドロール
姉に関しては【フィングルス王国】だけでなく、他国にも噂される様な存在だ
つまりこの現役最高峰であるSS級パーティーである【グングニル】には【勇者】【剣聖】【拳剛】【魔術士】のいずれも高ランクの職業が集まっている。
にも関わらず、僕といえば低ランクの職業ですらない【無職】…いや、厳密に言えば無職ではなく【 】という様に明記されている
この世界は成人である15歳の時に教会へ赴き、神の啓示により職業を授かる
但し、あくまで自分に才能がある職業を啓示されるだけであり必ずしもその職業につく事を義務付けられている訳ではない
というのは建前であり、実際に啓示された職業を目指す人が殆どだ
人はいくら好きな仕事で生活したいと考えても周りの才能を神に認められた人に比べると成長速度も理解速度も大幅に遅い
であるなら最初から神の啓示に従い生きていく方が賢いというのが世界の常識だ
ただ、僕は職業に何も記入されていない
何が向いているかも分からない為に、いっその事、姉の手助けをする為に2人でパーティーを作ったのがこの「グングニル」の発祥なん、だけど…
「だがね、クロノ。
そんな俺達の広い心もそろそろ限界なんだ。君個人で言うならばE級、いや初級魔法が使える分D級まではいけるかもしれないが…そこまでが精一杯だろう。
このまま俺達と依頼を続けても実力に見合わない戦闘を続けていくと何処かで命を失う可能性が高いんだよ。」
ローエルの言い方は辛いが正論な為に何も言えない
つまり彼は、いや彼等はこう言ってるんだ…
『さっさと自分から辞めろ』と
僕と姉が作ったパーティーに後から入ってきて、出て行けと言ってくるのは横暴だとも感じてしまうけど、今や【グングニル】は有名だ
SS級に僕みたいな雑魚がいるのも定評が悪いという事だろう
思う事が無い訳では無いけど、仕方ないと感じている部分もある為にそれを受け入れようと思った
「…分かったよ、僕はこ『それでは私もこのパーティーには用がないな』」
「「「なっ!!」」」
僕の言葉に被せる様に言い放ったのは、僕の姉であるアカノ=エンドロールだった
彼女は透き通った赤い眼で僕以外のメンバーを睨めつけてそう言い放った
全身から怒気を放ち、まるで『お前達は敵だ』と言わんばかりの雰囲気を放つ
ワインの様な透き通った綺麗赤髪を腰まで伸ばし、ルビーの様な見るものの心を奪う様な赤目の彼女は弟ながらそこらの美人が見劣りするくらいの美人だと思わざるを得ない
姉だからこそ、そんな目で見たことはないがスタイルに関しても抜群のスタイルである事は間違いない
そんな姉は先程の通り他国にも認知されているほどの存在、【剣聖】
彼女が【グングニル】を脱退すれば、どうしたって戦力低下は免れないSS級なのがS級、最悪A級まで降下してしまう可能性すらあるのだ
「姉さん…??」
姉に対して疑問を投げかけようとする僕に、姉はニッコリと微笑えんだ。
「お前と一緒に冒険する事が私の原点であり、絶対だ。
お前のいないパーティーに愛着もなければ未練もない。」
「ちょっと待ってよ!アカノはクロノと違っていて貰わないと私達が困るの!!」
「それは私には関係ないな」
「アカノ、君が弟を大切に思っている事は理解している。
だが、この国で重要視されている【勇者】の俺と【剣聖】の君がパーティーを別にするという事はこの国から何らかの罰を受けてしまう可能性があるぞ」
「この国に執着がある訳ではない、そうなれば他国に行くさ。
ローエル、お前に私の弟に対する気持ち等を分かっている筈がない」
「お二人で再度パーティーを組むのであれば、良くともC級になります。
SS級と比べて収入もだいぶん下がり、生活出来なくなるのではないですか?」
「生憎、贅沢には興味がない。
普通に生活していればC級でもD級でも食べていける。
今までの貯蓄だけでも2人でなら生涯食べていけるくらいの蓄えはある」
各々のメンバーの説得にも取り合わない姉に対して、嬉しさも当然あった
こんな僕に対しても大切だと今でも伝えてくれる姉の優しさに触れて幸福感が身体を包む
だけどその反面、負い目や罪悪感も当然にあった
僕だけで何かすれば比べられる事もないのにという劣等感や、僕さえいなければ姉はもっと幸せな人生を送る事が出来るのにという申し訳なさが募る…
そんな僕の葛藤を尻目に、メンバーと姉の言い合いは進んでいる
「そもそもお前達は、クロノを荷物持ちだと馬鹿にするがその荷物が無ければどの様に依頼を受けるのだ?回復薬は?解毒薬は?状態異常薬は?夜間の休息場の設立は?
ライアが回復できる事は理解しているが魔力が足りない状況や、消費を抑えたい場面もあるだろう。
その場合はどうするのだ?」
「ヴァリア、貴様が猪突猛進でフィールドを駆け、モンスターに囲まれた時に煙玉で回避、撤退する事が出来たのは誰のお蔭だ?」
「ローエル、貴様が1番装備の損耗が激しいな?1番モンスターからの攻撃を受ける立場なのは理解している。
だからこそ予備装備が必須のお前が荷物持ちの重要性を理解していないのか?」
「「「………」」」
姉から名指しで批判を受ける3人は一様に黙ってしまう
確かに荷物持ちは侮られ勝ちではあるが、かなり必要な人員だ
それは高ランクであればある程、依頼対象が強力な事もあり必須とも言える
だけど、高ランクなのを突き抜けたと考えている3人からすれば、僕の代わりにヒーラー等を入れたほうが効率的だと考えたのだろう
「だけど私達レベ『分かった、クロノの在籍を認めよう』
ヴァリアが何か言おうとした瞬間、ローエルが言葉を被せた
バツが悪いのか少し俯きながら、憎々しげに続けた
「確かに俺達は、荷物持ちを軽んじていた部分がある。
アカノに言われて理解した。
クロノ…お前の在籍を認める…」
そう僕に言ったローエルの目に冷たい炎があった事を、この時は気付けなかった…
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