第15話 先輩達の作戦
土曜日。
指定通り
「よう、予定通りだな」
茜先輩が乗っていた。
緑先輩もいる。
「今日は危険な魔道書なんですよね。緑先輩、大丈夫ですか」
「問題無い筈」
なら大丈夫なのだろう。
ほっと息をつく。
「何だ、怖じ気づいたか?」
「危険がわかっていれば避けるのは当然ですよね」
「安心しろ。多分なんとかなる」
それが一番怖いんだよな。
茜先輩ならパワーだけで何とかしてしまいそうだけれど、俺は普通の人間なのだ。
魔法をちょっとだけ使える程度の。
「今回の魔道書はゴエティア。こちらの世界では72人の悪魔を使役して様々な願望をかなえる為の手順が記載されている事になっている。向こうの世界でもおそらくそういった内容の本なのだろう」
おいおい。
でも前にもそんな事を言っていたな。
「かなりヤバい内容じゃないですか」
「でもそれくらい強力な本でなければ過去に戻る術なんて無いだろう」
確かにそうかもしれないけれど。
「緑、今度の魔術書攻略に対する何かヒントはないか?」
緑先輩は何やら考えている様子。
いや、魔法を使っているのだろうか。
何か両手で様々な形を作ったりした後、顔をあげる。
「今回は遠慮する必要は無い。炎も水も使っていい。相手が避けようとしているものを使う事」
「相手が避けるというのはそれが弱点という意味か」
「相手が使わないもの、使っているものと相克するもの。そこが弱点」
なるほど。
つまり相手が火を使ったら水をという感じで考えればいいのか。
でも待てよ。
「それじゃ今回は向こうも攻撃を仕掛けてくるという事ですか」
「その通り」
「大丈夫なんですか」
「問題無い」
緑先輩がそう言うならおそらく大丈夫なのだろう。
でも不安だ。
非常に不安だ。
電車で4つめの阿比古駅で降りて15分ほど歩く。
ここの図書館は公園の一角にある、公民館と一体となった結構大きな建物だ。
入ってみるとそこそこ広い。
「今回も310番台だから政治学の場所だな」
案内を見ながら社会科学の書架へ。
やはりここでも魔道書は異彩を放っている。
「司書さんはこの本、疑問に思わないんですかね」
「単に気づいていないだけだろう。勝手に出現してここに居座っているだけだろうからな」
なるほど。
でも他の本を書架に戻したりする時に気にならないのだろうか。
「見る資格の無い者にはそもそも認識出来ない。魔道書とはそんなもの」
緑先輩がそう教えてくれる。
「つまり魔法持ちでないとこの本がある事すら気づかないと」
「その通り」
なるほど。
茜先輩が本を書架から取り出す。
「それじゃ開くぞ。いいな」
よくないと言っても開くんだろうなどうせ。
そんなひねくれた事を思ったが口には出さない。
いつもの浮遊感の後、白い空間へと到着。
今回は茜先輩も緑先輩も一緒だ。
少しばかり安心しつつ前に立つ黒い影のような男を見つめる。
「ようこそ、ゴエティアへ」
男がこちらに向けて恭しく一礼する。
「それでは早速ではありますが、我らを使役する主人としてふさわしいかどうか、試させていただきましょう」
その台詞が終わるか終わらないかのうちに炎が飛んできた。
咄嗟に水魔法を繰り出す。
何とか俺の水魔法が炎を押し返した。
ほっと一息つくとともに疑問に思う。
茜先輩の方が俺より魔法の発動も早いし魔力も強い筈。
なのに何故今、魔法を出さなかったのだろう。
「なるほど、最低限の事は出来るという訳ですな。では次は」
「いちいち対応させるのも面倒だな」
茜先輩がそんな事を言ってにやりと笑みを浮かべる。
魔力の反応からして茜先輩、明らかに何か魔法を発動しかけている。
どうやら俺に対応させた時間でもっと複雑かつ強力な魔法を発動させたようだ。
「これで片付けよう。光あれ!」
強烈な光が男を襲った。
まぶしすぎて俺も目を閉じる。
前にいた男の気配があっさり光で消え去った。
目を閉じたまま気配を探るが先輩2人の他には魔力を感じない。
ふっと瞼を閉じていても感じていた光が消える。
同時にいつもの浮遊感。
『いいでしょう。主人として認めましょう』
あっさりと終わってしまったようだ。
元の書架の前に戻っていた。
「何なんですか、あの魔法」
とりあえず茜先輩に聞いてみる。
「悪魔相手だから光が苦手だろうと思ってさ。魔道書2冊分の知識を動員して光の極大魔法を調べておいた。印形を描く必要があったからちょい時間がかかる分、最初の攻撃は孝昭に任せたけれどな。決まれば効果一発だ」
なるほど。
「でもそういう作戦ならそう言って下さいよ。俺が攻撃を防げなかったら危ないじゃないですか」
「問題無いと出ていた」
緑先輩、そうだったんですか。
でもそれならそうと俺にも教えて下さい。
「なまじ防御は任せるなんて言った結果、孝昭が緊張して失敗したらまずいからな。とりあえず緑と話し合って、孝昭にはこの事を言わないでおくことにした」
何だかなあと思うが仕方ない。
それに確かに作戦は上手くいったのだし。
「あとは今のゴエティアに、時間を遡る方法があるかですね」
「無かった」
緑先輩がそんなあんまりの結果をあっさりと俺に告げる。
「無かったんですか」
「かつて起きた事を知る魔法はあった。でもそれを変える魔法は無かった」
はあ。
ため息が出てしまう。
「往復の交通費と時間は無駄に終わった訳ですね」
「でも孝昭もその分魔法を使えるようになっている筈だ。だから無駄ではないさ、きっと」
「そうならいいんですけれどね」
俺はため息をつく。
遙香へたどり着くにはまだまだ道は遠そうだ。
何としてもたどり着きたいと思っているのだけれども。
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