【短編】「私のお尻を叩いて」とクラスの美少女に懇願された
藤塚マーク
序
『放課後、屋上で待っています』
クラスの女子からそう言われたら、男として行くしかあるまい。
それが美少女であれば尚更だ。
「ひゃっほう!」
そう思い、俺は内心ウキウキで教室を飛び出した。
先にトイレに寄って身だしなみを整える。鏡に映る自分は、どことなく間抜けそうな顔をしていた。
――浮かれているだけで、普段からこうではないと信じたい。
それ以外は別に特徴のない。
整ってないし、崩れてもいない。たぶん普通の顔だ。
「――何の話だろうなー!」
生まれて初めて女の子に呼び出された喜びを噛みしめながら、俺は再び屋上へと向かった。
校舎の四階、その更に上の階段を昇って、屋上へと繋がる扉を開く。
――その瞬間。
木の葉が舞い、勢いのある冷たい風が眉間を直撃して思わず目をつむった。
「鈴木……くん?」
……ゆっくりと目を開ける。
声のした方に視線を向けると、秋の夕焼けに照らされて、一人の少女が佇んでいた。
――
「来てくれたんですね、鈴木くん――」
そう言うと彼女は、はにかんだように笑ってみせた。ひんやりとした空気に晒され、赤みがかった頬で白い息を吐きながら微笑んでいる。
その様子に俺は思わずドキリとする。
陽光に照らされた細長い黒髪が黄金色に揺れており、胸元できゅっと引き締められた両腕はその膨らみを豊かに強調する。規定の長さのスカートから覗く学校指定の黒タイツも、髪と同じ色で艶やかに光って見えた。
――って何を呑気に眺めとるんだ俺は!
響谷さんに失礼だろ!
俺は煩悩を振り払うように視線を彼女の額に固定すると、声が上ずらないように意識しながらゆっくりと口を開いた。
「お、お待たしぇ……」
平常心。平常心。
いけるぞ俺はクールな男。
全然クールじゃない声音で女慣れした自分をイメージしながら響谷さんの方へと歩いて行く。
ピンと張った両腕に不自然なほどタイミング良く上げ下げする太もも。
まるで軍隊の行進だ。
そのような滑稽な状態になっているなんてこの時の俺は
「それで話ってなんじゃらべぎゃる」
……噛んじゃった。
あああああベロ痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
脳内で絶叫するが、表情は変えないまま「それで話って何かな」と言い直す。
「うん――」
俺の痴態を気にも止めず、響谷さんは恥ずかしそうに話し始めた。
「実はね、鈴木くんにお願いがあるの」
おね、がい――!?
まさかまさかと思いながら咄嗟に思考を整理する。
放課後の屋上。
夕方に男女二人きり。
これはもしかしなくても「好きです付き合ってください」的なアレではないだろうかッ!?
きっとそうだ。うん。
響谷さんが俺の事を好きになる理由は検討もつかないけど何かこう、日頃の行いが彼女の心に響いたのだと信じたい。本当に検討もつかないけど。
……なんか違う気がしてきた。
「……鈴木くん、私ね――」
勝手にげんなりしてる俺をよそに。
響谷さんは勇気を振り絞るように、小さな声を捻り出す。
その頬が赤いのはきっと寒さだけではないだろう。彼女の息は次第に荒くなり、胸元で握る両手は微かに震えていた。
……あ、これ間違いなく告白だわ。
理由は知らんけど告白に違いない。ならば男として取るべき行動はひとつ。
俺は彼女の気持ちに対する答えを頭の中で用意すると、はやる気持ちを抑えながら運命の言葉を待った――!
「――あなたに私のお尻を叩いて欲しいの!」
「はい喜ん――今なんて?」
ちょっと待って。
何か変なワードが出なかった?
「ハァ……ハァ……鈴木くん――」
聞き間違いだろうか。
響谷さんは何かが吹っ切れたのか、ゆっくりとスカートをタイツごと脱ぎ下ろし、柵に手をついてその白いお尻を突き出しながらさらに声を荒げて懇願した。
「私のお尻を叩いて下さいッ!!」
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