第26話 その8

 あとはお母さんにまかせて、部屋に戻り明日の準備をする。

 スマホをチェックすると、メールと通話の着信歴があった。タカコとビトーちゃんからだった。


タカコからのメールは、


[生徒会への要請 サクラチル]


という文面だった。電報か。

もうひとつ、ビトーちゃんからのメールをみる。


[こんばんは、あげは様

今日も1日素敵な日でしたね。あなたに会えることは毎日の楽しみです。

舞ちゃんの家には迷わずに行けました。あげは様の道案内地図が良かったからですね。ありがとうございます。

道中、ムトーちゃんが心強く私を守ってくれて、安全で安心して到着しました。


 舞ちゃんのお父さんに挨拶すると、最初はそれはそれはとても恐かったのですが、お父さんの声で、部屋から出てきた舞ちゃんの説得のお陰で、話すことを許してくれて、無事会えました。


 さて、可愛い後輩の舞ちゃんのコトですが、悲しんでいました。自分のせいであげは先輩と青草先輩に迷惑かけてしまったと、涙をぽろぽろとさせながら、しきりに後悔していました。


あたし達は、そんなこと無いよと慰めようとしましたが、あたしももらい泣きしていまい、そんな2人をムトーちゃんが包み込むように抱きしめてくれました。


早く学校に行きたいそうです、みんなに会いたいそうです。


なんとかしてあげたいですね。]


さすが文芸部という文面だが、要点をまとめてほしいな。結局なんともなってないじゃない。


しかしそうか、両方ともダメだったか。細かいところを訊きたいな。時間はまだ大丈夫だな。電話してみるか。


「あげは、入るわよ」


ノックのあと、おそらくシャワーを浴びてジャージに着替えたであろう、さんごちゃんが入ってきた。


「ジャマしちゃったかな」


「ううん、明日でもいいことだから大丈夫よ。生徒会、ダメだったって」


「あらそう、頑張ってね」


素っ気なく言うと、布団に潜り込んでいく。

ゆっくり話をしたくもあったが、お互い明日があるし、早寝するべきだろう。

あたしは明かりを消すと、寝る体勢に入った。


「さっきの続きだけどね」


さんごちゃんが、暗闇のなかから呟く。


「大学時代に、友達の家業がつぶれそうになったの。それでそのコが大学生でありながら立て直して、今は経営者なのよ」


「すごいね」


「そう、すごいのよ。私も相談にのったし、手伝いもしたの。その時にね、経営も悪くないなぁって思って、就職の時、面接官その話をしたの」


「それで今の仕事になったんだ」


「あげは、もうすぐ大人となって世の中に出ることになる。でもその前にいろんな事を経験しなさい、遊んで、友達をつくって、自分といっぱい話し合いなさいね」


それだけ言うと、さんごちゃんは夢の世界へと落ちていった。


寝る前に頭使うようなこと言うなよ、おかげであたしはなかなか寝つけなかった。

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