第11話 その5

 いつもなら昼休みぎりぎりまで居るのだが、はっちゃんを送っていきたいので、少し早めに化学予備室究の部屋から出ていく。


「あげは先輩ぃ、青草先輩は戻らなくていいんですかぁ」


「究は1組の生徒だからいいのよ」


「1組ってぇ……」


「1年生には無いけど、2年と3年にある特殊進学クラスの事よ」


 わが校の歴史というか、ここ数年の事情を話そう。


 もともと、わが校は名古屋の街中にある女学校であったが、地価の高騰と生徒の減少により経営が難しくなってきた。

 そこで理事会は、校舎の移転と、それに合わせて共学制度に変更することにした。

 移転先は地価が安いけど、人口と交通の便がある壱ノ宮のさらに自然の多い所にが選ばれた。

つまりウチの近くだったわけだ。


「私立学校としては、早々と結果を出さないといけないから、有名大学に進学しやすそうなのを集めたクラス。それが1組なの」


「じゃあ、青草先輩はぁ、頭がいいんですねぇ」


「う~ん、まあね」


 頭が良いのは否定しない。それと人格は別物だと思えば。


 先ほどの説明で違和感があったでしょう、本来なら特別進学というところを、特殊進学と言いましたよねぇ。そこがミソなんです。


 有名大学イコール偏差値の高いところ、とは限らないんですよ。いやそれなりに高いんですけどね。

それよりも大学のカラーに合う学生を、求めるところもあるんです。


 わが校としては、進学率を上げるのが第一目標で、それと同時に有名にもなりたいんですね。

 それゆえ、頭が良いだけでなく、個性ある生徒も優遇して結果を出そうとしているわけ。


「じゃあ、青草先輩はぁ」


「個性担当の生徒。学年順位と偏差値を落とさない事を条件に、授業を免除されているのよ」


「あげは先輩もですかぁ」


「あたしは普通コースの3組、はっちゃんのクラスの真上だよ」


 渡り廊下から北校舎を見ると、3階建てで5クラスづつあるのがわかる。ちなみに職員室は南校舎だ。


 こうしてみると、2年3組は北校舎のど真ん中にあるんだなと、あらためて思った。


 はっちゃんを教室まで送ると、急いで自分のクラスに戻る。


 席に着くぎりぎりのところで、後ろからスカートを掴まれた感覚を感じる。


させるか


 その場で崩した正座のような格好で座り、危機を回避した。


 後ろを振り向き、睨み付けると、数名の男子が目をそらしている。


 いかん、他人の事をかまっている場合じゃないかもしれない。ビトーちゃんの言う通り、最近エスカレートしている感じがする。


なんとかしなければ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る