第10話 その4

 はっちゃんの話によると、ここ最近やたらとクラスの男子がスカートめくりをするようになったという。


 小柄で大人しい性格のはっちゃんは、男子の的となっているらしい。


「でも、下ろされるというのは初めてでしたぁ」


 さっきの事を思い出したのか、はっちゃんはまた泣きそうになった。



「えっと、ほら、そのおかげで、美味しいコーヒー飲めたと思って、上書きしちゃいなさいよ。ここのコーヒー、美味しいでしょ」


 いや正直いうと美味しいかどうか分からないが。


 なにせ究は毎回大量の種類を作って、自分で試飲するんだけど、当然飲みきれない。

 なので、時々あたしが飲みに来ていたんだけど、正直いうと味の違いがわからない。


 誤解の無いように言っておくが、味オンチという訳ではない。それなら美味しい弁当やご飯は作れないでしょ? むしろ他人より分かる方だと思う。


 しかし、究が求める味の違いは、遥か上の方なのだ。とてもではないが違いがわからない。


 シューガールのみんなにも飲ませてみたが、全滅だった。

 とくにカトーちゃんなんかは、究の無愛想な態度に腹を立てて、美味しくないと一刀両断する始末だった。


「ホントに美味しいですぅ アラビカ種ですねぇ。ミルはそれを使ったのなら、ゆっくり丁寧に挽いたんですかぁ、それならこの味になるのも納得ですぅ」


 究の表情が変わった。


「解るかい」


「はいぃ そしてこの色の風味からすると、サイフォンでなくドリップですねぇ これは食事のアトに飲んでもらうためのコーヒーだと思いますぅ それにこの色合いなら、厚手のアイボリーのカップが似合うと思いましたぁ」


 問題を出して満点を出された先生のような顔って、こんなのだろうなきっと。


「君、名前は?」


 聴いてなかったのかい


「廿日舞ですぅ 1年で、文芸部ですぅ」


「はつかさん……」


 え、なに、この空気。


 2人の世界が産まれようとしている、あたしがジャマになろうとしている。


 まさか、まさか、まさか、究が女子に興味を持った?


 ひょっとして、あたしはあの歴史的瞬間、ボーイミーツガールに立ち会ったのか?


おおおおおおおおおおおお大井川鐵道


 はっちゃんも究を見ている。究が人の顔を見て話すの、初めて見たぁ。


「コーヒー、詳しいのかい」


「あ、ウチが喫茶店なんですぅ」


「コーヒー専門の?」


「いえ、専用店じゃなくて普通の喫茶店ですぅ ナポリタンとかも出してますぅ」


「ナポリタン!!」


 あ、喰いついた。なぜなら究は無類のナポリタン好きだからである。


「はっちゃん、お家って近いの?」


 コースはずれるが、あたし達の帰り道だった。あたし達というのは究とあたしの事で、究の家は我が家の道を挟んで対面にある。


 究がチラリとこちらを見る。


 はいはい、橋渡ししてあげるわ。


 はっちゃんに今度お店にいっていいか訊くと、是非と言ってくれた。


 でも助けるのはここまでよ、後は自分で何とかしなさい。植物男子くん。

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