青白橡 -あおしろつるばみ-

 要するに私達の結婚は「政略結婚」っていうヤツだ。

 しかも昭和の古い時代の話ではなく、現代の話。










 教会の外で待ってくれていたゲストの方々は、笑顔で私達に花びらをふり撒いてくれる。

 ウェディングドレスを着た私は、ゲストの方々に作り物の笑顔を振りまくけど、

 この人たちは私達のことを「政略結婚」ってわかった上で、笑顔で花びらを降らせてくれてるのかな。

 そう思ったら、急に怖くなった。

 作り笑顔の新婦と愛想笑いのゲスト、そして作り物の結婚。

 …恐ろしい世界だ。


 だけど、結婚できてよかった。










 本当なら私は、愛のない結婚には抵抗があるはずなのに、そんな無駄な感情も一切湧いてこない。

 私の中に芯としてあるのは、「会社を守る」ということだけだから。

 私が人身御供になれば、うちの会社が助かるんだ。

 きっと今、隣にいるこの人からは愛されることもない結婚生活になるだろうけど。

 それでもいいんだ。

 私にはあの会社を救うことはできなかったから。

 隣にいるこの人が救ってくれるんなら、それでいい。










 厳かな結婚式の後は、ありえない規模での披露宴が始まり。

 ひっきりなしにお祝いの挨拶に来る人達はみな、この業界の大物ばかり。

 隣にいる彼は、仏頂面のくせに礼儀正しい人らしく、丁寧にその人達の対応をしていた。

 私は隣でただ、ビジネスモードで微笑んでいるだけ。

 私の役割ってこれなんでしょ?

 何もせず、何も言わず、ただニコニコ笑ってじっとしていればいいんだよね?










 披露宴が終わり、本来なら二次会とかがあったりするもんだけど、私達にはそれがない。

 友達に祝ってもらうような結婚じゃないから。

 ドレスから着替えて控え室の外に出たら、ロビーには彼が待っていた。

 憂鬱そうにスマホをいじりながら。


「車、駐車場に停めてるから。」


 出会って、二回目の会話がこれ。

 どうやら、車に乗れって言われてるようだ。

 私は無言で彼の後をついて歩く。


 随分、早足だな。

 背が高くて長い脚、スマートな背中。


 そっか…。

 私はこの人と結婚したんだ。

 まだ何も知らない人なのに。

 そして今夜、新居で一緒に暮らし始めることになるわけだ。


 …人生って、よくわかんないな。

 今夜は初めての夜になるのに。





 私はこの人とキスしたりするのかな。

 …とても想像がつかないんだけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る