サムライウーマン
壬生狼
第1章 戦国編
第1話 プロローグ
幼少のころ、百歳を越えていた『おおばばさま』は、まだ存命だった。
「おおばばさま? まみの家のお仏壇はとっても大きいよ。おうちはちっちゃいのになんでお仏壇だけがこんなに大きいの?友達のあやこちゃんちのや、なみちゃんちのは半分もなかったよ?」
既に身体を起こすことすらままならない、寝たきりの生活をしていたおおばば様は、皺だらけの満面の笑みを向けると、言い聞かせるように答えてくれた。
「それはねえ、まみちゃん。このおうちのお仏壇には、むか~し、むかし、とっても強くて、このあたりのみんなの命を救ってくれたお侍だったご先祖さまの、大事なものが奉られているからだよ」
「ふ~ん・・・・・・ 大事なものってな~に? おおばばさま」
「それはねえ、まみちゃんが大人になると見れるかもしれないねえ・・・・・・」
「教えて、おおばばさま~! お願い」
「あの仏壇の中にしまってあるものは、そのご先祖さまの”遺髪”と”言い伝え”だよ」
「いはつ~?」
「そう、”遺髪”というのは”髪の毛”のこと」
「髪の毛がとっても大事なものなの?」
「まみちゃんは、その長くてきれいな髪の毛を今ちょん切られたらどうする?」
「え~ やだな、せっかく伸ばしたのにもったいないもん」
「人は死んでも髪の毛だけは、ずっと残しておけるものなんだよ」
「ふ~ん そうなのかあ・・・・・・ ねえ、おおばばさま! その”いはつ”見てもいい?」
「だめだめ、私もこの歳までに二回しか見たことがないんだよ。見れるのはそのご先祖様の慰霊祭の時だけ」
「見れないのかあ・・・・・・その・・・・・・”いれいさい?”って今度いつ? 今年? 来年は?」
「まみちゃんが大人になる頃だねえ。その頃には私もこの世にはいられないねえ」
「おおばばさまも死んじゃうの?」
「人間はいつかは、皆死ぬんだよ・・・・・・ でもまた天国で逢えるから、心配しなくても大丈夫」
記憶の中のおおばば様との会話は、いつもそこで途切れた。
何度となく記憶の底から湧き上がる、おおばば様との会話シーン・・・・・・
私にとってそれはいったい何の意味を持つのだろうか・・・・・・
ふと気がつくとスタートの号砲が鳴り響き、私の百キロマラソン初挑戦が、まるでいつもの日常生活の延長線上の出来事であるかのように始まった。
夜明け前の薄暗い中を約千二百人の参加者とともに、はるかかなたのゴールテープ目指して歩き出した。一種のお祭りであることを承知で参加した多くのランナーたちは、笑顔と緊張の入り混じった表情を浮かべてスタートした。
小雨が会場に設置されたカクテル光線に照らされ、ランナーの肩を叩いていく。
(まみちゃんは、ついこの間まで数百メートルしか走れなかったのに偉いねえ・・・・・・)
私のまぶたの奥でおおばばさまがにっこりと微笑んでいた。
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