第21話 騎士科編:学院2年生夏④ファラウトの暗躍
「こんにちは。はじめまして、行政官のファラウト・アルゲーティンです。」
柔和な笑顔で、略式の礼をとり腰をおる。
「やあ。私は、
艶やかにしなをつくりながらそっと右手を前に差し出す。
ファラウトは、従順な下僕ように胡蝶の右手をすくい上げ、軽く唇を落とした。
「エリザ嬢ちゃんのダーリンなんだって?いい男じゃないか。ふふふ。」
胡蝶はふくみ笑いをして相対した。
「ありがとうございます。
フーディエさんのことは、エリザたちからも聞いてますが、行政府にいる時にも『黒猫の胡蝶』の噂をよく聞き及んでます。今日はお会いできて嬉しいです。」
「あはは、どんな噂だい?きっと、娼婦崩れだとか、悪徳金貸しとか良くない噂なんだろうね。まぁ、その通りだから別に構いやせんがね。
さて、お互い忙しい身だから本題に入ろう。
違法奴隷の子達は、呼べばすぐに来る。なんでも聞いてやってくれ。いい子たちだから、どうにかしてあげたくてね。
うちの間諜のことは知ってるかい?
..ふむ、ちゃんと知ってるね。
どこよりも優れていると自負している。
その間諜によって裏帳簿・隠し財産など全てあらいざらい調べてあるよ。
二度手間になるといけないから言っとくが、今回の件の書類などは何も出てこなかった。そっちで調べ直しても無駄だと断言する。
まぁ、他の悪どいことは腐るほどあったがね。
その件で摘発したい時は、そっちで間諜を放って勝手に調べな。
うちの預かりべきことじゃない。」
「わかりました。
僕は、全面的にフーディエさんを信頼しましょう。こっちもスピード勝負なもんですから、無駄は省く所存です。
上の金食いジジイどもに気づかれると引っ掻きまわされて、小蝿どもに逃げられますので。
少数精鋭の仲間で事に当たるので、足りない人員はお借りしたいと思ってます。」
互いに癖のある策略家の二人の会話は、一見すると静かでなだらかである。
しかし、何か不適切な発言があれば、すぐに一刀両断されることはピリッとした空気によって如実に感じられる。
二人は、戦場の燃え盛る炎のような荒れ狂う心をうちに秘めつつ、かつ薄氷の上を歩く緊張感を併せ持つようなギリギリの精神の均衡を保っていた。
気が抜けないな〜と、ファラウトは思った。
いつもは間延びした喋り方を好むが、フーディエの前ではそんな喋り方をしたらフーディエのテリトリーから滑り落ちる気が切々とする。
そんなわけで、ファラウトはしっかり喋っていた。
そして、フーディエとの挨拶が終わると、ぐったり脱力した。
これから奴隷の子たちの事情聴取をしなくちゃなぁ....
よし!やろう。
「初めの子入ってきてくれる?
こんにちはぁ。僕は、行政官のアルゲーティンです。よろしくねぇ。
それで君の出身地はどこかなぁ?なるほど、カンナビの街か。ちなみに攫われた場所はわかる?
ふんふん、郊外の牧場までミルクを買いに出かけた途中で馬車に引っ込まれたんだぁ〜、怖かったねぇ。
それから、どのくらいの時間馬車に乗ってたかわかる?そっかぁ。
監禁されてた場所で覚えている事ある?タンスがあったとか、木箱があったとか、壁が崩れてたとかなんでもいいんだけど。
へぇ、鏡があったんだぁ。それはどんな鏡?丸くて壁に掛かってあったんだね。他にはある?...(以下省略。)」
「あと騎士の人の容姿で覚えてる事あるかなぁ?へぇ〜、イケメンだったんだ?
髪型は、後ろで一本に結んでいて背中の中ほどまで伸びてたんだねぇ。色は??
暗くてわかんなかったんだね。
ちなみに剣はどっちに刺さってた?覚えてる?向かって左?
へぇ〜それは確かかな。イケメンだったから間違いない?
じゃあ、ペンを持つ手は左だったかな?そうかぁ。
うんありがと、次の子連れてきてくれるかなぁ。もう、仕事に戻って。お疲れ様〜。」
ふーん、大体騎士役のものは3人かなぁ。
左利きのイケメンが一人と右利きのガタイがいい男と普通の男ね。
こいつらの繋がりってあるのか?
一人検挙したら芋づるで釣れればいいけど。
多分、フーディエさんもここまではわかってるはずだから、イケメンは奴隷商には足を運んでないなぁ。目立つもんなぁ。
トントントントン。
指で机を叩きながら情報を精査する。
奴隷商に出入りしてた人の一覧をもらうか?
運び屋がいるかもしれない。
「フーディエさんの間諜の方ぁ?いませんかぁ?」
誰もいない部屋で叫んでみると、スッと音もなく菅家が現れた。
「ファラウト様、いかがいたしましたか?」
屋敷の案内をしてくれて、
「えっと、リウさんがこの件の間諜なのかなぁ。」
「はい、おっしゃる通りです。こちらが我々が調べ出してから今までの出入りの人物の一覧になります。繰り返し出入りしている人物にはしばらく監視対象として張り込んでおりましたが、白でした。
ただ気になる点は、一度しか来ない顧客が他と比べてあまりにも多いです。その者たちに接触して目的を聞くと「困ってる人がいて、たまたま近くにいたから届けてあげた」など、偶然の行動だとわかっております。
ファラウト様の考え通り、あいだに運び屋がいると考えるのが妥当でしょう。」
何も言わずにこっちの考えを読むし、必要なものをすぐ出すわ、有能な人だなぁ。うちに欲しい人材だなぁ。
「私は、生涯胡蝶様にお仕えするのが至上の喜びでございます。ご遠慮させてください。」
おおっ、人の心も読めるのかぁ、有能だなぁ。残念〜。
ファラウトは、胡蝶の店を出てアルゲーティンの屋敷に戻った。
すかさず、執事が出迎えて手紙を渡してくれた。
「おかえりなさいませ。若様、手紙が数通来ております。」
恭しく手紙をファラウトに渡す。
「ん、ありがと〜。しばらく執務室に篭るから、よろしく〜。」
手紙をヒョイっと受け取り、送り主の確認をしながら歩く。
あ、来た来た。
撒いていた餌に食いついたね。
ふふふっと微笑みながら執務室に入った。
周りから見れば、柔らかな木漏れ日のような笑顔に見えるが、実際は真っ黒である...。
「さて、分布図を作り終えようかな。」
机に帝国の地図を広げて、攫われたところにチェスの駒を置く。32個の駒全てを置いて、様々な角度から見てみる。
ふむ、大体の監禁場所は2カ所ってところかな。
こことここの二つは、分布から外れてると考えれば妥当なとこだね。
次はどこかなぁ。胡蝶さんに人でも借りて、どっちも探ってもらおうかな。
アリスンには、真ん中地点で待機してもらって、怪しい方に向かってもらおう。
すかさず、ファラウトはフーディエ宛に手紙を結んで鷹を飛ばした。
よし、次にアリスンを呼び寄せる時期はこの手紙に書いてあるはず〜。
ファラウトとは、ふふふっと笑いながら、ペリッとペーパーナイフで手紙を開封すると、思った通りだった。
こないだ奴隷商に向かい、僕の肩書を利用して奴隷を15人即決で購入した。
金払いのいい貴族として顔を売った。
その際世間話もして、悪どいこともたくさんしてることがわかったけど、今回は無視した。
違法奴隷で摘発できれば、他はゆっくり摘発できるしね。
怪しいと思われないように、購入理由も伝えてある。
・器量の良い子が揃ってると黒猫から聞いた。
・近々、お客様が大勢来るので下働きが急に必要になった。
・その後もうちで重用し続けるので、一からうちのやり方を学んで欲しいので、癖のない新しい奴隷がいい。できれば女の子がいい。
この3点である。
その際、まだ数が足りないということを、奴隷商の耳に入れといたので、きっと手に入る算段がつけば連絡が来ると思っていた。
来店して欲しいのは10日後か.....、きっと怪しい荷馬車が既に待機中なんだろう。
ここからはスピード勝負だ!!
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