第8話 学院編:学院1年生秋-初めての戦闘と大きなカブ


闘技場は、上から全体を見渡せるように階段造りになっている。

そこの一段に陣取って4人は座った。

そこ以外にも席があり、一番上の四方には賓客用の個室が鎮座している。今日は、騎士団長や隊長さんたちがいるはずだ。


「ハスウェル、黒の騎士隊長さんってどんな人なの?」

コンラッドが、おもむろに聞いた。


「黒は、対ひと専門の騎士隊なんだ。戦争や紛争があると前線で真っ先に活動する危険な役割を担ってる。だから黒に所属する騎士は他よりも強い騎士が集まってるんだ。

その中でも隊長は別格で強い。

騎士団長よりも強くて帝国一強い!

しかも年齢もまだ20歳なんだぜ。新卒から2年下積みして、3年目には副隊長に抜擢されて、今年からは隊長に大抜擢されたんだ。異例の出世スピードなんだよ。

俺は、その人の部下になりたい。

ちなみに、今日の優勝者は、黒の騎士隊の拾席(10番目)が手合わせをしてくれるんだ。

来年が楽しみだなぁ。俺も手合わせしたいぜ。」

ハスウェルは目をキラキラさせて賓客席を見上げた。


「騎士団長よりも強い??それって、隊長じゃなくて首長じゃない?」

エリザが、ハスウェルに問いただした。


「ん?黒の騎士隊の一番強い人って隊長って言うんじゃないのか?」


「違うわ。騎士隊の中で一番強いのは首長よ。隊長は、首長の下に位置する大隊とか中隊の一番上の人のこと。ハスウェルが、憧れてるのは多分黒隊首長ね。」


「へぇ〜、隊長って一番上ってイメージだった。」


「学院のランキングも一番が首席っていうでしょ?それと一緒。」


ハスウェルは、騎士の家門だが制度のことはさっぱりだった。やはり残念脳筋だ。




試合が始まり、まずは30人の乱戦。

参ったと言わせるか、場外に出すか、意識を刈り取るのが脱落させる条件だ。

残った5人が次戦に進む。

これを繰り返して最終的に10人がトーナメントに進む流れだ。


乱戦は、知力も大事らしくその場で結託をして、戦略を駆使し複数人で挑むことも重要になる。

だが事前に組み分けはされておらず、名前を呼ばれたものが試合場に集う仕組みになっているのであらかじめの結託はできない。

戦いながら怒号が飛び交い、段々と陣形ができてくる様がなかなか面白かった。

必ずしも強いものが残るわけじゃなく、たまには従順に知略の優れたものと組まなくてはトーナメントには進めないという葛藤が見受けられた。

確かに、こういう姿を見てると騎士団はスカウトしやすいと納得できる。規律を守り臨機応変ができることが団体行動には必須だからだ。それが出来なければ死ぬしね。


トーナメント戦になると、強さがものを言うようになった。

知力で這い上がったものはここで脱落していく。

だがここまでくれば、騎士団には絶対入れるので策士タイプも御の字だ。


残った面々は、最高学年がやはり多くて、3人が下級生だった。最年少でも4年生で、確かに才能がありそうな先輩だったが、上位には進めなくて残念だった。

下克上を少し期待してたんだが...。


優勝者は最高学年の青年だった。表彰式の後、拾席との手合わせがある。

その前にトイレに行こうとアリスンは立ち上がった。


「ん?アリスンどこ行くんだ?」

「花摘んでくる。」と会場内のトイレに向かった。


「帰り道がわかんなくなった...。ここどこだ?」

ぐるぐる回って同じような景色が続いて、方向がわからなくなった。


「うーん。どんどん暗くなる。おかしいなぁ、日光はどこぉぉ?だれかいませんかぁ?」

カーブを描いた廊下の先に声が反響してこだまする。


すると、先の方から人の声が聞こえてきた。


だれかいるみたい。道を聞いてみようっと、声がする方に近づいていって啞然。

なんかヤバイとこきちゃったかも...とっさに、柱に隠れる。


柱の影から覗いてみると、女の子が1人と妙齢の女性が1人。それとガラの悪そうな男が3人、最後に壁にもたれてる身分が高そうな青年が1人いた。

どうやら青年が親玉っぽい。


(これ襲われてるんだよね....、どうしようかなぁ。

ぁ、女性が突き飛ばされて吹っ飛んだ!気を失ってしまってる....。

女の子は、どこかに連れて行かれそう...。

ロン様といい、人攫いが流行ってるのかな....世も末だ。

しゃあない、助けるか。)


ポケットの中からペーパーナイフを出して、石に魔力を入れる。

風の魔法で勢いをつけるように術式構築。準備完了。


あとは、鼻から下をハンカチでマスク。

髪は目立つがどうしようもない。

一応下ろしてトレードマークのポニーテールを解放...。

変装らしい変装は出来なかったがやらないよりはマシだ。


よしっ。


 ....ready...GO !!


身を屈ませながら、トップスピードに乗る。顔は3人組に向けて走り込みながら、目線だけを動かし、ペーパーナイフを壁の男に向けてアリスンは投げた。


ガキンッ!!


魔術で力を増幅させたので、ペーパーナイフが鋭利な刃物のようになり、男のズボンと壁を串刺にした。これで、壁の男は動けない。


こいつをそのまま放置して、アリスンは3人組に瞬時に間合いを詰め攻撃を仕掛けた。


ドンっ!


女の子を掴んでた男の顎に掌底一発。

脳震盪を起こして、前にぐらっと男が倒れてくる。


そのままの勢いで倒れつつある男の肩に両手を乗せて倒立!

脚を開いて回転っ!


ギュルンっ。


バキバキっ。


残りの男たちの顔に、蹴りをクリーンヒットさせて意識を刈り取る。


すとんっ。


アリスンはマントを翻し、スカートをふわりとさせて静かに着地を決めた。


アリスンは、残った壁男に、スタスタ近づいて声をかける。

「ねえ、何してるの?」

思ったより低い声が出た。


男は、顔を蒼白にして何も言わない...。

「何も言わないなら、悪者って事でいいよね?じゃあ殴るから、歯を食いしばれ!」


右腕を大きく振りかぶる。


しゅんっ。


男の顔すれすれでパンチを止めたが、情けなくも男は失神した。弱っ!失禁しないだけマシか?


アリスンは壁からペーパーナイフを回収しようとしたが、なかなか取れない。

魔力を込めすぎたみたいだ...

うーーーーんっ!


うんとこっしょ、どっこいしょ。

まだまだナイフは抜けません。

こういう時は、私を掴んでもらって一緒に抜いてもらうんだよね!

おーい、お嬢ちゃん一緒に抜いておくれ。うんとこしょゴッコをしようじゃないか。


アリスンが振り返ってみると、女の子はカタカタ震えて座りこんでいた。

うん、手伝える要素ゼロだね...


ん、誰か来るか?声がする。

お嬢様ぁ〜、どこですかぁって言ってるからこの子の従者か護衛だね。

うーん、ナイフはもったないけど、ずらかろう!


「お嬢さん、私目立ちたくないのでこのことは内緒ね。」

女の子の口元に人差し指をつけて、シーっとしてから片目をつぶる。

そして、男に引っ張られた女の子の服が破れてたので、アクアマリンのマントをかけてくるんであげた。


いい男がすると惚れてしまうやろ〜ってなるモテ技を披露。

ドキドキして記憶から抹消するといいあるよ〜。


「マント、たくさんあるからあげるわ。じゃあね!」

逃げるが勝ちあるよ〜




そのあと、ウロウロしてどうにかみんなのところに戻れたが、すでに手合わせが終わってしまっていた。

「アリスン、どこまで行ってたの?もう手合わせ終わっちゃったよ。すごく拾席は強くて、あっという間に終わったから、何回も先輩挑んでたよ。」

「花摘みなげぇよ。」


「うん、道に迷って途方にくれた。私も見たかったなぁ。」


エリザだけが心配そうに私の顔を窺ってくれ、私の格好に気づいた。

「あら、マントどうしたの?ないわよ。」


「あー、スカートが破けた婦女子がいて、あげちゃった。エリザみたいに刺繍もさしてない量販品だったからね。」


ふーん。とエリザは納得してなさそうにしてたが、それ以上の追求はされなかった。


この数日で2回も誘拐に出くわすなんて、今世はトラブルメーカーなのかもしれない。


私は、幸せに老衰したいんダァ!!平穏プリーズ!

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