第一章 最終話~旅立ち~

 わからなかったこの世界の事実が少しずつ分かり始めてきた。


「当初真王はこの話に大変興味を持っていた。『奴』の事、超能力者の事、この地球以外にも生命体がいる事……とにかく全部にね」

「話を聞いた真王は私達に全面協力することを約束してくれました。でもそれはあくまで建前で、実際の理由は別にあったんです」

「別の理由? それは一体なんですか?」

「この宇宙の覇者になることだ」

「「「宇宙の覇者!?」」」


 あまりにもぶっ飛んだ理由に一同は同じセリフを合唱してしまう。宇宙の覇者って言った!? なぜ!?


「なぜ? っていう顔をしているね。勿論理由はある。真王は強欲な男だ。この星が奪われることに大変腹を立てていてね。それと同時に『奴』を倒せば自分の星は宇宙で一番強い軍隊を有すという事になるから、ぼくらの訪れた九万四八九〇個の星を征服し、王になるのも不可能じゃないと思ったんだ」

「成程な……一理ある考えだぜ」

「当初は能力者を生み出す日々に明け暮れていたが、思うような強力な能力者が生まれずに苦闘していた。だけど社尽という男が『異次元の穴を開くTRE』になり、状況が一転した」

「……僕の両親を乗せた飛行機がこの世界に来た」

「そうだ。それが一〇年前のことだ。科学技術の向上に、異世界の知識、そして人は大切な何かを奪われる際に強大な能力を持った超能力者になる。それが……」

「TREの正体か……」


 宝を奪われた能力者の生まれた理由と両親が絡んでいたなんて、思いもよらなかった……


「星の地形を変え、天候をも操る強力な能力者は今までどの星にもいなかった。そこで真王は世界中の人間から宝を奪って強制的にTREにする計画を打ち立てた」

「その被害者が俺らって事か」

「兄は止めようとしました。けど、すでに遅かった……真王を始め、その息子も孫も兄さんの能力を無効化し、凌駕するTREになってしまっていたんです」

「そして止めるものがいなくなった真王は……あとは皆さんの知っての通りです」

「「「………………」」」


 時計を見てみるとここまでの話が終わるまでにかかった時間は大体三〇分くらいだった。だけど体感ではもっと長く、疲労の蓄積はもっと多く感じた。


「真王の野郎……やっぱり許せねぇぜ……」

「お二人の想いを踏みにじるなんて……」

「いや。全ての元凶は冷静さを失い、暴走してしまったぼくのせいだ。ぼくがもっと冷静に対処し、アンティズメンノの話を聞いていれば鉄操君のご両親や皆さんのような事には……」


 メタスターシさんとアンティズメンノさんは僕達の前で膝をつき――


「「申し訳ありませんでした」」


 土下座した。二人は深々と頭を下げ謝罪してきた。二人の土下座は何か重いものを感じる。背負っているものの多さなのか? 九万を超える星を渡り、宇宙を救おうと尽力してきた二人の土下座だ。重くて当然か。皆も同じことを思っているのか口を閉じ沈黙している。


「二人とも……頭を上げてください。確かに僕の両親は死んでしまいました。けどあなた方も悪気があってやったわけではありません。こうなったのも全ては真王のせいだ」

「そうだぜ! それを利用し、私欲の為に滅茶苦茶にしたのは真王だ。許せねえ!」

「ありがとうございます皆さん」

「そして不躾ですがあなた方にお願いがあるんです」


 二人は顔を見合わせて一歩前に乗り出し、はっきりとした口調で告げた。


「あなた方に真王を倒していただきたい!」


 メタスターシさんの口から出た意外な言葉に目を丸くする。


「僕達が……真王を?」

「なんでだ? あんた程の力があれば真王位余裕だろ?」

「いやそれは出来ない。知っての通り真王のそばにはいつも息子がいるだろう? 彼の能力は自身を中心とした半径一〇mの空間で能力が使用できなくなるというものなんだ」

「それは俺が身をもって経験した。能力が使えなくなって焦ったぜ」

「更に真王は中心宮から行って最初の国である「科学の国」で息子の能力を研究し、息子の血とぼくがこの星に来て間もなくに提供した血液を原料とする「能力を抑える液体」を生成した。効果はその液体から半径一〇mの空間でぼくの能力を抑えるというものだ」

「そしてその液体から作られた建築物や地面で国や王宮を囲い、兄さんを近寄らせないようにしたのです」

「そうだったんですか……用意周到ですね」

「だからぼくは中心宮へは行けない。この前は鉄操君が上空に持ち上げていたおかげで能力が使えていたんだ」

「成程……それでメタスターシさんは戦えないんですね」

「だから俺らに戦ってほしいってわけか」

「でもよ。中心宮以外だったら能力使えるんだろ? だったら他の国を制圧してこっちに寝返らせれば……」

「それはしたくない」

「なんでですか?」

「できればこの星の住人を傷つけたくないし、何よりぼくらの最終目標は『奴』を倒すこと。無駄な戦いでぼくらの信用を無くし、戦ってくれないと困るからね」

「ちゃっかりしてるなぁ」

「いえ。そんな事になってしまうとTRE化してしまった人達の犠牲も何もかもが無駄になるからです。どうか……お力をお貸しください」


 二人はもう一度深々と頭を下げてお願いしてきた。その問いに再び室内が静寂が訪れる。だが僕の決意は固まっていた。その場で立ち上がり、二人に思っていることを告げた。


「わかりました。僕は行きます」

「本当かい鉄操君?」

「はい。両親を殺されて、宝を奪われた原因は真王だ。先程言った通り、僕のこの世界で生きる理由は真王を倒し、両親の仇を取ることです。願ったり叶ったりですよ」

「ありがとう……」

「鉄操。お前だけに無茶はさせないぜ。宝を守り損ねた罪滅ぼしをさせてくれ」


 肩に重く硬い手が乗せられ、音破が横に立って親指を立ててきた。


「ありがとう音破! よろしく頼むよ!」

「おう! 用心棒は任せてくれ!」

「うん! ……うん?」


 左の裾を何者かに引っ張られ、首を向けるとそこには照れ臭そうに旋笑が立っていた。


「旋笑? もしかして、君もついて来てくれるの?」

「………………」

「ありがとう旋笑……頼りにしているよ」

「なら私も!」


 旋笑や音破に触発されてか、グアリーレさんまでもこの旅に立候補してくる。だがそんなグアリーレさんを止める人物がいた。


「グアリーレ。お前は駄目だ」

「ラージオ兄さん!? 何で!?」

「そんな危険な旅にお前を行かせられない」

「そんな! でも……!」

「だめだ。お前を失いたくない。仮に俺達が付いていっても真王戦のような事が起きたら、お前を守ることができない」

「そう言う事だ。鉄操君達には悪いけど、僕らはいけない。すまない」


 深々と頭を下げる二人。でもその気持ちは痛い程よくわかる。目の前で肉親を失う気持ち……それはどんな攻撃よりも痛く、心に残るものだ。これに関して僕は何も言うことができないし、むしろ賛成だ。そんな様子を見たグアリーレさんは顔をしかめ、悔しさをにじみ出した表情を浮かべたが、すぐに気持ちを切り替えたのか、僕の顔を見つめてきた。


「……わかりました。なら鉄操さん!」

「はい!?」


 突如グアリーレさんに手を握られ変な声を出してしまう。グアリーレさんの腕は小さくて、スベスベしていて、とても暖かかったが、小さく小刻みに震えていた。そして真っすぐ僕の目を見つめて言い放つ。


「ご無事で……どうかご無事に帰って来てくださいね!」

「はい! しぶとさは僕の長所ですから!」

「そうですね……でも、無茶はしないでくださいね?」

「はい!」


 握られた手を強く握り返すと、なんだか照れ臭くなってきた。


「おい」


 そんな中、沈黙を貫いていたウンロン君が一歩前に出る。


「メタスターシ。あんたはおれの世界にもテレポートできるのか?」

「それは無理だ。ぼくは行ったことのある場所じゃないとテレポートできない」

「けっ! ならおれの希望は潰えたってわけか!」

「いやそうでもないよ? この一個先の国に天才発明家がいてね? 瞬間移動やごみ問題を解決するために異次元の穴を広げる実験をしているんだ。少し変わった年寄りだけどね」

「ほう……それは良い事を聞いた。良いだろう。ならそこまでお前らの旅に付き合ってやる」

「本当ですか!」

「その国に行くまでだ。この世界の事は自分達で勝手にやってな!」

「ありがとうウンロン君。旋笑! 音破! よろしく頼むよ!」

「!!」

「おう!」




「さてと。いよいよだね。この世界を旅するのか……何が待ってるのだろう?」

「いいもんだぜ! 色んなものに触れられる! 価値観も変わるぜ!」

「けっ! 呑気な奴らだぜ。気を引き締めて行けよ」


 僕らは一通りの旅の準備を済ませ、国の門へと到着し、皆に見送られる。


「鉄操さん! お気をつけて! 旋笑ちゃん……? くれぐれも抜け駆けしないでね?」

「……!! ……!!」

「音破君! みんなを頼むよ!」

「国の事は俺らに任せろ!」

「ええ! 皆さんも達者でいてください!」

「鉄操君。旋笑ちゃん。音破君。よろしく頼むよ」

「はい! それじゃ行ってきます!」


 僕らは歩きはじめた。真王を倒して父と母の無念を晴らし、みんなの希望を取り戻すために!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る