第一章 第二十三話~決着~
「――ほう……青空とは……随分と久しく見てなかったな」
そこに広がっていたのは雲一つない青空だった。青空なんて十年ぶりやろうか? 綺麗……なんて美しいんやろう。ワイはそんな澄み切った青空を見ながら疑問に思う。なんで青空が? 空には分厚い紫色の雲が広がっているはずなのに……
「ふふふ……やはりお前達親子なのだな。お前の父親は私を殺そうと地殻変動を起こし、地盤ごと宇宙空間へと持っていこうとした。親子揃って高いところが好きなのだな」
「…………黙れ…………」
「お前の母親はこの星を見つけられないように、この星を他者から干渉されないよう分厚い紫の雲で覆おうとした」
「…………黙れ…………」
「だが結局は途中で成し遂げず儂の手で死んだ。全く中途半端な愚か共よ」
「黙れぇええええええ!!」
油の切れた歯車のような金切り声……鉄操の声は中世的な優しく綺麗な声質だったのに、もはや別人の声に変わってしまっている。そんな鉄操の声なんか聴きたくないと、ワイは耳を塞いでしまった。
続けて鉄操は空に手を伸ばし始めた。なんや? 空に何が――
「…………!!」
「ほう!」
赤い点が一個。ものすごい速さで降ってきている。かなり大きい……あれは――
「隕石とは……中々やりおる」
金属を操る。それは微量なものから地球外の鉱物までの事をさしているようで、鉄操がその能力を使って呼び寄せたもの。それは隕石だった。隕石は火を纏いながらどんどんと大きくなり、こちらをめがけて飛来してきた。
「仕方ない……社尽王よ。お前の事は忘れない。お前の能力は私の中で生き続ける」
「……は。光栄であります――がっ!」
「!?」
真王は腕を捲り、力を込め始めた。右腕が指先から肩まで真っ黒になったと思った矢先、傍らに横たわっていた社尽王の心臓に右手を突き刺し、引っこ抜いた。そのあまりにもグロテスクな光景に再び吐き気を催していると、更に真王は心臓を頭上に上げ、それを思い切り握りつぶした。はじける心臓から流れ出る血により、纏っていた純白の服は真っ赤に染めあがり、真王はシャワーのように降り注ぐ血を大口を開けて喉を鳴らしながら飲み始めた。数秒後、全ての血液を飲み干した真王は軽くゲップをし、枯れた心臓を地面に投げ捨て、体を光らせる。
「ふん!」
真王はその状態で空に手をかざし、力を込める。すると、上空に巨大な黒い渦が出現した。そんな!? あれは社尽王の能力やろ!? 何で真王が異次元の穴を!? そんな疑問を抱いているうちに隕石は異次元の穴に飲み込まれ、跡形もなく消え去った。こんな事を思うのもなんだけど、真王には感謝するしかなかった。だって奴がいなかったらワイら死んでいたのだから……
「ふふふ。両親と違ってお前は有能だな。どうだ? 私と一緒に組まないか? 私と組めば宇宙の覇者にだってなれるぞ?」
「がぁああああああ!!」
地面に散乱している金属物質が集結し、巨大な拳のようなものを形成。更には憲兵達の血液が集まり、巨大な槍のような形となり、もう一回空を見上げてみると、今度は三つの隕石がこちらに迫ってきている。
「はぁ……聞く耳もたぬか。ならばお前は私の野望の障害になりうる」
真王は目の前に異次元の穴を開き、その形状を槍のような形状に変えていった。
「死ぬがいい」
「…………!!」
真王の目、言動、金属では操れない能力の使用。それらが意味する事はここで鉄操を葬り去る気だという事や。そんな事はワイがさせない。でもワイの能力で真王に太刀打ちできるか……? いや、思い出せ。ワイが初めて鉄操と戦った時の事を。あの時無能力の鉄操はTREのワイに何をして来た?
「小娘。なんのつもりだ」
「………………」
「いっちょ前にこの小僧を守るつもりか?」
鉄操の前、真王と向かい合うよう立ったワイに真王は鼻で笑って小ばかにしてきた。だけどそれがどうした。ワイは鉄操を守るその事実だけあれば十分や!
「……旋笑……」
「!!」
後ろから聞こえた弱々しい声。急いで振り返ると鉄操の体から出ていた黒い光が徐々に弱まっている事に気付いた。
「……ありがとう……こんな化け物の僕を庇ってくれて……」
張り詰めた怒りが徐々に収まってきているのか、体から発せられている光が弱々しくなってきた。体全体を覆っていた黒い光は薄まり、鉄操のミイラのような酷く困憊した顔がこちらを見ていた。
「ほう。膨らみ噴火していた憎悪が収まったか。小娘……お前はこの小僧の恋人か何かか?」
「!!」
「ははは! 真っ赤な顔して否定するところを見ると一方的な恋心を抱いているようだな。まぁいい。子供の恋沙汰など興味はない。儂が興味を抱いたのはお前だ。お前という存在がいれば、小僧を上手くコントロールできるかもしれないな」
「!!」
「さてと。お前はわからないかもしれないが、小僧の能力が弱まり、この空間は落下し始めている。一分もしないうちに地面に叩きつけられるだろう」
真王は一旦言葉を区切り、ワイに告げてきた。
「取引をしよう。孫と『鉄の掟』結び、儂の仲間になれ。そうすればお前達の命は助けてやろう」
「………………」
そんな言葉を聞いてワイは一瞬考えたが、すぐに答えは決まった。けど、これはワイの意見であって、鉄操の意見ではない。どうしようか……なんて考えていると、鉄操がワイの肩を抱いて来た。
「…………?」
「……旋笑……ごめん……」
おぼつかない足を踏ん張り、疲れ切った顔を必死に堪えて笑顔を向けると……
「……僕と一緒に……死んでくれる……?」
「………………」
「……はは……ありがとう……旋笑……」
真王の仲間になる位なら死んだ方がマシ。意見の一致や。ワイの答えを聞いて安心したのか、鉄操の意識が途切れた。ふふふ……いいね。気持ちが昂ってきたわ。体は自然と発光し出し、落下速度を落とすかのように真下から巨大な竜巻が生み出され、この空間を包み込んだ。そしてワイは鉄操を抱きかかえながら首元のマフラーを下ろして、真王にベロを出しながら右手で中指を立てる。
「残念だよ。死ね――」
その様子を見た真王の顔から笑顔が消え、無数の異次元の槍を形成。ワイらに向けて高速で異次元の槍飛ばしてきた。
「やれやれ」
だがその槍はワイらに届く前に跡形もなく消えた。違う。ワイらの前に突如現れた男が消し去ったんや! それと同時に真王は見たことも無い驚きの表情を浮かべ、その男を凝視した。
「相変わらずだな真王よ……」
「ば、バカな……なぜお前がここにいる?」
目の前に現れた男は一九〇㎝くらいの長身に見たことのない服装をしていた。民族衣装かな? 手首にはブレスレットや首飾りなど、装飾品をたくさんつけており、耳が少し横に尖がっていた。ここに来て新手か? それとも真王の攻撃を防いでくれたから味方か?
「安心して僕は味方だよ」
そんな疑いの目を送っていると、それを見透かされたように目の前の男は真王に背を向けて笑顔を向けてきた。だが真王はその隙を見逃さず、完全に無防備な背中に異次元の槍を飛ばして来た。が、これも男に届く前に一瞬にして消え失せた。この男……あれだけの攻撃を表情一つ変えずに消し去るなんて、一体何もんや……?
「感動の再会も挨拶一つないとはつれないな」
「ふっ……勝手に去ったのはお前だろう? まぁ会いたかったのは事実だがな」
「ぼくも会いたかったよ真王」
一見和やかに話しているように見えるが、お互いわかりやすい作り笑顔と、わかりやすい殺気を放っている。この男が何もんかはわからんけど、真王との仲は超絶に悪いって言うことがよくわかる。
「それにしても相変わらず見事な能力よのぅ……。宇宙最強と比喩されていただけはあるな」
「『元』の話だ。今宇宙最強は『奴』だ」
「ふふふ……そうだったな」
宇宙最強? 『奴』? 全く話についていけず置いてけぼりのワイは黙って彼らの掛け合いを聞くしかなかった。変に動いてこの状態を崩すとこっちが劣勢になるかもしれないという考えからや。
「で、どうするつもりだ? 儂を殺すか?」
「いいや。今は殺さないさ。ぼくがここに来たのは鉄操君と旋笑ちゃん。そしてこの男性を助けるために来ただけだからね」
「そうか」
男はゆっくりとワイらの横に立つと再び真王を見つめる。
「……それにしてもあなたらしい能力を得たな。相手の能力を奪う能力……強欲なものだ」
相手の能力を奪う能力? そうか。だから社尽の異次元の穴を開く能力が使えたんか!
「ただし相手を殺し、一定の儀式を行わなければならいけど」
「ああ。いずれお前の能力を……そして『奴』の能力も得るとしよう」
「その前にお前はこの子達の手によって滅ぼされる」
そう言った直後。ワイの見ている景色が一変した。真王の姿は消え、禍々しい拷問器具や肉片と化した憲兵の死体も消え、見覚えのある部屋に変わった。ここは……ノンビーヌラのグアリーレちゃん達の隠れ家……?
「うお!? いきなり現れた!?」
「音破君の言った通りだ! 心臓に悪いなぁ!」
「旋笑ちゃん! それに鉄操さん!」
目の前に座っていた三人が驚きと同時に安堵と祝福の笑顔を浮かべながらワイと鉄操を抱きしめる。
「おかえり旋笑ちゃん!」
「………………」
ただいま……みんな……。そこでワイの保っていた意識は途切れた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます