憧れの彼氏

宵闇(ヨイヤミ)

第1話

私には、憧れている人がいます。

その人は私と同じ高校の、同じ部活にいる、一つ年上の先輩で、名を悟先輩と言います。名前の通り男子です。

先輩はドジで、よく段差のないところで躓いたりして膝を擦りむいたりしてます。最近だと家庭科での調理実習の際、包丁で指を切ってしまったようで、今先輩の指には瘡蓋が幾つも出来ています。

そんなドジな先輩ですが、いいところもあります。勉強が出来て、周りの人とすぐ仲良くなれるコミュニケーション能力があって、その場をわっと明るくすることが出来る、それが先輩の良いところです。でもそれ以上に、優しくて周りを見て行動のできるところが一番良いところだと私は思います。

至って普通のことかもしれません。

優しいなんて、多分誰もが言われていることでしょう。ですが、何故でしょうか。この人だけ、先輩だけが優しい、特別優しい人なのだと、何故だか思えてしまうのです。

「葵、何ぼーっとしてんだ?帰るぞ」

あ、そうです。私は葵といいます。そしてそんな私を呼ぶのは悟先輩です。背が高いので何処に居てもすぐ見つけられます。

「すみません、ちょっと考え事を」

「考え事?悩みでもあるのか?」

「いえ、悩みではないんです」

「あ、もしかして……」

先輩がこちらに寄ってきて、私はあっという間に壁際へ。そして背中が壁にぺたりとくっつき、サイドは先輩の手で押さえられ逃げ場が無くなってしまいました。これは所謂『壁ドン』というものでしょうか。心臓が破裂しそう。

そして先輩はゆっくりを顔を近付けてきて、私の耳元に顔をやった。

「あ、あの先輩…?近いでs……」

「…れ……………がえ…た……?」

「え?今、なんて……」

「だから、俺の事考えてたの?」

あ、当たってますね。

私は自分でも分かるほどに顔が赤くなった。

夕日で染ったかのように赤くなってしまった。そんな私を見て先輩は『ふっ』と笑ってみせた。

「何そんなに赤くなってんだよ」

「先輩が近くでそんなこと言うからですよ……」

「赤くなるってことは当たってたのか?」

「そ、それは……」

「それとも違う男のことでも考えてたか?」

「それはありません!私は先輩の事を……!」

「俺の事を?何だ?言ってみ?」

「……っ!」

先輩の息が耳に当たる。そのまま甘噛みをされ、私は次第に体から力が抜けていくのを感じた。

「先輩、急に何するんですか…!人が来るかもしれないのに……」

「人が来なきゃいいってことか?なら、場所を変えよう。ほら、行くぞ」


そうして私は先輩に手を引かれ学校を出た。

この意地悪で、それでも優しい憧れの先輩は、私の憧れであり彼でもある。

そんな彼を私はいつも憧れの眼差しで見つめてしまうのだった。

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憧れの彼氏 宵闇(ヨイヤミ) @zero1121

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