第14話

 目的の駅まで三駅。時間にして十分強。電車の中で朝井さんは瀬川くんの格好についてあれこれ聞いていたが、瀬川くんは「特に意味はない」とか「ただの気分転換」と受け流していた。


 そんな二人のやり取りの中、どうしても市川さんに向いてしまう意識をぬぐえなかった。それでも、ほとんど目を向けることはできない。「朝井さんのために個人的な感情は置いておく」はかなり難しすぎた。しかしそれは市川さんも同じなのか、二人の会話に入ることもなく、元々口数が多い方でないとはいえ、ほとんど言葉を発しなかった。


 そうして駅につき、少し歩いてボウリング場にたどり着く。

 自動ドアから中に入ると、そこはかなりのやかましい轟音に包まれていた。場内に鳴る音楽、ゴウゴウと低く唸るボールの音、カァンというピンをはじく乾いた音。近距離で人と話をする場合でも、意識して声を張らなければならない。


 まず四人でじゃんけんをして順番を決め、朝井さんが率先してメンバー表に名前を書いて受付に出した。少し順番まで待たされることになったが、ほどなくしてレーンに入ることになる。


「泰樹くんはどのくらい出るの?」


 ボールを選んでいたところで、瀬川くんに尋ねられた。


「いや、全然だよ。百超えればいい方かな」

「マジか」


 含み笑い。予想外の答えだっただろうか。運動神経はよくない。ボウリングは、一番最近で夏休みに岸くんと鶴木くんと来たが、そのときは一ゲーム目が八十くらいで、二ゲームと三ゲーム目が百十とかそのくらいだった。それでもかなり良かった方だ。


「泰樹くん、それあたしと同じくらいだ」


 傍を通りかかった朝井さんが笑う。


「そうなんだ。竜くんはどのくらいでるの?」


 女の子に負けたらみっともないかな、とも、別にだからどうってこともないかな、とも両方を思いつつ、話を返した。


「俺は一番行ったときで百七十くらいかな」

「すごい」

「市川はどのくらい?」


 朝井さんの隣にいた市川さんへ、瀬川くんが話を振る。


「あたしは全然だよ。五十とか六十とか?」


 苦笑しながら疑問形で言う。


 市川さんとボウリングに来るのは二回目だ。その一回は、市川さんの「友達とボウリングの約束をしたんだけど、あまり行ったこともないから練習に付き合ってくれない?」という言葉からだった。それ以外では、お互いに運動が得意でないと知っているのもあり、どちらからも誘うことはなかった。


「でも女の子ならそんなもんじゃない」

「なんか、あたしがおかしいみたいに聞こえるんだけど?」

「自意識過剰だ」


 少しだけど、その場に笑みが漏れた。そこまで悪くない雰囲気だろうか。瀬川くんと朝井さんは、とりあえずは普段通りの会話ができているように見える。

 こっちはこっちで市川さんと普通に話ができるようにならないと二人に気を遣わせてしまう、とも思うが、頭も体もなかなかうまく動かなかった。

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