恋しくて 切なくて 会いたくて
江田 吏来
恋しくて 切なくて 会いたくて
プロローグ
プロローグ:卒業
出会いは不思議だ。
何年も同じ学校に通って顔を合わせていたのに、卒業すると名前も顔もまったく思い出せない人がいる。
頭の中から完全に消えてしまう人。せっかく出会ったのに、儚く感じてしまう。
そういえば、通学途中にランニングをしている人とすれ違ったことがある。数珠つなぎに落ちる汗を輝かせながら、凍える風にも負けないひたむきな姿だ。どこの誰だか知らないけど、昨日のことのように思い出せる。
日が暮れるまで遊びまわっていた幼い頃にも出会いはあった。
それは人じゃないけど、滑り台とベンチしかない小さな公園で砂遊びをしていたとき。おもちゃのザルに砂をたくさん入れて、力いっぱい振る。するとほとんどの砂はサラサラとザルの目をすり抜けて落ちていくのに、こぼれ落ちずに残る物があった。
光に当てるとキラキラと輝く何かの欠片だったり、珍しい形の小石だったり、木屑でも興味を引けば宝物になった。
あとからそれはただのガラクタだと気づいても、なかなか捨てられない物がある。大切にしようと決めたのに簡単になくしてしまう物もあった。
この違いは何だろう。
ふと立ち止まると日の光が私の背中を押して、長い長い影を作っている。
影の先にはまっすぐにのびた長い道が見え、トボトボと歩いてきた後ろにも道がある。目の前が未来で振り向けば過去だとしたら、多くの人や物と出会い、別れていった道が続いている。
素直になれないことばかりだったけど、様々な人が私に温かい手を差し伸べてくれた。何の関わりもなく過ぎ去って、記憶に残ることなく私の心をすり抜けていった人もたくさんいる。
簡単に忘れてしまう人と忘れられない人。心に残る物と残らない物の違いは何だろう?
「ああ、もうっ」
ゴチャゴチャ考えても答えなんて出てこない。今日で高校生活最後なのに、ひとりぼっちだからくだらないことを考えてしまう。これからもただ足を前に動かして進むだけ。
大きく息を吸い込んで空を見上げた。
初夏の爽やかな風の中で、子どものように目を輝かせて笑う、
白く細い指を、鏡のように輝く青空にかざして笑う人。いつだって私のことを気遣い、淡く優しい日差しに包まれている先生だった。
地面しか知らない私を変えてくれた、大切な人。
春は空から地上に向かって咲いているかのような桜に感動して、夏はおいしそうな雲をおかずにお弁当を食べて、秋は一緒に月を見て、冬には……。
今、爽やかな風が私の頬をくすぐり去っていった。
水樹との出会いも長い人生の中では、爽やかに過ぎ去る風と同じぐらいの時間だったかもしれない。
それでも忘れられない人。
大切な出会い。
足音がするとつい振り返ってしまう。バカだな……。
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