アルファルド
うーる
「洞窟、大空、目覚め」
夢から醒めた夢。
浮力で空気が水から抜けるように。
トンネルを抜ければ光がそそぐように。
自然のままに。それでも唐突に。
目が覚める。
「――あーっ......くぅー」
眩しい。
あー、目覚ましがなっていない。ずいぶん早起きだ。
眠っていたようで、身体が痛い。カチコチに固まっている。
伸びをしてみる。
パキポキ、関節? から音が鳴る。
やっと気づいた、服装がパジャマじゃない。
けど少し肌寒い。
「あー、」
少しづつ、頭を動かす。状況の整理、思考がある程度、正常な回転を始める。
あれ、なんで地べたで寝てるんだろう?
眩い陽光をまばらに遮る大きな木。頭上から光を洩らす木の葉。
それに服が昨日のままだ。あれ......昨日?
頭がボーッとする。モヤというか、砂嵐、ノイズがかかっているみたいな。夢の内容を、思い出そうとする度に忘れるような。
とりあえず手を着いて立ち上がる。触れたのは草。芝生のような、確かな土の上に草原ができている。
踏みしめている大地。少し湿った空気と穏やかに降り注ぐ陽光。
続いて辺りを見渡す。周りは切り立った岩壁、恐らく洞窟。洞窟の中でありながら吹き抜けの大穴。一本の大樹。広がる草原。
「......えぇー、なんだここ」
分からない。なぜ自分が屋外で、しかも洞窟で、木の下で寝ているだろう。
「あ、持ち物......サイフ、スマホー」
思い至って、ほとんど手癖で身を探る。身につけていたのはガラスを貼った黒い板、のようなもの。裏側と思わしき方にはなんか果物のマーク。出っ張っている所を押すと、何かガラス面に絵と数字。なんだこれ。
何となく、さっきまで知っていたのに、知らない、みたいな。
なにか検索しようとしてたけど、ページを開いたらなに調べようとしてたのか忘れちゃった、みたいな。
なんだこれ?
「まあいいや、そら!」
とりあえず投げ捨てた。
明後日の方向、草むらに音を立てて消える。
これで手持ちには何も無くなった。謎の板を見てたらイラッときたから捨ててしまった。まあいいや。
なんとなく、アレに頼るとだめというか。むしろ多分役に立たないというか。
うん。まあ、こんな洞窟じゃあんな板っきれはいらないでしょ。
そんなことを考えていたその時。
それは突然だった。
「■■■■■■■ーーーーー!!!」
暴風を纏った爆音。
大きな吼(こえ)。耳をつんざくどころじゃない。頭が壊れそうなくらいうるさい轟音。
――空からだ。
木の影から駆け出し、吹き抜けから空を見上げる。
そこで、広い、落ちそうになるほど深い空の遠く。手なんて届かない、果てしなく蒼い空で翔ぶものを見た。
どれほどここが地下深いのか。それともそれが遥か上空を飛んでいるのか。
遠い空。小さく見えるはずなのに、とても遠いはずなのに大きな――
とても遠い。深い、深い蒼の底に、それは飛んでいる。
「はぁー、ドラゴンだ......」
見たままだ。そのままの感想をつい口から漏らしてしまった。
だ、誰もいなくてよかった。見たまま見たのもの感想を言ってしまった。頭の悪そうな発言。
と、いうか。
「ドラゴン......いたか? 普通」
いなかった。いなかった気がする。正直、とても今更だが。
普通? どこでの普通だろう。そりゃあ街にドラゴンがいればヤバそうだが、洞窟の外、多分森とか? それも空高くにドラゴンがいてもそうおかしくもないのでは......?
違和感。知識の齟齬というか。知っている筈のことと目の前のことが食い違っている違和感がある。
目の前のことが、現実だと受け入れられない。あれが空想だと知っている、というか。
知っていること、というか、覚えていること?
どこで覚えた? 誰に教えられた? その知識が、どこで得たものか。その常識をどこで培ったのか、まったく思い出せない。
そもそも......というか。
自分はなんでこんなところにいるんだろう。
「あれ......? もしかして、記憶喪失?」
ここが、どこで、自分がどこから来たのかも思い出せない。というか知らない。感覚的には分からない。
考えても、記憶をどれだけ思い返そうとしても。
なにも分からない。
......もしかしなくてもかなりヤバいかもしれない。
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