妹は僕のドッペルゲンガーらしい

シバトヨ

8月1日 夜

 真夜中という程ではないが、女の子が自宅のインターホンを鳴らすには、あまりにも適さないーーというか、いかがわしさを感じさせる時間帯に、彼女はインターホンを鳴らした。

 僕は居留守を使うか迷ったが、僕は返事を返した。

「はい、どちらさ「出るのが遅いっ! もっと早く出なさいよっ!」…………」

 早速、インターホンに出たことを後悔し始めた。

 思えば、真夏の夜9時にインターホンを鳴らすような女子が、まともなわけがない。

 僕の彼女とか、親戚の子とかなら……まだ、理解の範疇だ。ちなみに、僕に恋人は居ないし、親戚は沖縄在住で、こっちに来るような連絡は受けていない。

 対して、画面に映る女の子は、僕とは初対面のはず。少なくとも、僕には心当たりがない。

 返事をしたからには、なんらかの応対をしないとダメだろう。さて、どうやって帰ってもらうか。

「ちょっと! 画面越しで考え事? こんなキレイな女の子が、律儀にインターホンを鳴らしてるのよ? さっさと玄関を開けなさいよっ!」

「…………」

 百歩譲って容姿みためがキレイなのは認めるが、常識せいかくが歪んでるんですけど。

 とはいえ、「玄関を開けろ」とまで言われたんだ。ここで無視を続ければ、どんな手を繰り出してくるか解ったものじゃない。

 僕はトボトボと、両肩をだらしなく垂れ下げて、玄関へと向かった。


「遅いっ!」

 玄関を開けたのとほぼ同時に、初対面の彼女から放たれた生の一言がコレだ。

「あの……なんでしょうか?」

 向こうはイライラするような態度を見せてくるが、こっちも相手に合わせてイライラする必要はない。

 小中学生と病院で過ごすことが多く、体が華奢な僕だけど、その僕よりも背の低い女の子相手に怒るのは、高校1年生になった大人のすることではない。

 だから、

「今日から一緒に住むわよ!」

 ハキハキと意味が解らない事を言われても、僕は大人な対応をすることにした。

「……え?」

「だからっ! 今日からココに! 住むから!」

 大人の対応をしようと心構えをしたつもりだったけど、メッキは呆気なく、むしろ清々しいほどキレイに剥がれ落ちた。

「いやいやっ! 初対面の! しかも女子を住まわせるわけないだろっ!?」

「うるさいわね! 何時だと思ってるのよ? 近所迷惑って単語、知ってる?」

「君に言われたくないっ!」

 騒いで迷惑になるような時間に来た挙げ句、僕を騒がしくさせるような発言をしたのは、間違いなく彼女だと言うのに!

 彼女の理不尽な発言に、メッキの剥がれている僕は苛立ちを隠さずに告げる。

「初対面の男の家に住むって、本当に……なに考えてるのさ?」

 そんな僕の疑問に、彼女は一切答えることはなく、

「とりあえず中に入るわよ?」

 ズカズカと僕を押し退けるように玄関を潜り抜けてきた。

「……まぁ、外で話すと近所迷惑だし」

 渋々だが、僕は彼女をリビングへと案内した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る