第5話
連日続く雨。屋上は使えず、しかし学年の違う俺達は教室で待ち合わせなどもできるはずがない。
なぜなら、そこまでする仲ではないし、単純に恥ずかしい。
じゃあどうするかと言うと、答えは単純。
正解は、会わない、だ。
俺はまっすぐ家に帰るし、神原は同級生と話したり、早めにバイト先に向かったり。
ごく普通にしているだけである。
「塚本君」
帰ろうと鞄を持って立ち上がると、クラスの女子に呼び止められた。
名前は……山……苗字に山がついてはずなんだ。
「塚本君にお客さんだよ?」
彼女の視線の先は廊下の方を向いていて、ドキッと心臓が跳ねた。
なぜなら、この学校で俺の知り合いなんて……。
「ありがと」
山なんとかさん、あるいはなんとか山さんに礼をして、廊下へと出る。
少しニヤけた顔を精一杯戻しつつ、それでも緩んだ頬は廊下に出た瞬間、真顔へと変貌した。
「んだよ、姉貴」
「今日は生徒会はありません。ですので、久々に一緒に帰ろうかと」
待っていたのは神原ではなく、黒髪長髪の女……もとい、俺の姉だ。
姉貴と比べられるのが嫌だから学内ではほとんど話したりしない。
あと、他人行儀な喋り方は元々なので、特別仲が悪いとかそういうのとは違う。
「なんで一緒に帰んの。ってか、なんでいんの?」
「ホームルームも早く終わりましたので、ここで待っていのですが……。千君がなかなか出てきませんでしたので、クラスメイトの方に声をかけていただきました」
回りくどっ、呼べよ。いや、呼ばれたくもないけど!
つーか、じゃあ帰ってたクラスメイトはみんな、教室から出たら生徒会長が立っていた。なんて意味不明な状況を体験させられていたのか。
「いや、そうじゃなくて。先に帰ればいいだろ。どうせ毎日家で会ってんじゃん」
今更、姉弟水入らずで仲良く帰る理由が分からない。
「ダメですか?」
しゅんとする姉貴。なんか怒られた仔犬みたいになんのやめてくんないかなぁ!?
「ダメ、じゃないけど……」
「良かったです」
一瞬にして満開の笑顔になられて、一瞬たじろぐ。
「塚本君って生徒会長さんの弟だったんだね」
あ、山……山さん。
「先ほどはありがとうございました。伊山さん」
「へ? 私、名乗ってません……よね?」
「千君……弟のクラスメイトの方の名前は全て把握しているので」
「そ、そうなんですか……あー、えーと、お先に失礼しますね」
あははと乾いた笑いをしながら、そそくさと帰って行く山さん。
怖かったろうに。でも、うちの姉貴はこんな人なのだ。
姉貴はブラコンというか、興味があることは徹底的に調べる特性みたいなのがある。
それで、興味の対象と言えば語弊があるが、俺に関わる者もたまに調べたりすることがあったり……最初は俺より俺のクラスメイトのことを知っていてビビったけど、もう慣れた。
「千君はあの子と仲が良いのですか?」
「いや、そんなことはないと思うけど」
たぶん話すのも初めてじゃないのかなぁ。
「そうですか。まぁ、いいでしょう。危険度は低そうです」
「危険度?」
そりゃ低いでしょ。というか、なんの危険度?
「いいえ。それより帰りましょう」
「あ、うん」
反射的に頷いたら、自然に俺の手を取ろうとする姉貴の手が伸びてきて、仰け反る。
「姉貴、今なにしようとした?」
「手を握ろうかと……」
「それは無理!」
「ダメ……ですか?」
「絶対ダメ!」
しゅんとしてもダメ!
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