第31話 最後の迷いと決断
※※※
お昼休みになると、私は優子に呼ばれた。
そこで色々と聞かれて色々と答えた。
意外だった。
まさか優子が自分から和人君と仲良くなろうとするとは。
でもまぁ、その理由も聞いて最後は納得した。
だけど二人が楽しそうに私の前で本の話しをするのは納得してなーーーーい!!!!
ちょっと私だけ置いていかないでよ!
と叫びたいが、この二人の笑顔を見ていると何も言えない。
だって二人の笑顔が眩し過ぎるんだもん。
それにニコニコしている和人君とか私以外の前では超激レアだしこれはこれで見ていたいと思う。まぁその分後でその笑顔が放課後崩れることにはなるんだけどさ。今ぐらいは楽しませてあげたいと言うか。ダメだ。私の良心が二人を邪魔する事を拒んでしまう。それだけでなく悪魔ももう少し見守ろうよとかなんか超いい事言ってるんですけど!? ちょっと和人君私の心に何したの!? もう、信じられない!!!
心の中でどんなに叫んでもそれを声にして言わなければ二人には通じない。
「へぇ~、本読まないって言ってた割には結構色々と読んでるんだね」
「まぁね。っても中学までの話しで今は殆ど読んでないから別に嘘はついてない」
「なるほど」
「それより『×××××』どうだった?」
「そうだね、もう五年以上前に読んだきりだから少し曖昧だけど面白かったよ」
「よね。てか幼馴染君って結構幅広く色々と読むんだ」
「まぁ気が向いた時に気が向いた本を読むってのはよくしてるから基本は広く浅くかな。それで面白いと思った本は深く読んでいくイメージって言えばわかるかな」
なので私の前で話す二人をジッーと見つめる。
この本に関する話しが終わらない限り、私は話しについていけないのでせめてもの意思抗議である。
てか優子本読まないって言っておきながら、昔どんだけ読んでたのよ……。
それなら優子との会話のネタになるって意味で私も本読んだのに……。
うぅ……こんなことなら私も日頃から漫画以外も読んで置けばよかった……。
すると私の視線に気付いた和人君と目が合った。
そのまま手が正面から伸びてきて頭に触れた。
「うん?」
「ごめん。藤原さんとの話しに夢中になってた」
そう言ってポンポンとしてくれた。
まだ私の復讐が完了してない時点で今は幼馴染以上の関係。
なので。
「いいよ! なら私もお話しに入れて!」
と元気よく笑顔で返事した。
ってか私さ、自然と笑みがこぼれてる時点で単純じゃない?
※※※
すっかり藤原との話しに夢中になってしまった。
最初は三人でお話しをしていたはずだったのが気付いた時には二人で本の世界の話しになっていたのだ。その事になんとか気付けた僕は今までの経験から察して、お詫びの言葉と一緒に頭をポンポンとした。すると案の定響子の機嫌がよくなり、表情に笑みがこぼれた。本当に良かった。こんな所でいじけないでくれて。
「それにしても二人は急に仲良くなったよねー」
「そうかな? でもまぁ、響子居なかったら絶対に友達にすらなってなかったよ」
「なら私は友情のキューピットだね!」
「友情のキューピットはもっと可愛いから響子の場合は小悪魔じゃない?」
「ひどっ!?」
「それは言えてるかも。響子は男を惑わす小悪魔かもね」
「優子まで!?」
「「あはは~」」
こうして三人で自然と会話が出来るようになったのは響子のおかげだと思っているし、僕は密かに心の中で感謝している。読書以外の時間で楽しい時間を教えてくれた響子に。だから今は昔ほど本一筋でいたいって言う気持ちはない。これも気持ちの変化だと言うなら僕はそれを素直に受け止めたいと思っているし、なにより気付いた事がある。誰かと一緒にいれる時間は限られていて、お互いの都合がつかないとそれは叶わないこと。だけど本を読む時間は僕一人の都合でいつでも作れるし見つけられると言うこと。愚かな僕はこの事にさっき気付いた。もしもっと早くその事実に気付いていて、友人と過ごす時間もとても楽しい事を僕がもっと早く気付いていれば僕は響子と別れる事もなかったし、今思えばあんな理由で嫉妬もしなかったのではないかと……強く後悔している。
(今さらそんな事考えたって遅いのにな……僕)
これも人生だと言うなら、藤原が先日僕に言ったこれもハイヤーセルフが成長する為の舞台だったのかもしれないが。
今はこうして僕の元に気付けば隣にいる響子。
だけど今日と言う日が終わった後、次は誰の近くにいるのだろうか。
ふと、そんなことを思ってしまった。
君は誰を愛し、君は誰と過ごす。
次はどんな人を求め、次はどんな人と幸せになる。
君は前へと進み、君は後ろを振り返らないのだろう。
僕は停滞し、僕は一人戸惑うのだろう。
これも恋愛感情を抱いているからの不安なのかもしれない。
そう考えると響子は偉大だ。
偉大と言ってもあくまで僕の中で。
響子は僕に恋と言う物を教えてくれた。
そして友人と過ごす楽しさも教えてくれた。
どちらも響子なしでは成り立たなかった。
そう考えると本当に僕は素晴らしい幼馴染を持ったものだ。
「そう言えば最近二人はいつも一緒にいるけどプライベートとかはどうしてるの?」
藤原がそんな事を聞いてきた。
「そりゃ別々だよ? たまに一緒の日もあるけどね」
たまにか……僕は少し疑問に思った。
最近は朝から晩まで気付けば殆どの時間を響子と過ごしていた記憶があるからだ。
特に昨日なんて正に朝から晩までいたと思う。
なんせ学校があったのにも関わらず、朝ご飯の時間から夜ご飯の時間まで一緒だったのだから。
「って事は、放課後一緒に帰宅した後は別々なのね」
「なんで?」
「ほら、幼馴染君っていつも本読んでるってイメージがあるからどうなのかなって」
「あー、なるほど」
「最近は本を読むのも誰かと一緒に時間を過ごすのも悪くないと思い始めたから上手い事やってるよ」
「成長したんだね」
僕を見て言ってきた響子の目は嬉しそうだった。
「そうだね。これでも過去から学び少しずつだけど成長しているからね」
「そうそう。人は過去から学び成長する生き物だからね」
首を上下に動かし、いい事を言った響子。
だが――。
「響子がそれを言うとなんか説得力に欠けるわね」
親友の心には響かなかったらしい。
「えー、なんでよ!?」
「だっていつも響子言ってるじゃない。過去の嫌な記憶消せたらいいのにーって」
「うぐっ!?」
「だから過去を振り返る言葉と振り返りたくない言葉の両方を聞かされた私は結局どっちなの? って思っちゃうわけよ」
「たしかに……。私自分で自分の首絞めてたのか……」
「そうゆうこと」
「でも今は過去ありきでいいと思ってるよ!」
「そっかぁ。なら響子も幼馴染君と一緒で過去から学び成長したんだね」
「って事で成長した姿、後で見せてね!」
響子が小悪魔の笑みでそう呟いた。
「あはは……」
苦笑いの僕。
「ん? なんのこと?」
戸惑う藤原。
全くもって油断ならない。
一見何の意味もない雑談ですら、最後は告白予告宣言に繋がっているのかもしれない。
そう思わせてくる響子はそのまま僕に顔を近づけ耳元で囁く。
「頑張ってね、こ・く・は・く♪」
僕の背中をそっと後押してきた。
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