第22話 幼馴染は一緒に行きたい
もう少しでこの日常が終わると思うと名残惜しく感じる。だけどそうは言っても時間は止まってくれないし学校には行かないといけないのが学生の業とも言えるわけで、渋々寝間着から学ランへと着替えを始める。着替え途中思ったことがある。響子とは別れてからはしばらく一人での登下校だった。そう考えれば少し前に戻るだけなのだが、気持ちはそう簡単に切り替えれそうにないと言う事である。今日はまだいい。なんなら明日の登校、もしくは明日の下校までは。だけど今年は遅いGW(ゴールデンウイーク)明けの五月五日からの登校がこのままだと憂鬱になりそうだと言う事で僕は今悩んでいるのだ。ここ最近気付けば響子がいない事が考えられなくなってきている。これも響子が気付けば近くにいる事が当たり前になった僕がいるからなのだろう。特に一緒に水族館に行った辺りから僕の中での響子の存在がまた大きくなり始めた。今までは制御していた気持ちや想いと言った物が一人勝手に暴走をするようになったのだ。僕が幾ら静止するように願っても大きくなりすぎた気持ちや想いは僕の言う事を聞いてくれないことが多い。
「やれやれ……まさかこんなことになるとは……」
「なにが?」
「なにってそれは響子が僕の心をかき乱してきたことだよ」
「今では私の事遠ざけないぐらいには意識してるってことであってるかな?」
「そうだよ……んっ?」
ちょっと待てよ……。
ここは何処だ?
――僕の部屋。
なら今この場にいるのは誰だ?
――僕一人。
ではさっき話していた相手は誰だ?
――誰って響子だろ。。。!?!?!?!?!?!?
僕は過去最速で振り返って後方を確認した。
「何故ここにいる、小悪魔!?」
「なんでって玄関の前で和人君を待っていたら和人君のお母さんが私に気付いて声を掛けてくれて事情を話したら寒いだろうし中に入って待つといいわって言ってくれたからだよ。別に普通だと思うけどどうしたの?」
「なるほど、なるほど。確かに普通……んなわけあるか!」
「今日は朝から元気がいいね。いい事でもあった?」
「違う。朝から驚いているんだよ。幾ら幼馴染とは言え振り返ったら僕の部屋にいるとは流石に思わないし、そんなサプライズ訪問は心臓に悪いから止めて欲しいとまで思ってるよ!」
「そうなの? 私は朝から和人君の新鮮な姿見れて嬉しいよ?」
そう言って僕の近くに腰を下ろす響子。
一応言っておくと、幾ら母親が下にいるとは言ってもここは男の部屋。
そんな堂々と着替えを見ないで欲しい。何か恥ずかしい気持ちになってしまう。
とは言え、下は先に履いておいて色々な意味で正解だったと思う。
流石にパンツ一丁で幼馴染とは言え異性に会うのはダメだろう。
「僕も朝から響子の姿見れて嬉しいよ」
着替えながら僕は答えた。
半分は嫌味である。
ここで無駄話しをしてもいいのだが、無駄話しに集中したあげく遅刻となっては元も子もないのでやるべきことを先に終わらせていく。ゆっくりとするのはその後だ。
「和人君って私の事そんなに見たいんだ。まったく仕方ないなぁ~」
両手を頬に当てて、身体をくねくねとする響子。
今の会話に照れる要素があったのかとさぞ疑問だが響子の中ではあったのだろう。でないと頬が赤くなった理由がわからない。
「誤解ないように訂正した方がいいかな?」
「しなくていいよ。だって和人君が私の事好きで好きで仕方ないことわかってるから!」
「全然わかってないね」
「そんなことないよ! 私和人君の事ならなんでも知ってるからね!」
自信満々の笑みで答える響子。
そのまま着替えが終わり、ベッドの端に座った僕の隣へとやって来てはニコニコしてこちらを見つめてくる。まるで飼い主の用意が終わるのを待っていた飼い犬のようだ。
「えへへ~、朝から甘えるのってなんか新鮮でいいかも~」
甘えた声を出しながら身体を預けてくる響子に僕の心臓がドキッと反応してしまった。
これはもう色々バレているのか。
さっきからチラチラとこちらを見ては口角が上がったように見えたし、なにより「やっぱり」って微妙に聞こえるか聞こえない声で響子が言葉を発したし、となるとこれは……。
「一応確認だけど甘えてるのって演技だったりしないよね?」
「……気になる?」
なんだその妙な間は。
そして横目で僕の目を覗き込んでこないで。
なんかわからないけど不思議と心の中が全て見られている気分になってしまうから。
「まぁ」
「九割は違う。純粋に傷つけられた分、心に癒しが欲しいだけ。それとこうしていると幸せな気持ちになれるからかな」
「なら、残り一割は?」
「それは教えれないかな。恥ずかしいから……」
最後の方は声が少し小さくてはっきりとは聞こえなかった。
「今なんて」
「なんでもないよー。女の子には恥ずかしくて相手に素直に言えない事の一つや二つあるの。だから気にしないで」
「そうなんだ」
僕は響子の頭をポンポンとしてから少しだけ撫でてあげる事にした。
特に理由はないが、なんかして欲しそうなオーラを放っているような気がしたからだ。
「そう言えばふと思った事聞いてもいい?」
「なに?」
「朝ごはんってもう食べた?」
「まだだけど……なんで?」
ぐるぅぅぅぅぅ~
お腹を擦って申し訳なさそうに僕を見つめてきた。
朝ごはん食べていないのだろうか。
まぁ僕の場合、響子と違って燃費がいいから一食ぐらいなら食べなくてもなんとかなるけどどうしよう。
「もし良かったら半分頂戴?」
やれやれ。
仕方がない。
いっそのこと全部あげるか。
「リビングに行くといいよ。そこに僕の為に用意された朝食があるから食べてきていいよ。母さんはもう仕事に行ったと思うから気にせずに食べて。ただし食べ終わったら使った食器を台所の洗面台にちゃんと水に浸けるだけでいいからお願い」
「はーい! ありがとうございます!」
「うん」
「なら尾崎響子、和人君の朝食を代理で食べに行ってきまーす!!!」
元気な声で何故か僕に敬礼をして勢いよく部屋を出て行った。
その後ろ姿を見た時に僕は思った。
「朝ごはん食べてくればいいのに……」
と。
この際だから言っておくが、響子の腹持ちの悪さはスポーツカー並みに悪い。
なので一食でも断食するとその日もの凄く機嫌が悪くなったり、熱でもあるのではないかと周りが心配するぐらいに大人しくなる。
まぁわかりやすいとわかりやすいのだが、戦争がもし起こったら真っ先に餓死するタイプなのだと正直思う。ただし食べすぎて行き場を失った栄養が胸に全部いっていると考えると案外しぶとく生き延びるかもしれないが、あれはあれで響子の魅力の一つでもあるので、できればしぼんで欲しくはない。なんたってあの程よい弾力は服越しでも中々良いからだ。
その後、僕達は一緒に登校する。
その時の響子の顔はお腹いっぱいになって幸せそうだった。
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