若気の至りですれ違い破局した僕達が求めた新しい関係それが告白予告宣言であり響子の罠だと知ったのは最後の日だった

光影

第1話 一緒にいたい元カノ


 ――四月、桜の花びらが舞う季節。


「……早く次の相手見つけて幸せになれ、ばか」


 教室の机に頬杖をつき、少し離れた所にいる女の子をさり気なく見て呟いた。

 その相手は幼馴染。黒く長い髪に、整った容姿は愛嬌があり可愛くて、出る所は出ていて引っ込む所は引っ込んでいるスタイル抜群の女子高生である。


 平凡な僕と彼女の接点はただの幼馴染って言うだけで今はそれ以外に特別な関係はない。

 過去にはもっと大きな関係があったが、それも今となっては昔の話し。

 僕は彼女とは違い、あまり周囲に対して積極的にコミュニケーションを取る事はない。

 だからなのか、僕には友達が少ない。

 だけどそれでいいと思っている。

 だって数人心を開ける友達がいれば、それで僕は困らないから。


 放課後。一人席を立ち、校内にある図書室へと向かった。

 別にこれが寂しいかと言われれば、一人の時間に慣れているので寂しくはない。

 なにより、静かに本を読みたい時は一人の方が集中できるのでこっちの方がいい。


 だから今日も一人放課後一時間ほど図書室で時間を潰してから帰ろうと思っていた。


 しかし――。


 現実が思い通りになることは滅多にないのかもしれない。


「もー! 一人でどこかに行かないでよ。 私達帰るときは一緒っていつも言ってるじゃない」


「家に帰ろうとすると君が付いてくるから、図書室に来たんだけど……」


「なら図書室に行くって言えばいいでしょ?」


「そうだね、ごめん。ってもう図書室だけど、もしかしてこのまま一緒に来るの?」


「うん。だって私も読みたい本あるから」


「そう。なら別行動で――」


 すると、幼馴染が頬を膨らませた。

 そのまま僕を睨みつけながら一緒に図書室に入ると、隣に座り鞄から本(漫画)を取り出して読み始めた。

 あれ――?

 今ちゃんと遠ざけたよね……?


 そう思い、チラッと隣に座る幼馴染を見る。

 すると目があった。


「本より私の事見たいの?」


 にやぁー。


 ドヤ顔で言ってくる幼馴染にクスッと笑ってしまった。


「昨日テレビで見たんだけどさぁ、好きな人が近くにいると自然と目で追っちゃうのが男の子なんだってよ」


「それで?」


「目と目が重なったってことは、私の事まだ好きなのかなって思ったの」


 そう言って微笑みながら、言葉を続ける幼馴染。


「私達去年些細な事で喧嘩して別れたけど、和人君まだ私の事好きなの?」


「……え?」


「なら私の事もう嫌いになった?」


「う~ん、どうだろう。まぁこの場でなにか言えるとしたら、嫌いになろうと今まさに頑張ってる途中かな」


「ふ~ん。なんでそうやって別れた途端に私と急に距離を取り始めたの?」


「なんでって……そりゃ、君の幸せを願ってだけど」


 幼馴染が急に笑いを堪え始めた。

 そしてしばらくすると我慢できなくなったのかお腹を抱えて声を出して笑った。


「あははははーーー」


 えっ!?

 驚く僕。

 笑う幼馴染。


「なにそれー? それなら和人君さぁ、もう少し上手く色々としなよー」


「…………」


「なんだぁ~私てっきり嫌われたかとずっと思ってたから大損じゃん」


 なにかが吹っ切れたようにげらげらと笑いながら幼馴染が言った。

 なんでこんなに楽しそう、いや嬉しそうに目の前の幼馴染が笑っているのかが僕には理解できなかった。


 そう、僕達はかつて恋人と呼ばれる関係だった。


 そして僕の初恋相手で初めての彼女――尾崎響子(おざききょうこ)。



 ※※※


 あれは去年の春頃。

 

「もう高校生になったのか……」


 高校生になったはいいが、僕は人見知りが原因で中学からの友達は響子しかいなかった。

 まだ入学式が終わって数日だし慌ててることもないかと思い、早くもできた友達と話す響子を残して帰ろうとしたときだった。


「あっ! 待って。一緒に帰ろう!」


「あれ、響子? その人もしかして彼氏?」


「ちがうよー。でもそうなるといいなって人だよ~」


「「「ならばいばいー」」」


 友達に挨拶して、僕の元にニコニコしながらやって来た。

 僕は正直、この日以上に驚いた日は数少ない。

 一体何を言っているんだ、このてん……小悪魔は?

 そう思った。

 心の奥底から、早くも人気者は辛いアピールならびにこの僕を男避けに使った!?

 と思わずにはいられなかったからだ。


 それから僕の言葉を先読みしたのか小悪魔は。


「さぁ、細かい事は帰り道話すから帰ろう♪」


 と言って僕の手を掴んで足早に教室を出て行く。

 その時感じた手の温もりはいつもより暖かく後ろからではハッキリと見えなかったが顔がいつもより赤くなっている気がした。


 結局一度も僕に顔を向けることなく、下駄箱まで行き、せっせと一人靴を履き替え外に出て行った。それから靴を履き替えて響子の後を走って追いかけるとなんとか校門で合流する事ができた。


「ちょ、ちょっと……待って……はぁ、はぁ、はぁ」


 響子は後ろ髪を右手で掻きながら言う。


「ごめん、ごめん、恥ずかしくて逃げちゃったぁ」


 だけどその時の響子は熱があるのか頬がやっぱり熱を帯びて赤くなっていた。


「――……う、うん」


 どう反応していいかわからない僕を見て、


「なら一緒に帰ろう」


 と言って歩き始める響子。

 それから何度もチラチラと隣を歩く僕を見ては視線を逸らしてを繰り返す。

 最初はあまり気にしない方がいいのかなと思い無視していた僕だったが流石に体感にして十分以上それを続けられたら気になってしまった。

 だけどいつもならお喋りな響子が今日は帰り道一言も話さない時点でこれはなにかあるなと思い敢えて何も聞かないことにした。

 きっと言いたいことがあればそのうち向こうから話してくるだろうと思ったからだ。


「ね、ねぇ……和人君」


「どうしたの?」


「なんでさっきから私のことチラチラ見てるの?」


 えー、それ僕の台詞。

 って言うか、僕の気遣いは……。


「わ、わたし、今日変かな……」


「いつも通りだと思うけど」


 僕は素っ気なく返事をした。

 もう可笑しいところだらけで、どう反応するが正解なのかわからないからだ。


「そ、そっかぁ……」


「…………」


「…………」


「…………」


 それから訪れた沈黙。

 少し気まずい雰囲気にもなったがそれに耐え歩いているとようやく家の前まで来た。と言ってもすぐ隣が響子の家なので、響子の家の前でもあるわけだが。

 だけどこれでこの気まずい雰囲気ももう終わると思い心の中で安堵していると、響子が小走りで僕の前に突然やって来て止まる。


「ま、待って!」


「う、うん。どうしたの?」


「わ、私ね…………」


 すると急に身体をくねくねさせたり、僕の顔を見ては視線を逸らしたりを繰り返す。

 それからしばらく僕が首を傾けて見守っていると、ようやく響子が口を開いた。


「わ、わたし……小学校の時から和人君のことが大好きです。高校生になったら絶対に告白するって……五年前から心に決めていました。だ、だから私と付き合ってください!」



 突然の事に僕は言葉を失った。

 そう僕達は小学生の時から両想いだったと知ってしまったから。


 それから僕は響子と付き合い始めた。



 ※※※



 そんな事が僕と響子の間には昔あった。


 その後、色々あり別れたのだが――。


「ところでなんで別れたのに最近気付けば当たり前のように僕の隣にいるの?」


「ん? ダメなの?」


「いや……ダメとは言わないけど」


「ならいいじゃん。私が誰と一緒に居ても和人君には迷惑にならないでしょ」


 …………そう言われればそうだけどさ。

 話しが噛み合ってそうで噛み合ってないこの感じなんて言えばいいんだろう。

 このままでは響子に僕の言いたい事が伝わらないと判断して、鞄から本(小説)を取り出して読み始める。すると隣から感じていた視線が消えた。きっと響子も本(漫画)を読み始めたのだろう。



 ――あれから。


「うぅ……帰るタイミングまで合わせてくるの?」


「うん。だって家隣同士なんだし一緒に帰った方がお得じゃん!」


「なにそのバーゲンセールみたいな言い方……」


「それにさ、私可愛い女の子だよね?」


 うーん。

 可愛いは認めるけど自分で言う言葉ではないような気がする。

 試しに隣を歩く響子を見ると、目をキラキラさせてこちらを見ていた。

 その瞳は何かを訴えるようにして力強い目力を感じる。


「まぁ、そうだね」


「だよね。つまり帰り道変な男の人に捕まってバージン奪われるかもしれない可能性を考えたら元カレであり幼馴染の和人君と一緒に帰った方が安全だと思うわけ」


「言われてみれば一理あるけど、そもそもバージンって……」


「だからさ、一緒に帰ろう?」


「わかった。なら一つだけ教えて欲しい事があるんだけど」


「なに?」


「君は僕の事を今どう思っているの?」


「一緒にいたい人だよ!」


 僕を困らせたいのか響子は満面の笑みでそう答えた。

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