第399話 平行線

「クサンデル殿、我はこの5年常山領に留まっていたが、皇女様の行方に関して、何も情報は入っていないのだが。」


オイヴィがクサンデル氏にそう伝えると、


「そんな事はあり得ませんよ、オイヴィ。目撃情報もありますからね。」


目撃情報って聞いてないけれど。


「ザーラ、何か聞いてるかい?僕は今までその女性の事を聞いた事がないし、つい先日アルノルト陛下の愚痴で知ったぐらいだから情報がないんだけど。」


「うーん、アルノルトは何も言ってなかったわよ。お姉さまにしても何も知らないんじゃないかしら。そもそも知ったところで皇女を匿うにしても国に戻すにしても、グビッシュ王国には一切の利点がないしね。」


ザーラの言う通り、皇女の身柄を確保したところで、いい方は悪いけれど使い道がないよねきっと。


「まあそういう事で、僕やザーラはその皇女の行方って知らないんだけど、その情報っていつのかな?」


僕はクサンデル氏に問います。


「それは勿論5年前だ。皇女様は勇者召喚で召喚した人物が国外に向かったとの情報を得て、後を追って国外に出た。その国外というのがグビッシュ王国に他ならない。」


いやいや5年前の情報って、それ古すぎるでしょ。


「わかっているならなぜ追いかけないのですか?5年前の事でしょう。」


「皇女様が国を出られた直後に魔王による襲撃があったのだ。その折神聖騎士団は壊滅。皇族はピートロネラ皇女様を除いて全員の死亡が確認されたのだ。その時の混乱のせいで、ピートロネラ皇女様の事は暫く誰もわからなかったのだよ。」


そう言うあんたは何故今頃ここに問い合わせにやってきたんだと突っ込みたくなったけど、何か理由があるのでしょうか。

するとオイヴィが僕にその理由を教えてくれます。


「クサンデル殿とヨランデ殿は別の国への使節団の随員として任務中だったようでな、魔王の襲撃があった時あの場にいなかったようなのだ。今の今まですっかり失念していた。」


そんな事を告げるオイヴィだけど、肝心のクサンデル氏は表情をゆがめ、


「そもそも俺があの場にいれば、魔王如きに後れを取るなど有り得なかったのだ!何であの時俺はあの場に居合わせる事ができなかったのだ!」


この人そんなに強いの?それにもしかしてオイヴィが言っていた特殊任務で国元を離れていた神聖騎士って意外と多いのじゃ?


「さすがに神聖騎士の全員の把握をしていた訳ではないからな。そう言った生き残りが他にいてもおかしくはない。この2人も死んだと思っていたぐらいだからな。」


神聖騎士団500名の死亡、オイヴィは確認していない。何せ自分も死にかけ、死体の下敷きになった事でたまたま助かっただけで、その後治療で時間がかかったはず。

結果500名が死んだと聞かされたと思われるからこういう事もあり得るのかな。


うーん、今まで関わりがなかったしもう5年前の出来事だから、オイヴィも記憶が怪しくなってるんだろう。

なので、誰がどういう死に方をしたのかも、ある意味記憶はあいまいになってるはず。だからこの兄妹の事を失念していたのも頷けます。











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