第309話 Side オイヴィ・ラハテラ  その2

この青年は・・・・領主は・・・・側仕えの女に指示を出し、何かを地面に設置している。何だこれは?


「知っているかわかりませんが、ゲートです。ダンジョンの転送のを参考に作りました。ご存じですか?」


え?ゲートだと?

失われて久しい技術ではないか?


しかもダンジョンの転移の魔法陣を参考に作ったと言っているが、いや、無理だろう?

一体どのような技を用いて再現したのだ?


私も使ったが、確かに別の場所へ移動できたようだ。

私は思わず言葉が漏れた。

「す・・・・素晴らしい・・・・」

一瞬で相当離れた場所へ移動。

ただ、この街の領主の住む場所へ移動しただけなのだが、それでもすごい技術だ。

しかし、設置したゲートを側仕えに回収させているのが難点か。

いや、そもそもゲートの設置場所を固定してしまえば、それも難点ではなくなる。


私はついこの領主と言う男に見入ってしまう。

男を受け付けぬ私が、だ。

しかもこの男、10人以上の妻がいるというではないか。

それもみな絶世の美女と言う。

英雄色を好むを地でいく男なのか?

だが側仕えの女に対する思いやりもある、家臣と話す姿を見ても人望溢れる人のようだ。

そのような雰囲気は一切発していないというのに何故だ?



「ありがとう・・・・ではオイヴィさん、こちらです。」


そう言って案内してくれる領主だが。

あろう事かまたしても私の手を取ったではないか。

今度は警戒していたし、身構えていたと言うのに。

【あ・・・・また・・・・】


思わず声が漏れてしまった。


案内された部屋を入ろうとすると領主が突然回れ右をしたようだ。

どうやら正しい意図が側仕えに伝わっていなかったようで、引き揚げ際その部屋がちらりと見えたが、寝所?

寝床が鎮座してあったように見えたのだが

側仕えは私がそう言う目的で領主と供をしていると思ったようだ。

このような身なりの者を抱くようなもの好きがいるとは思えないが。何せ旅で身なりは薄汚れているからな、

本来ならもっと身ぎれいにしなくては失礼だったのだろうが。


そして次の部屋は客人をもてなす場所の様で、柔らかな椅子とテーブルがある。

座るよう促され、流石にフードを被ったままでこのような部屋は失礼と思い、

「失礼します。」


そう言ってフードをはねのけたが、領主は私の顔をまじまじと見てくる。

しまった。旅で顔が汚れていたか?

まさか領主の館の、客間にこのような薄汚れた身なりの者を入れてしまって、驚いているようだ。これは失敗だ。

何たる事。


そしてそんな私をじっと見つめる領主。

思わずこちらも見つめ返してしまったが、もう今更だ。とくと見せてもらおうか、この”魔眼”で。


「ええと改めまして、常山順平です。知ってるか知らないかわかりませんが、魔王と退けた功でこの領地を賜りました。そして王家の女性を妻に迎え、身分も公爵・・・・分不相応なのですが、まあ一応そんなわけなんです。」


先に名乗らせてしまったが、こちらは一度名乗っているからいいのか。


「私オイヴィ・ラハテラ、元聖騎士だ。ご領主様のうわさを聞きどのような人物か見極めようと、ここに参った次第。」


今更隠しても仕方がないので、嘘偽りなく話す事にした。

「あ・・・・そのごめんなさい、こんなので。がっかりしたでしょ?」

何を言っているのだこの常山と名乗る男は。

「何をがっかりするというのです?貴方は立派な方だ。勇者召喚に巻き込まれたと聞いた。しかし腐らずあの魔王を見事退けたというではないか。それの何処をがっかりなのだ?」


思わず立ち上がってしまった。

何故か言わずにはいられなかったのだ。

「まあ・・・・それは後でいいでしょう・・・・オイヴィさんは、僕に会いに来たのですか?」

「いや、会うのは想定外だ。本来は魔王を退けた人物を調べるだけのつもりだったのだ。だから困惑している。」


「困るよね、いきなり見ず知らずの僕みたいなのが領主ですとか名乗って。」

「あ、いや、困っているのは別の理由だ。私は男性が嫌いなのだ。ここ数年まともに会話もしていない。まして触れさせるなど、言語道断。」


「あ・・・・ごめんなさい!そうとは知らず、2度も手を握ってしまった。」

「いや、それはいい。信じられぬのは、我がこのように殿方に手を取られるのを許してしまった事なのだ。1度ならず2度までも。何故あの時あっさり握らせてしまったのか未だに混乱している。本来そんな隙を与えぬのだが・・・・いや、好きとかではないな・・・・我は貴殿の事を認めているのか?」


いかん、混乱してしまう。何だこの男は。

今まで見たどの男も違う。

この私が混乱するだと?

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