第308話 Side オイヴィ・ラハテラ  その1

私の名はオイヴィ・ラハテラ


元聖騎士。


最近聖騎士の任を解かれた。


仕方がない。

魔王を討つべく聖騎士の任を得ながら、何一つ成果を上げられなかったからだ。

私には分不応そうな任務だったのかもしれない。


一度聖騎士団は魔王と対峙したが、あっという間に殆んどの騎士は死んだ。

私はたまたま他の騎士の下敷きになって倒れ、気を失ってしまい、死なずに済んだのだ。

魔王は動かぬ騎士に興味が無くなったのか、全員の生死を確認するまでもなく、元から我々がいなかったかのように前進を続けていった・・・・


我々は、ほんの数分足止めしただけ。


魔王が去って暫くし、誰かが私を助けてくれた。

やはり他の騎士の下敷きになって助かった団員だった。

500名以上いた聖騎士団は、たった5名しか生き残れなかった。

わずか数分で、500名の命が消えた。

これほどまでに魔王と言うのは強いのか。

本国に戻った私は任を解かれ、ただのオイヴィとなった。

その後とある王国で勇者召喚が行われたと聞いた。

そもそもわが国での勇者召喚は失敗に終わったと聞く。

それがなければ隣国は勇者召喚をせずに済んだとか。

だが結果は、現実は厳しい。

その国は魔王の次の進軍先に当たるらしく、わが国の動向を確認していては間に合わないと思ったのか無理やり異世界から勇者を呼び出したらしい。

いや、きっと我が国の召喚が失敗したのを知ったからだろう。


そして数日後、魔王はその国を襲撃したが、その勇者が魔王を退けたらしい。

仕留める事は出来なかったが魔王は深手を負い、わずかな供を従え本国へ逃げ帰ったそうだ。

信じられない。


僅かな手勢で魔王を迎え撃ち、その手勢が魔王を防いでいる間に勇者は魔王と対峙、見事切り伏せたそうだ。


私達は相手にすらならなかったというのに、一体勇者と言うのはどのような強者なのだ?


居てもたってもいられず、私はその勇者を一目見ようと旅立つ決心をする。


数か月かかったが、勇者が治めているという場所へ何とか辿り着いた。


どうやら国からの褒賞で王女を娶り領地と爵位を得、現在はその領地で領主として街を発展させていると聞いた。


その領地は何もなかった場所を一から全て作ったと聞いたが・・・・こんな城壁、数か月で出来上がるものなのか?

私はこの街の中へ入るのに、門をくぐる必要があり、手続きがいるようでその順番を待っていたのだが・・・・

どこかの阿呆が順番を無視し、割り込もうとしたので私は止めた。

そしてその阿呆どもを追い出した後、本来の場所へ戻ったのだが。


やはり街の外とはいえ、門の付近での狼藉は問題があったようで、私は尋問を受けなければならなくなったようだ。

だがおかしい。

呼び止めたのは女性で、しかもそれを命令したのはたまたま居合わせたという・・・・領主と自ら言っていたが・・・・ここの領主は勇者ではないのか?


見た目そのような強者は見えぬ。

ごく普通の身なりのよい青年にしか見えない。

いや、顔は・・・・人当たりのよさそうな、優しそうな顔立ちだが・・・・魔王を退けたという力の片鱗すらわからない。

本当にこの目の前の男が魔王を退けたのか?

だがこの男は、私の戦っていた姿に興味を示し、中で話を聞きたいと言ってきた。

これは・・・・運がいいのか、私もこの目の前の男が本当に勇者なのかどうか確かめる事が出来そうだ。

だがここで問題が起こった。

たとえ相手が勇者であろうとも私は男に指一本触れさせるつもりはない・・・・そう思っていたし、警戒していたが、気が付けばこの男は私の手を握っていた。

信じられぬ・・・・

思わず声が出てしまったが、この私が目の前の男性に後れを取るとは。

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