12月19日【ツリーの内側で】
ゆうちゃんとミトラが頑張ったので、クリスマスツリーは、いっそう綺麗になりました。ガラスで出来たものも、錫で出来たものも、どんなオーナメントも1番綺麗に見えるように飾られて、誇らしげです。
ゆうちゃんとミトラは、クリスマスツリーの枝に腰掛けて、しばらく休みました。相変わらず雪は舞っていますが、大仕事を終え、ふたりとも体がぽかぽかしています。
イルミネーションの光が、もみの木の、細い葉の影をくっきり浮かび上がらせています。ふたりで飾り付けたオーナメントが、ふたりを取り囲んで、まるで宙に浮いているように見えます。内側から見るクリスマスツリーというのも、なかなかどうしておつなものです。
もしかしたら私は、クリスマスツリーを飾り付けるために、ここに来たんじゃないかしら。ゆうちゃんがそう思うくらい、楽しく充実した時間でした。
ここから眺めますと、商店街の全体を見渡せます。商店街はこの広場で折り返しになっているようです。向こうの方に、川が見えます。ゆうちゃんとミトラは、あの川べりの道を歩いてきたのです。
またあそこに戻って、今度は川を渡ってみようかな。ゆうちゃんが考えていると、ゆうちゃんのジャケットがちょこちょこっと引っ張られました。ミトラがいたずらをしているのかと思いましたが、ミトラはもみの木の枝をしならせて、トランポリンみたいにして遊んでいます。
では、ゆうちゃんのジャケットを引っ張るのは誰?
「こんばんは、こんばんは」
それは、とても小さな声でした。金色の毛並みを持ったリスが、ゆうちゃんを見上げています。ビー玉みたいに大きな黒い目に、イルミネーションの明かりが映り込んでいて、まるで宇宙のようです。
「こんばんは。あなたはもしかして、サンタさんですか?」
リスは、ゆうちゃんに尋ねました。『違うよ!』と、ゆうちゃんの代わりにミトラが答えました。
『ぼくたちは、あそこを歩いて来たの。ゆうちゃんは人間だし、ぼくはミトラ。サンタさんじゃないよ』
「そうですか……」
リスは、しゅんと下を向いてしまいました。それから、ゆうちゃんたちに背を向けて、とぼとぼと帰ろうとしましたので、ゆうちゃんはリスを引き止めました。
「ちょっと待って。あなた、サンタさんを探してるの?」
「そうです。ぼく、去年までは、クリスマスツリーのオーナメントでした。クリスマスがあんまり楽しそうだったので、こうして動き出して、クリスマスをお祝いすることにしたんです。だけど、ぼくはとっても小さいし、元々はオーナメントだったのですから、サンタさんがぼくを見付けてくれるか、心配でたまらなくって」
リスは、大きな瞳に涙をいっぱいにためて、本当に不安そうです。クリスマスが楽しみで仕方ないのに、もしクリスマスの朝になってもサンタさんが来てくれていなかったら、どんなに悲しいことでしょう。
「サンタさんは、きっと、あなたのことも見付けて、プレゼントを持って来てくれると思うよ」
と、ゆうちゃんが励ましても、リスの表情は暗いまま。
「そうでしょうか? ぼくの家は、このツリーの枝の上にあるんです。だから、ツリーの影に隠れてしまって、分からないかも知れません。下にたくさんあるプレゼントも、ぼくのためのものは、ひとつもなかったんです」
ゆうちゃんは、ドキッとしました。リスも、ゆうちゃんと同じように、あんなにたくさんのプレゼントの山の中から、自分の欲しいものを見付けられなかったのです。
ゆうちゃんには、リスの不安も、焦燥も、よく理解出来ました。このきらきらした美しいクリスマスの中で、なんだか自分ひとりが取り残されているような、自分だけが歓迎されていないような、そんな心細さ。
そうなると、ゆうちゃんは、絶対にこのリスを安心させてあげたいと思いました。そうしたらゆうちゃんも、少し安心出来るような気がしたのです。
『じゃあさ、じゃあさ、おうちにとびきり綺麗なクリスマスツリーを飾ろうよ。このツリーにも負けないくらい、素敵なやつだよ。そうしたら、サンタさんも、気付いてくれるよ』
ミトラが、とても良い提案をしました。リスは「このツリーより素敵なものなんて、作れるでしょうか?」と、まだ不安げでしたが、ミトラは『大丈夫、大丈夫! 出来る、出来る!』と、すっかりやる気です。
そういうわけで、ゆうちゃんとミトラは、リスのおうちに案内してもらうことにしました。
「こっちです」
と、リスが向かう先には、ゆうちゃんが5人並んでもまだ通れるくらい大きな大きな階段が、クリスマスツリーのずっと上まで続いています。
このツリーは、こんなに大きかったでしょうか。こんな大きな階段が、あったでしょうか。うーん、とゆうちゃんが首をひねっているうちに、ミトラとリスは、さっさと階段を上っていきます。
『ゆうちゃーん。早く、早く!』
階段の上からミトラが呼びましたので、ゆうちゃんは難しいことを考えるのをやめて、階段を上ることにしました。
今夜の夢は、ここでおしまい。
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