第2話
派遣先の仕事は二トントラックを運転しての配送業務だった。大手の家電量販店の専属業務だったので、安定して収入を得れると思っていた。
会社の配送責任者、つまり運行管理者と言う人物は、僕のような派遣社員に対する偏見が酷い人だった。初日に僕が出勤すると、これ午前の分ね、と投げ捨てるように伝票を僕の目の前に置いた。
午前中に帰って来れるだろ?、なんてまるで他人事のように吐き捨てた。内容は二十件からあった。もちろん配送先は初めて行く場所しかないし、荷物も冷蔵庫や洗濯機など、一人では運ぶのが困難な物が多かった。
初日だし僕は、頑張ります、と言うほかなかった。
もちろん一人では無理なので、助手席には一人乗る事になる。内容が内容なだけに、ベテランがついてくれるものと思っていた。しかし僕と同じ派遣の、見るからに非力な青年が座っていた。
マジか?と思いつつ僕はトラックを出発させた。
一軒目は全自動洗濯機を引き取って、ドラム式の洗濯機を納入する現場だった。ドラム式は大体八十キログラムくらいの重量がある。それを階段で二階まで上げなければならない。それを荷台から降ろす作業だけで彼は、すみません。落ちます、なんて言ってきた。そんな状態で二階まで上げるのなんて無理だ。
僕はこれでも引っ越し作業から運転業務まで、かなりの経験を積んできた。僕は仕方なく一人で洗濯機を降ろし、結束バンドに指を掛けて、背負うようにして八十キログラムを階段で登った。
そんな調子で、結局は彼には開梱した段ボールの片付けなどの雑用をさせて、僕が一人で荷物を運ぶほかなかった。そして会社に帰ったのは、午後三時を過ぎた頃だった。
あのさぁ、午後便もあるんだよ。十二件ね。頼むよ、なんて言われた。午後からも同じように仕事をこなし、クタクタになって帰社したのは、午後十時だった。
派遣契約では午前七時から午後四時になっているから、残業が六時間になる。
良いよな、能力がない奴は残業代が稼げて。僕は自分の耳を疑った。この男は何を言ってるんだ。自画自賛なんかするつもりはないが、こんなの僕だから終わらせる事が出来たんだろ?と言う言葉を呑み込んだ。
僕はタイムシートに終業時刻を十七時と書き込み、サインしてもらおうと持っていった。すると責任者は目を擦りながら、えっ?なんで自分の能力不足を棚上げして残業した事にしてんの?と言ってきた。
す……すみません。修整ペンありますか?僕は定時に書き直してサインをもらった。
翌日も内容は大して変わらない。なんの恨みでこんな仕打ちをするのか。それとも僕の単なる思い込みなのだろうか。しかしそんな疑念は簡単に晴らされた。
勤務開始から十日ほど経った朝だった。出勤した僕は、会社の前まで来たところで、大きな笑い声を聞き、歩を緩めた。
マジさぁ、朝から十件って多過ぎじゃね?しかもドラム付きだぜ。
よしよし、可愛そうにな。俺は昨日がそんなだったよ。だから今日は小物ばっかの五件。お前も明日はそうなるよ。
喫煙所で他のドライバーが話していた。つまりはキツい業務は全部、残業代を払わずに済む僕に回して、正社員たちには楽をさせるように組んでいたんだ。
それを知ってから、僕は徐々に体調の異変を覚え始めていった。
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