現実は小説より百合なり……?

志賀福 江乃

第1話 現実は小説より奇なりというけどどっちかって言うと百合。



「どうしようもなく、すきなんだ」

「す、好きです。大好きです!!」


 突然の告白に私は戸惑っていた。頬がピクピク引きつり、身体が沸騰しそうで、心臓がぎゅうんぎゅうんと痛い。見たことのないくらい蕩けた優しい表情の紺野さんと、見たことのないくらい余裕がない真っ赤な青木さん。

 二人ともが本気であることを嫌でも分からせられる、その表情を見つめていられなくて、目を逸らした。こ、これ私どうすればいいんだろう。


 人生で最初で最後かもしれないモテ期。しかし、相手は同じ課で……そして何より、同性だった。


 待て待て待て、私は多分ノーマルだ。まともに恋愛なんてしたことないけれど、昔はちゃんと男の人と付き合ってた。そいつがクソだったから、今はちょーっと男性が苦手なんだけど。ほんとにちょっとだ。近づいてきたら貝塚に投げ込みたくなる程度だ。

 確かに紺野さんは私の永遠の憧れ。仕事もできて綺麗でかっこよくて、いつも私を気にかけてくれる。少し怖いときもあるけれど、それは誰かのために怒っているとき。彼女は今男性とお付き合いだってしていたはず。それが、なんで、私にそんな顔をしてくるの。僅かに顔が赤くて、いつもつり上がっている目はとろりと溶けていた。

 青木さんは、ちょっとよくわからないところもあるけれど可愛い後輩だ。誰にでもニコニコ優しくて、面白可笑しくて、笑うと可愛い。男性からはモテるだろうし、会社のプリンス浅葱だって、この子を狙っていた。覚えがないのにすごく懐いてくれるなぁとは思っていたけど、まさか、こんな。


 言うなれば二人はお姉ちゃんと妹だ。同性をそんな目で見たことすらないし、二人ならなおさら。

「駄目かしら」

「うぅ……」

 気がつけば二人とも涙目だ。断っても傷つけるし中途半端にどちらかにOKしてもどっちかは傷つくし!! 頭の中がごちゃごちゃで訳がわからない。私はいてもたっても居られなくなってしまった。

「う、えっと、あの、ごめんなさい!!」


▽赤星凛は逃げ出した!


 重い足をなんとか持ち上げてその場から逃げた。明日から会社どうしよう〜! と色んな意味で心臓が痛くなった。こんな状況今まで読んできたどんな小説よりも摩訶不思議で意味わかんないんですけど!?

 

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