第14話 退店

「もう無理。何もお腹に入らない」

「俺も……当分ご飯はいらないかも」


 俺も彼女もケーキとパフェを食べきることはできた。しかし、かなり満腹になってしまっていたのだ。正直動きたくない。


 そう思って休んでいるところへ、店員さんが現れる。


「あのー大変申し訳ないのですが、そろそろ時間の方が……」

「あー、そんな時間ですか……。分かりました。直ぐに店を出ます」

「ありがとうございます」


 そう言って店員さんは下がっていく。


「出なくちゃなー」

「そうだね……。って早く出てよ」

「うっし……分かった」


 俺は気合を入れて席を立ち、行けるように準備する。


 彼女は俺の後から出てきて、リスに最後のお別れを言っているようだ。


「バイバイ、今度来た時も一緒に遊んでね」


 そう言ってリスの頭を撫でている。


 リスは寂しそうに、『次の時にもっと入りやすい服装にしておくんやで』そう言っているようだった。


 俺と彼女席を離れ、外へと向かう。その時に、何かが袖に張り付き、駆けあがってきた。


「なんだ!?」


 俺は上がってきた方を見ると、そこにはさっき俺とオスとオスの勝負をしていたリスがいた。


「なんだやる気か?」


 俺はそう言ってファイティングポーズを取ろうとするがリスに止められた。


「キュルル、キュルル」

「何々?」

『今回は引き分けってことにしといてやる。ちゃんと精進しておくんやで』

「何でリスにそんなことを言われなきゃいけないんだ?」

『そんなこと気にすんな。それとさっきのリス共はかんべんな。あれでも一応色々背負ってるものがあんねん』

「背負ってるもの?」

『帰りにあそこの巣の中を見てみい。あそこがあいつらの家やさかい。それと、彼女と仲ようしいや。お前さんと彼女の仲の良さはワイから見てもいい感じや。大事にな』

「お前……」


 俺は思わずジーンと来ていた。まさかリスにこんなことを言われるなんて。


『次来た時彼女さんを泣かせてたら許さんからな?』

「ああ、大事にするよ」


 俺とリスは握手、といっても両方のサイズの違いがかなりあるのであんまり強くは出来なかったが、それでも、今だけは繋がった気がした。


「何やってるの?」

「今行く。ちょっと仲直りをしてただけだよ」

「そうなの? 良かったね」

「ああ、意外といいやつだって分かって良かったよ」


 彼はリスを自身の手のひらの上に載せて、テーブルの上に戻す。


 俺は奴に手を振ってそこを出る。


(そういえばさっきの巣とか言ってたのは……)


 俺はさっきの強盗団の巣を少し覗きに行く。そこには小さなリスやお腹を膨らませたリスが体を寄せ合って温めていた。その前にはさっき俺から餌を奪っていった奴が立ちはだかるようにして警戒心を出していた。


 背負うべきもの……か。俺はそこを離れ、会計をして店を出た。



 二人が去った後の店内で。


「よう兄弟。調子はどうだったよ」

「何、今回もちょろいもんよ。こうやって煽てて最後に認めてやれば好感度は上がる。リピート率も高くなるもんだってな」

「兄弟には勝てねえよ」

「適材適所って奴だよ。お、またいいカモそうなやつが来たな」

「やっぱり週末はカモが多くていい。今のうちに食いだめしとかねえとな」

「だな。それじゃあいつも通りに」

「ああ」


 こうして彼らも別れていくのだった。




「ふいーお腹いっぱいだ」

「だねー。ちょっと休みたいよ」

「それじゃあ直ぐに運動はせずに少しドライブでもするか?」

「それいいね。今運動してもちょっと気持ち悪くなっちゃいそうだよ」

「おっけー適当に走るか」


 俺は彼女と一緒に車に乗り、車を発進させる。その直ぐ後に別の車が入ってきたので、この店がいかに人気かよくわかるものだ。


 俺自身もケーキは美味しかったし、リスも何だかんだありつつも可愛かったのでまた来たい。


「それにしてもリスってあんなに可愛いんだね」

「そうだったな。餌とかも持っていかれたけど、あれはあれで可愛かったのかもしれん」

「はは、折角の量だったのにあんなに持って行かれてよく言えるね」

「俺達が食う訳じゃないからな。それくらいあってもいいだろ」

「……」


 彼女は信じられないといった目で俺を見ている。


「どうしたんだ?」

「さっきまで私が構ってたリスに憎しみの目を向けていた人には思えなくって」

「偶々だよ偶々。それに人間は成長するものだからな」

「その年になっても?」

「ああ、人間いくつになっても成長はするもんだよ」

「そっか」

「そういえば他のリスには触ってないんじゃないか? それで良かったのか?」


 俺は手酷いことになったかもしれないけど、何だかんだで2匹は触ったのだ。しかし、彼女は一匹しか触っていない。


「ん? 別にいいよ。あの子も可愛かったし、また行った時にでも触れたらいいな」

「それもそうか」

「そうだよ。あれ? っていうか空赤くない?」

「え?あ、ほんとだ。時間もかなり遅いな……」

「運動するってどこに行く予定だったの?」

「二人だしボーリングでいいかと思ってたんだけど、どこかここがいいって場所でもあるのか?」

「ううん。場所によってはしまっちゃうことがあるから。それで気になっただけだよ」

「そうか、良かった。今からラクロスをやりたいとか言われたらどうしようかと思ってたところだ」

「何でラクロスなの? やったことないよ」

「女子ラクロスって有名じゃないのか? 昔漫画で見たことあるんだけど」

「そうなの? うちの学校そこそこ部活はあるけど、そんな部活はなかったな」

「へー珍しい部活とかってあるのか?」

「珍しい? うーんどうだろ……」


 俺達は適当に走りながら喋ってお腹の具合が良くなるのを待った。


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