第10話 やっぱりこうなるよね

「そういえば今回の集まりはあいつ来なかったんだな」

「ええ、なんか元々用があったとかで」

「全く最近の若いやつは。お、ここの服なんてどうだ? 娘に良くねえか?」

「いいかもしれないっすね。少しだけ見ていきます?」

「おう。行ってみるか。若いやつの好きな物を見ておかねえとな」


 バっ!


「え? ちょ!」

「いいから静かに!」


 俺は彼女のいる試着室の中に入りカーテンを閉める。そして彼女が声をあげられないように口を塞ぐ。


「ふぐぅ!?」

「頼む、消防団の人達がいるんだ」

「ふむむぅ」


 パンパン。と彼女が優しく手を叩いてくるので俺はそっと手を放す。


 狭い中で彼女が振り返ると小声で怒ってきた。


「何でこんなことするの!」

「だから消防団の人が来たって!」

「入ってこなくてもいいじゃない!」

「あ……」


 そうだ、彼らに彼女と一緒にいるのがバレないようにするには一度逃げて後から合流することもできたはずだ。というか逃げることもしなくて良かったんじゃなかったろうか。


 そもそも何で彼らに見られるとまずいと思ったのだろうか。そうだ、別に彼女と映画に行くのも立派な用事だ。それを見られたからといってなんなのだ。


 俺は反省し出ようとする。


「悪い、じゃあ出るわ」

「ちょっと待って」


 彼女に手を掴まれ出られない。さっきはあんなことを言っていたのに。


「どうしてだ?」

「どうしてだ? じゃないわよ。ここで出てったらそれこそまずいでしょ!」

「ちょっと服を見ていたって言えばいいんじゃないのか?」

「ちょっと……私これでも未成年なんだけど? そんな少女とおじさんが同じ衣装室に入っていたらどういう風に見られると思う?」

「あ……」

「ここに入っちゃったら、あの人たちが行くのを待たないといけないでしょ……」

「すまん」

「いいけど……変なとこ触らないでよね」

「触らないって」


 彼女はそう言って俺に背を向ける。そう言えばファスナーをまだ上げていなかった。というかさっき激しく動いたせいで彼女のファスナーはさっきよりも下がってしまっている。だからまたブラ紐が見えていた。


 俺はファスナーに手を伸ばし、そっと上げる。


「なっ!」

「どうした?」

「どうした? じゃないわよ! 何で今上げるの!?」

「途中だったから」

「っ~~~」


 彼女はそれ以降何も言わなくなる。


 ということはこのままでいいということなんだろう。さっさと上げてしまおう。


 俺はさっきよりも早い速度でファスナー上げる。そして壊すこともなくファスナーを上げきることに成功した。


「よし、出来たぞ」

「ありがと……」


 そうした会話をした時に外から声が聞こえてくる。


「おいおい、最近の若いやつらはこんな服を着るのか? ほぼ紐じゃないか」


 俺と彼女の呼吸が止まる。少し近くで消防団の人達が話しているのがハッキリと分かった。ここで呼吸をするだけでもバレてしまうんじゃないか。そんなドキドキ感が俺を襲う。


 そんな俺を余所に外の彼らは会話を続ける。


「そんなことないっすよ。ちゃん見えないようになってたり、他の服と組み合わせるようになってたりするんですから」

「そうなのか? にしても一杯あるし色とりどりだしで目がちかちかして来るな」

「そうっすか? これくらいならわりとどこでもありますよ」


 よりにもよって彼らはすぐ側で何か服を見ているようだ。


 今からでも出てって早く帰れと叫びたいが、それをすると色々と終わってしまうから出来ない。


 いつかの朝刊で農業従事者、女子高生が衣装室で着替え中に入り込みバレる。女子高生はその時恐怖で声を上げられなかったと話す。それがバレた経緯は衣装室の近くにいた被告の知人がいて、彼らの口を封じたかったためだと思われる。


 ダメだ。そんな感じで載せられるわけにはいかない。何とかしてここを我慢しないと。


ピリリリリリリリリ


 俺のスマホが鳴った。俺は慌ててスマホを取り出し音を消す。


 安心したのも束の間、外で聞こえていた会話が止まった。


「今の音って」

「はい、新人のスマホみたいな音でしたね」


 嘘だろ!? たった今のでバレるとか有り得なくないか!? ていうか音は初期設定ののままだから変えたことなんてないのに。


「しかもあそこの靴って新人のっぽくねえか?」

「ははは、幾ら似ててもそれはないでしょう? ここは女性ものの服の店ですよ?」

「何言ってんだ。人には言えないような趣味の一つや二つあるってもんだろ?」

「だからってそれはないんじゃないですかね?」

「そうかなぁ……たしかめ」

「ダメですよ」

「まだ最後まで言ってねえだろ」

「布越しには聞こえてるんですよ? 悲鳴を上げられたらどうするんですか。僕は逃げますからね」

「わかったわかった。やめるよ」

「冗談でも言っていいことと悪いことがあるんですから」


 そう言って声は離れていく。


 俺達は暫くそのままじっとしていた。


「ちょっとどいて」

「ああ」


 彼女が振り向き俺とすれ違う。


「あ」

「? どうしたの?」

「なんでもない」


 すれ違う瞬間にこの狭さだからか彼女の胸が俺に当たった。彼女はそのことに気付いていないみたいだったけど、それを言ったら叫ばれそうなのでやめる。


 彼女が顔を出して周囲を見回す。そして戻ってきて俺に言う。


「大丈夫だと思う」

「分かった。すぐに出る」


 俺は躊躇わずにすぐに出た。周囲には幸い誰もおらず、見ている人もいない。


「はぁ。助かった……」

「もう、何てことするのよ。びっくりしたじゃない」

「ほんとにごめん。この埋め合わせは何かするから」

「じゃあ……いいけど」


 良かった。何とか許して貰えた。しかし、女の子と狭い空間に入ることなんてなかったからちょっとびっくりだ。


「それで、どう?」


 彼女はそう言ってカーテンを取り払う。そこには俺の睨んだ通りの彼女がいた。


 彼女はは恥ずかしそうにもじもじしているがそのもじもじ感も初々しいというか、恥じらいが感じられてとても可愛く感じる。


「とっても似合ってるよ」

「ホント?」

「ああ、可愛い」

「っ!!!」


 彼女は顔を真っ赤にさせて俯いた。そしてカーテンをばっと手繰り寄せて体というか服を全て隠してしまった。


「だ、大丈夫か?」

「ちょっとあっち行ってて」

「わ、分かった」


 彼女の声が座っていたような気がして思わず逃げ出す。少し離れたところで彼女が終わるのを待った。


「お待たせ」

「大して待ってないぞ」


 俺は彼女に声をかけられて振り向くと、そこはここに来て来ていた服装に戻っていた。


「さっきの服はどうしたんだ?」

「買おうかと思ったけど高すぎてやめた」

「それくらいは買ってやるよ」

「ダメだよ。ご飯とか映画も奢って貰ったのに、これ以上されたらどうすれば」

「じゃあさっきのの謝罪の意味で買うので許してください」

「それなら……まぁ」

「良かった。じゃあ行こう?」

「うん」


 こうして俺と彼女でさっきの服を買いにレジまでいき、服を購入した。


 思ったより高かったが、彼女に似合っているのを見れたから満足だ。

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