目が覚めたら異世界に居たからとりあえず冒険者始めます

沖天斗

1話 異世界転生に似た何か

目が覚めると黒一色の部屋に居た。

 ここを部屋といっていいのだろうか。壁が近くにあるように感じるが、手を伸ばしても何も感じない。地面に立っているようにも感じない。自分の五感がおかしくなったかのような錯覚を覚える空間だ。

 意識が回復していく。

 目を凝らしてあたりを見渡すと、この空間よりもさらに深く、黒く、恐ろしい黒い靄があった。いや、あったよりも居たのほうが正しいだろう。この靄は、俺が来るのを待ちわびていたかのように、顔を覗き込んでいるのだから。

 この靄が少し動いたような感じがした。

「ようこそ。自分の意思で、自分の力で、この世界に来たものよ。私は案内役の者です。何か聞きたいことはありますか」

 黒い靄が話しかけてきた。男の声だ。

次に、お前だ。といいたいのか、靄がこちらを見たような気がした。

俺は、それに応じようと、声を出そうとした。しかし、自分が望むように声が出ない。

「なるほど、まだ覚醒したのは意識だけでしょうか。あなたがおかしく感じているのは、この空間のせいではありません。なぜこの場所にいるのか。その経緯を忘れている。そのせいで、あなた、という存在が、まだ完全にこちらに存在しきれていない。だから、そのように感じてしまうのです。一度落ち着いて振り返ってみてはどうですか」

 この靄の言うとおりにするしかないだろう。意識だけの俺には他に出来ることがない。

意識を過去に集中させ、自分の記憶を思い出す。






 目の前にいちまいのプリントを持ち上げ、顔を真っ赤にした教師がいる。

「おい、聞いてるのか。こっちを見ろ」

 今にもつかみかかってくるような勢いだったので、顔を上げた。

 そのプリントを見ると、進路希望調査と大きく書かれていた。その下には、結城悠と俺の名前が書かれていた。

「お前なめてるのか」

 何を怒っているのだろう。このゴリラは。本当に、身に覚えがない。それに、こんなゴリラの顔や体をなめたいなんて思う酔狂な奴はいないだろう。いるとしたら同種のゴリラだけだ。

 どうせ舐めるなら美少女の方がいい。

 おっと、話が逸れてしまった。

「何がいけないんですか」

「俺がなぜ怒っているのか、どうして怒られているのか本当に分からないのか。一度こいつを声に出して読んでみろ」

 説教をする教師の常套句の一つが飛んできた。

 この行為に一体何の意味があるのだろう。でも、反論するとさらに面倒になることは明白だ。一応、反論の意を込めて苦虫を嚙み潰したような顔をしておく。

「第一希望、英雄になりたい。第二希望、誰もなしえなかった事がしたい。第三希望、神。何か問題でも。可愛い可愛い生徒が志しているんだから、背中を押すなり、相談に乗るなり、応援くらいするのが教師でしょう。説教して生徒の道を閉ざすのはどうかと思いますが」

 ゴリラもとい教師があきらめたのか、ため息をつきながら、プリントを渡してきた。

「お前なあ、こんなこと書いていいもは小学生までだぞ。それとも、何かクスリでも始めたのか?成績はそこそこいいんだから、適当な大学でもいいから、進学するって書いておいたらどうだ。勉強が嫌なら就職でもいい。この進路選択が将来に大きな影響を与えるんだぞ。次のやつがいるから、今日は終わるが、明日もう少し真面目に描いて持ってこい。」

 うっせ、このゴリラ。

「ご高説どうも。先生は、教師よりも動物園に就職すればもっと充実したゴリ生を送ることができたと思いますよ」

「なっ、貴様」

 口が滑るとはまさにこのこと。本音が漏れてしまったようだ。先生の顔はゴリラではなく、湯だったタコになっている。触らぬ神に祟りなし、、、は違うなもう手遅れだし。えっと、、、三十六計逃げるに如かずだ。

 進路希望調査のプリントを奪い取り、人生で一番の全力疾走で学校を後にした。



 家に帰ってベットに横たわる。

 冷静になってみると、とんでもないことをしでかしたな。あの場面を振り返ると、百俺に非がある。けど、あそこに書いてあった事は、俺の本心でもある。それを馬鹿にされたことに対しては少し怒ってもいいと思う。

「あーあ。異世界転生でもしねぇかなぁ。もっと楽しく生きたい。」

 我ながらなんとも幼稚で大きい独り言なんだろう。

 確かにあの教師の言うことは正しいのだろう。現実的ではないとわかっているし、自分でも納得している。

でもそれを強要するのはおかしいだろ。。

 でも目的がないまま大学に入学、卒業し、会社に就職する。周りがやっていることを同じようにやって生きている意味があるのか。

「それは俺にとって死んでいるのと同じだ。もっと普通じゃない世界に生まれたかった。命を生を感じれるような世界に生まれたかった。まっ、あり得ないけど」

 その独り言を最後に意識を手放した。


 それで現在に至る。

 

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