初手でダンジョン丸ごと破壊してレベルカンストしちゃいました~才能ないと馬鹿にしていた同級生をレベルの暴力で見返します~
西沢東
第一章 迷宮破壊、そして
27個目
ダンジョンと呼ばれるものが2046年、世界各地に出現した。日本に1つ、中国に8つ、アメリカに4つ。その他全て合わせて26のダンジョンが今現在存在を確認されている。……はずだった。
何時ものごとく塾の自習を抜け出し駅のベンチでスマホゲーでもしてサボろうと思っていた時のこと。俺、四辻博人は手元のアプリで自分のステータスを確認する。何度見ても変わらないその能力値にため息をつきながら今後について頭を悩ましていた。
四辻博人
レベル3
STR 2 VIT 2 INT 2 MND 2 DEX 3 AGI 2 HP 12 MP 4
スキル 『弱スラッシュ』
余りにも情けない。高校に入り先導者並びに監視カメラ等ありでダンジョンに入れるようになり、何度も潜りスピーディーにレベルアップした結果がこれだ。因みに同じパーティだった奴は能力値が既に二桁あり俺はパーティ内ではお荷物扱いである。改めてみても俺の成長度合いの低さが際立つというもので、ああ腹立たしい。
この時代ダンジョンに入り冒険するという行為は一種の職業となっている。というのも自衛官や警官だけをダンジョンに突撃させると確かに強いのだがレベルが上がりにくかったりスキルを覚えられなかったりするものが出てきてしまうのだ。どれだけ兵器を扱えようがどれだけ柔道や逮捕術が使えようが、それとはまったく別の冒険者としての才能が必要になっていくのである。
故に素材の買取や入場の管理などをメインに行い肝心の探索は冒険者を名乗るベンチャー企業や配信者に任せるのが一般的なのだ。俺もそれに夢を見る者の一人であり、どうしても将来冒険者になりたかった。
だが上位層になると4桁にも届く能力値を持つこの世界において、この成長速度の遅さは致命的だ。手慰みに能力値ウインドウをアプリではなく魔術として発動してみると空間に文字列が浮かび上がる。スマホのバックグラウンドで再生していた最も好きな配信者、いや解説者の声がイヤホンから流れ出ていた。
「能力値、浮かび出るパラメーター、よくわからないだろう?実際私もそうだ。そもそも魔術がこうなのか、あるいは各々の能力がある規則に沿うよう
手元に出ているステータスウインドウを維持することさえ4分しかできない、それが今の俺だ。同級生たちが馬鹿にするのも当然だ、ワンチャンに賭けるのではなく虚無に賭けているのだから。故に夢をあきらめようと思うのだ。きちんと社会人として働いて、好きでもない仕事をして金を稼ぎ夢の残滓を動画で追えばいいんだ。
そう、それは正に何時ものごとく塾の自習を抜け出し駅のベンチでスマホゲーでもしてサボろうと思っていた時のことだった。足元がボコりと揺れ、世界がぎゅるりと反転していくのを俺の意識は確かに捉えたのだ。
(気のせいか?)
気のせいではない。今俺はいつも通り地面に這いつくばりながら歩く……いや歩くと這いつくばるは真逆の性質であるはずなのだから!頬をばちりと叩き目を見開き、右へ左へと視界を動かす。それは平常な世界だ、平常に見せかけられた、そうであるべきだと変容させられている空間そのものだ。
世界が逆さに渦巻いていた。コンクリートが、車が、ビルが一点に収束するかのようにめしりめしりとあげてはいけない音を立てて大きな穴に飲み込まれてゆく。先ほどまでいた学習塾は既に遠く、俺ごと世界は穴の中に。つまりダンジョンに吸い込まれていっていた。
思う。これはもしかしてチャンスなのかもしれない。
(この穴の奥にダンジョンの核か、あるいはボスがいるはずだ。そして今はダンジョンの生成期、つまりまだ階層も空間のしきりも魔物もすべてが未完成!ならば今俺がこの中に突っ込んでそれを殺せば……?)
本当にとちくるっていたのだその時の俺は。夢がかなわないという挫折と歪んだ、何でもいいから力を得たいという祈りが俺を走らせたのだ。周囲から穴に落ちていく物を見極め、目的のものを探すとすぐに見つかった。割れたコンクリートの破片、それも鋭利に尖った凶器である。
「いける、いけるはずなんだ!」
意を決して穴の中に飛び込む。それが俺の本当の人生の幕開けの、第一歩であった。
滑り台のごとく降りるのが理想だが実際にはそうはいかない。地面は歪んで棘とガラスの破片だらけのいばらの道。ならば親の買ってきた靴を信じて全速力で穴に向かって走るしかない。
ひたすら足を動かす。体が傾くのを必死に抑え込み足を前に踏み出させ続ける。これだけやけになったのはいつぶりだろうか。試験が上手く行かなかった日か、友達を失った日か、そんな意味もない戯言を頭の中で躍らせる。
ダンジョンの生成とは奇妙なものだ。地面に穴が開くという表現は厳密には過ちで、正しくは地面が穴になっているんだと言っていたのは俺の好きな配信者の言葉だ。なんでもダンジョンができるたびに地球の質量は減少しているらしい。
その分のエネルギーが魔物やら素材に変換されているという研究結果はその実出ていないとのこと。物質をエネルギーに変えるという行為にしては生み出されているものがあまりにも少ないから完全に変化しているわけではなさそう、というところまで彼女は言っていた。
穴の中心点に近づくと、ここまでくるともはや地面にしがみついている感じになっていて。俺の手が落ちてくるガラス片で傷だらけになる。あくまで刺さらない。少しのレベルアップでここまで至れるのであれば上位の人々はどんなに化け物じみた能力なのだろうか。
飲み込まれていく地面の中から未だに直立するビルに目をつけ、抱き着くように飛び移る。
「ぐっっ……でもいけるぞこれなら!」
未だに直立するビル、それは地面に入った支柱が極めて頑丈でこの後も落ちない可能性が高いということだった。幸いだったのはビルの2階以降の部分は既にへし折れてなくなっており、支えるべき質量も少ないということ。つまりこれに乗れば安全にエレベーターのごとく下に落ちていけるという寸法だ。
足元に視界を移すと未だに奥底が見えない。ここで一つ想定をしてみる。仮にダンジョンコアのようなものがあった場合それらはどのように運用されているのか。
仮にただの石だとか何かであるならばこの速度で落ちてくるコンクリートの群れに耐えられるはずはないのだ。つまり何らかの魔術でこれらの物体を飲み込んでいることになる。あるいは防ぎきっているのか、いずれにせよこのまま突っ込んだところで勝ち目はない。
(いや、本当にか……?)
コンクリートの流れを見る。少し動き、止まり、止まり、急に動き出す。大きな生き物が大量の飯を食べさせられ飲み込めず焦っているような動きにようやく気付く。おそらく地面を食すのには限度があるのだ、何トンかは分からないが同時に食することはできない。その瞬間であれば安全に地面にたどり着けるのではないか、と考えたわけである。恐らくそこには何かが……そう思っていたところに一つの異様な声が響いてきた。下からだ。
『オチヌスチガウケリオ……』
これが詠唱だと気づくまでに数秒、そしてそれが下に浮く何かが唱えていると理解するまでに10秒ほどかかりようやく意味を理解し、タイミングを合わせる。
空から落ちてくるビルの群れにびくともしないあたり、おそらくそいつの周辺には障壁のような何かが張られていることは間違いない。そして確実にこの飲み込む現象は全て奴が行っている。だから飲み込むのに時間と魔力を使っている隙にこの手元の尖ったコンクリート片を叩き込めば。
奴まで凡そ100メートルほど。再びコンクリートの飲み込まれる速度が遅くなり同時に上から落ちてきた車が勢いよく術者にぶつかる。それを見て勢いよく頭から俺は飛び降りた。
「んんっっっ!!!!」
声は押し殺す。頭を下にして軌道がそれないように、できるだけ加速して障壁に車がぶつかった隙を逃さぬように、コンクリートの破片を前に突き出した。
飲み込む速度が完全に停止し、術者が動かすべく腕を振り上げ詠唱を再開、術式に魔力を注入しなおす。奇跡が必然が、その完璧なタイミングに俺は奴に向かって落下していた。
「死ねっ!」
「なっ!」
体のある程度出来上がった男の全速力での飛び降り、しかもそれを破片の先端に集中させての一撃だ。あまりにもあっさりと障壁は破れ男の胸と手に持つ蠢く丸い球に破片が突き刺さる。ぐしゃりという嫌な音と共に俺の身体が衝撃で潰れ、そして貫かれた球とともにコンクリートの呑み込みが一時的にではなく完全に停止していく。
意識が消えていく。痛みのあまり、ではなく流れ込んでくる経験値の流れにより、だ。ステータス画面を限界の中開くと無限に数字が更新されてゆく様子が見えた。
四辻博人
レベル 9999
STR 8712 VIT 9643 INT 5923 MND 7632 DEX 4678 AGI 5698
HP 18739 MP 11839 SP 9999
スキル 『弱スラッシュ』
この日、27個目のダンジョンは完成する前に破壊され世界に衝撃が走る。ダンジョンの破壊方法が存在したこと、日本国内二つ目のダンジョンによる利益と損害がまるごと消えたこと。そしてなによりダンジョンの経験値全てを独り占めした化け物が生まれた可能性に。
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