第34話 三択は、33%の確率で正解になるという意味ではない
合宿最終日になった。あれから、あの日について色々考えたけれど、結局確信に至るような考えは、浮かばなかった。
こうなったら、消去法で考えていくしかないと思う。
ホントは手当たり次第に、思いついたことを凛に、聞いてしまいたいが、間違えたことを凛に言った場合、凛の機嫌が悪くなるのは自明の理なので、気軽には聞くことができない。
きっと凛にとって本当に大切な出来事だったからあんなに怒っているのだ。慎重にいきたい。
今のところ、候補としては、3つほど考えている。
1つ目は、「人の役にたちたい」と思った出来事だったってことだ。
凛は委員長とかテニス部の部長だとか皆のために大変な役職をよくやっていて、人の役に立つことをしている印象がある。
もしも、俺の行動がきっかけになって、そういうことをやっていてくれていたなら嬉しいなって思う。
2つ目は、スポーツをして体力をつけて、自分と、同じような状況になった人を助けたいって思った出来事だったという可能性だ。
確か、この事故のあとに凛はテニスにも行きだしたので、もしかしたら、この事故がきっかけで体力の向上をしようと思ったのかもしれない。
だが、これが正解だとすると、なぜ水泳を習わなかったのかという疑問が残る。まさか、陸でも水でも体力つくのは一緒じゃんとかいう雑なノリではないだろう。
…正直、凛なら、"ま、細かいことはいいからまずは行動だよ、行動!"とか言いかねんけど。
最後に3つ目だが、俺のことを好きになったきっかけだっていう可能性だ。
・・・
いや、皆が言いたいことは分かっている。 かわいい幼馴染にキレられておきながら、「でも、凛って、俺のこと好きなんだぜ!」とか言っちゃっている痛い奴だってことは重々自覚している。
うん、冷静に考えてキモすぎるな俺。
あくまで。あくまで、可能性の話だから。念のために言ってみただけだから!そんなに睨みつけないで!
ってなわけで、前者2つのうちのどちらかを聞いてみようと思う。では、この2択をどう選べばいいだろうか?難しい問題だ。
どちらかは合っていると思うんだけど…
*
「今日と明日はこれまでやってきた勉強の復習をします。因みに今日は四人でやるからね。」
千里さんが白いすべすべの指を折り曲げて、気合を入れるように拳を小さく握る。
合宿も、明日で終わるということもあって、気合いが入っているようだった。
「どういう風にやるんですか?」
「まずは、二人には私たちが昨日までのテストの中でできていなかった問題の中から何問かやってもらいます。そして、私たちが採点します。もしも、間違えたら午後は二人でその問題に打ち勝つように相談していいことにします。」
千里さんは張り切っている。でも、打ち勝つって何?
そう思っていると千鶴さんからフォローが入る。
「あ、因みに打ち勝つって言うのは解くって意味だからね。これは千里が、身近な人に見せる千里語だよ。健太郎君たちにどう見えているかは分からないけど千里って結構天然なところがあるから。」
「そんなことないもん。問題に打ち勝つっていうもん。」
千里さんが可愛らしく千鶴さんに言い返す。
ごめん、問題に打ち勝つは言わないよ、千里さん。
ってか、今までもそうだったけれど千里さんって結構天然だよね。同級生の千鶴さんがそう言っているくらいだし。
千里さんの提案は、名案ではありそうだったけれど、凛はどう思っているだろうか?凛の健康的に日焼けした横顔をチラッとみる。
「別にいいよ。」と言うように、久しぶりに目を合わせて頷いてくれる。
千里さんたちは、今日は午前の採点が終わったら、俺らをおいて、買い物に行くらしい。一緒にいたら、俺らが千里さんたちに答えを聞いてしまって、自分たちで問題を解く訓練にならない、ということで出掛けるらしい。
俺らを置いて買い物に行くなんて薄情だ…なんて思ってはいない。むしろ、何も報酬もない中で色々と頑張ってくれたのだ。
2人には、今日は俺たちのことを忘れて思い切り楽しんできてほしい。
*
おわったー!
最後の1問である複素数平面の問題を凛とともに解き終わり、解放感に包まれる。テスト終わりといい、勉強終わったあとの解放感は結構好きだ。
もう、何もやらなくていいって最高だ!
千里さんたちがくれた問題をやってみて思ったことは、ついこないだ聞いたはずの問題や原理なのに思い出せないことがあるという悔しさと、結構覚えていることに対する驚きだった。
流石に単語の数がものを言う英語とかは滅茶苦茶できるようになったわけではないけれど、他のものは結構できるようになった。
ホントに二人がくれたこの合宿は凄かったんだな。という感謝がわいてきた。
そして、午後に凛と協力してやった午前に解けなかった問題は、主に俺が凛に教える形になった。それでも、二人で相談してほとんどすべてができてしまった。問題を解けた時の自分の努力が認められるような爽快感が気持ちよかった。
それに何より凛と普通に話すことができていることに胸が暖かくなる。俺にとっての凛の存在の大きさを感じる。
でも、凛とはけじめをつけなければならない。俺は賭けに出ることにした。
全ての問題が終わって、はちきれんばかりの胸を強調するように背中をそらして伸びをする凛に、声をかけた。
「凛、話があるんだ。」
隣にいた凛はピクッとなって静止する。
俺の真剣な声音に、あのことを話すことがわかったのかもしれない。
「なに?」
明らかに挙動不審といった様子に目を泳がせる。
ここが大事だ。
「お前の大切なことがわかったよ。」
俺は、はっきりとそう告げる。
「そう!?」
少しだけ頬が薄く染まったような気がする。
まさか、3つ目の可能性ある?
え、これどうすりゃいいの?
千鶴さんを信じるかコミュ障の勘を信じるか。どうすんのこれ?マジでどっちもありそうじゃん。
よし、冷静になろう。
……
・・・
「もしかしてだが、あの日から凛は俺のことを異性として意識してくれているのか?」
俺は気になってしまった方を、聞いていた。結局、自己中は治らないらしい。
凛はしばらくうつむいて顔を明らかに赤らめて、黙ってしまった。
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