第21話 盗聴器と婚約指輪は、大体同じもの…同じったら、同じ!
七月初め
期末テストもちょうど終了した。俺も凛もかなりこのテストには手応えを感じていた。
これは千里さんに教わった勉強法のおかげだったり、単純に勉強時間が増えたおかげだった。
お互いに「凛(健太郎)には負けたくない」って思えたのもよかった。あと、「定期テストは気合いで何とかなるよ(訳:だから、いい点とりなさいよ)」という千里さんのS気ある言葉も効いたと思う。コミュ障の俺が()の中を聞き取れてしまうくらいには千里さんは怖かった。どうもあの日以来、千里さんの厳しさが強くなった気がする。
*
土日が明けて月曜日。テストが終わった後、最初の授業がある。進学校だけあって今日、テストが返されるのかどうかがクラスでは話題になっている。
話す人のいないボッチには関係ないって?
関係あるんだよ、これが。
皆の話を盗み聞きして自分がどのくらいの成績だったかを知らなければならないからね。ボッチが情報弱者にならないためにはスキル盗み聞きが必須だ。
ということで、クラスの会話に耳を傾ける。
「B組では英語のテスト返されたらしいぞ。」
「でも、Bって担当の先生舟木だろ?俺らは榊だからどうせおせーよ。」
と話す生徒だったり、
「数学のテストの平均四〇切ったらしいよ。やばくない?」
「でも、あのテスト東大入試と数学専門誌の問題が八問あったらしいじゃん。最高点も八〇くらいらしいし、今回はしゃーないよ。」
とか色々な声が聞こえてくる。
テストが教科ごとに返されていく。自信はあるとは言っても(テスト後に盗み聞きした)周りの成績と比べていつもよりもできたというだけだ。数学は難しかったからできなかったし、出来たと思っていてもその問題が部分点なこともある。テストの話を耳にするたびに緊張が増してくる。
そうして、テストがかえされていく。
英語1 七一点 学年平均 四五点
英語2 六八点 学年平均 三八点
英語3 八一点 学年平均 四二点
物理 六九点 学年平均 五一点
化学 八〇点 学年平均 六一点
数学1 五五点 学年平均 三一点
数学2 五一点 学年平均 四一点
国語 五〇点 学年平均 四〇点
世界史 五一点 学年平均 五一点
合計 五七六点 学年平均 四〇〇点
手応え通りだった。数学2は点数が思っていたほど伸びなかった。最初らへんにケアレスミスをしたせいで簡単な問題を落としてしまったのが原因だ。だが悪くはない。俺は自分の順位に対しても確かな手応えを感じた。
うちのクラス最後の化学のテストが返された後、凛が席の近くにやってきた。
「どうだった~?私、地理以外は平均点超えていたんだよ~。エッヘン。数学はたぶんけんたろーにも勝ったんだよ。」
「へー。奇遇だな。俺も今回は調子よかったぞ。因みに数学は五五点と五一点だ。」
「むー。一つ負けたー。私は五四点と六四点」
「へー、でもすごいじゃないか。凛にしては頑張ったじゃん。」
余裕を装いつつも内心では滅茶苦茶歯ぎしりをする。こいつには入学以来ただの一科目も負けたことがないのだ。
こいつの計算能力を侮っていた。凛は数学に関しては計算能力が高くケアレスミスがほとんどない。くそっ。次は勝つ。
「なんか、余裕そうな顔でムカつく。」
俺の虚栄心に見事に騙された幼馴染が喋る。
「ま、実際今回のテストは学年平均よりも一五〇点以上、上の点数だったしな。」
「まじ、ムカつく。学年平均よりちょっと上で喜んでいる私が馬鹿みたいじゃん。」
ポニーテールと胸部を揺らしながら荒々しく俺を問い詰める。
近い。近すぎ!5㎝もない距離だよ!ってかこの距離はやばい。制服からフローラルの香りがするのまでわかる。
「まあ、別にいいんじゃねーの。志望校を考えたら余裕だろ。」
自制して別の方をみながら話を続ける。これ以上見ているのは理性が働くのを放棄しそうだった。偶然を装って5㎝の壁を越えてしまいそうになる。少年の夢がつまった2つの果実にアタックしたくなる。
「まあ、そうなんだけど、私もけんたろーと同じ大学目指そうかなぁなんて思って。」
「いや、今からじゃ無理だろ。」
自分のことは棚に上げて凛をたしなめる。
「むー。いいじゃん。けんたろーはその成績なら余裕だもんねー。でも、だからって調子乗りすぎ。」
凛が可愛く怒ってきた。
*
凛視点
私はけんたろーが医者を目指しているのを(仕掛けた盗聴器で)知っていた。きっかけはどう考えても千里さんだろう。
だから、けんたろーの心に大きく住み着いているであろう千里さんに対して、実際にけんたろーがどう思っているのかを探りたかった。
でも、盗聴のことは秘密だし、けんたろーには気づかれないようにしないといけない。慎重にさりげなく、けんたろーから志望する学科の変更について聞こう。
もしも、変に隠そうとするならば、ギルティ―。つまり、浮気=死刑ということでいいだろう。だって、好きな人には何も隠さないのが普通だもんね?盗聴器のこと?盗聴器は、愛している証みたいなもんだからいいんだよ。婚約指輪みたいなものだからね!
「それだけど、俺、志望かえたから、余裕はねーよ。」
そう思っていたら、けんたろーは志望を変えたのを全くもって隠さなかった。
「え、ほんと?どこに変えたの?」
「それは…。秘密だよ。」
「え、秘密ってどういうこと?(ギルティーってことかな?かな?)」
最近買った、ダイアモンド加工の切れ味鋭い包丁のことを私が思い出していると、
「あとでお前には言うよ。」
なんてあっさり言ってきた。もう、けんたろーってばなんなの?ギルティーなの?ギルティーじゃないの?
それとも、これがよく友達がいう焦らしプレーってやつかな?ちょっとした意地悪を好きな人にしたくなるってやつかな?けんたろーは子どもっぽいところがあるから有り得るかも。
そう思ったら、嬉しくなって、けんたろーに触れたくなった。けんたろーの頬をつねってやった。
『可愛げのあるやつめ。』
「痛いってば。この前から、周りの美少女《《たち》》が攻撃的すぎ!」
うん??
今、昨日から周りの美少女たちがって言っていたよね?最近の私は暴力振るっていないから、千里さんのことを言っているんだよね?そういえば、千里さんとけんたろーの家に泊まった時に、耳の跡のことを「いいの。飼い主に首輪をつけられただけ。」とか言っていたよね?
本当に浮気していないの?それとも、飼い主って、浮気相手の隠語ってことかな?かな?
エロ本は、私と同じ胸の大きな人が一杯写っていたのに、胸の小さな千里さんを選ぶの?「私との関係は遊びだった」ってこと?身体だけが目当てのサイテー野郎だったってことかな??
うん。●す。そして、私も死ぬ。
いいよね?浮気は極刑だって聞いたことあるし、浮気だよね?これは?
「どうして、今言ってくれないのかな?け・ん・た・ろ・―」
こめかみをひきつかせながら言うと
「大事なお前にだけいいたいんだよ。」
なんて言ってくる。なぁんだ。やっぱり、ただの焦らしプレーってやつだったんだね。
やっぱり、私たちは相思相愛なんだ。
その言葉を聞いて私はけんたろーのことを許したのだった。
これがいわゆるチョロインってやつだね。意味はわからないけど、チロ〇チョコみたいで可愛いよね。
健太郎視点
こんな、人前で、今の成績で志望校を言うのは恥ずかしかった。そこで、俺は天才的な作戦を思いついた。
思いついたままに、
「大事なお前にだけ言いたいんだよ。」
って言ってやった。
これは、陰キャがカッコイイキザな言葉を言ったら『お前が言うな』って思って、思わず突っ込みたくなるという人間心理を使った高度な作戦だ。
俺みたいな陰キャがこんな言葉を言ったら、絶対キモいって言いたくなる。(俺の人生参照)
そうして、グダグダと話を逸らしていきこの話を終了させるという非常に高度なテクニックなのだ。
注意点は滅茶苦茶可愛い幼馴染にマジ顔で“キモい”と言われて死にたくなることだ。
まだ、言われていないのにもう死にたい。
死の宣告を待つ。
だが、いつまでたってもキモいって言われない。気になって思わず、凛の方をみる。
すると、
「けんたろーのば~か。」
赤くなってもじもじしながら甘美な罵倒をしてくる。予想外の反応に当惑する。
どういうことだ?どうして、そんな反応なんだ?まるで俺に恋愛感情があるみたいじゃないか。
凛は恥ずかしくなったのか、すぐに俺の席から去っていき別の友達と話に行った。
チラチラとそちらの方を見ていると凛はすぐにいつも通りの笑顔になった。
でも、時々眼があって、顔をほんのり赤くする。え、ホントにそういうことなのか?
俺は、放課後まで頭をグルグルとさせるのだった。
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