第2話 禿げた先生は、大体あだ名をつけられがち
公立進学校の高校三年生における模試は特別な意味を持つ。
五月の始め。ゴールデンウイークも明けて部活も段々終わっていく時期のホームルームにおいて某予備校主催の模試が返された。
「今日は先日やった模試を返す。呼ばれたものから前に出て成績表をとりに来なさい。」
髪が薄くなった哀愁漂う担任がそんなことを言ってくる。
実はこの担任にはちょっとした恩がある。
男ははげてしまうと、学生たちには陰でザビエルと呼ばれ、家族にはバーコード親父と呼ばれる日々が待っていることをこの担任のおかげで知ることができた。俺の髪の恩師だ。
その話を聞いてからヒジキをずっと食べている。
俺の髪の毛はきっと年寄りになっても黒く逞しくいてくれるだろう。
周りの人間がはげ散らかしていってもの俺の髪がなお立派に保たれていたらこの担任の墓参りに行こう。なんてくだらないことを考えていると名前を呼ばれる。
「|二村(にむら)健太郎(けんたろう)、二村。おい二村早くとりにこい。」
少し苛立ったように言われる。
「はい、はーい。」
大きな声で返事をする。
ザビエルさんから返された成績表は今までとったことのないようなひどさだった。
「えー、今返したのは春休み明けに行われた予備校のテストのものだ。忘れていた人もいたかもしれないし、悪い点にショックを受けた人もいるかもしれないがこれが現実だ。
私のクラスでも成績が下がった人が多い。これは今までは、同学年だけを相手にしていればよかったけれどこれから三年生になったお前らは一年二年先輩の浪人生も相手にしなければならないことも原因だ。
もしかしたら、お前らの中には浪人しているんだからどうせ頭が悪いと思う人たちもいるかもしれないが、それは違う。この人たちはもう一年つらい思いをしてでも志望校に受かりたいという意思を持った人たちだ。そういう意思を持った人たちは人間的に強度がある。人間としての強度が受験本番のときに緊張に耐えられる力をくれるんだ。今一度自分の今回配られた成績を見直して自分たちの未来・夢について真剣に考えてくれ。それが人間としての強度を生む。」
したり顔で言う。
人間としての強度とやらが本当に受験本番のときに役立つかは疑問だ。むしろ人間力がない方が緊張とか感じずに受験に挑める気がする。
とはいえ、流石は年配の先生だけあって経験に基づいた迫力のようなものがあるらしい。
先生のそんな胡散臭い言葉でも学生たちには効果があった。
進学校の高校三年生らしいピリピリした空気になった。
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