0-3
「え......?っ!!」
入口の所に、小さいLED懐中電灯が落ちていた......?
箪笥の中で固まる私は、思わず声を上げてしまっていました。けれども、男の人達には気づかれなかったみたいで、本当に、息が詰まるようでした......
それに対してほっとした後、私の頭からはまた血の気が引いていきます。薄っぺらいポケット、空いた両手......なんで......
............嘘、嘘嘘嘘!?私、ちゃんと持って入ってきたはずなのに......!なんで、なんでなんで!?そりゃあ、私は物なくしたりとかよくするけど、流石に手に持ってきた物を出した時点で置いてくるなんてやらないよ......!
「......?」
......どうやら、私がパニックになっている間に、男の人達はどこかに行ってしまったらしいです。
「......嘘、だよね......?」
箪笥から出て、その場にへたりこんで急いでポケットの上着を漁ってみました。
けれど、
「......ない、ない、ないないない!!なんで!?なんでなのっ......?」
ポケットの中には紙が1枚あるだけで、他には何も入っていなかったのです。
パキッ、バキッ......
「......ふえぇ......」
暗い、お化けが出ると噂の廃屋の中で、懐中電灯もなく、お金もスリムフォンも何もかも持っていない状態......しかも、まだ恐らく夜になったばかり......
絶望的な状態の中で、私は最早泣くことしかできませんでした。
ポタ、ポタ,ポタ......落ちる涙が、地面に当たって消えてゆきます。ガラス片が散って、ささくれた床板に座り込んで、ただただ泣く......
絶望しすぎてもはや幻覚すら見始めているのか、涙でぼやけた私の視界を光がちらちらとしています......
「っう、ぐすっ......えぐっ......ふぇ、え......」
......そんな時、私はポケットの中にある紙のことを思い出したのです。
「......ぅ、あ、あれを見れば......少しはっ......っず、元気、でるっ......かな......?っぐ、」
私は、急いで上着のポケットに手を突っ込んで、今さっきまで存在を知らなかった、恐らく仕事のメモと思しき紙を取り出して顔の前に持ってきました。......こんなんでも、現実逃避くらいには......!
そんな私の手から、するり......と紙が逃げて、私の目の前に落ちました。
ほわん、ふわん......涙が徐々に乾いてきて、視界が段々としっかりしていきます。そして、落ちた紙の輪郭線もくっきりと見えた頃、私は紙に書いてある文字に何故か目を奪われました。
......その紙には、はっきりとこう書いてあったからです。
『死ぬまでに
「......なお、と......?」
......え、あれ、仕事のメモじゃない......?何これ、死ぬまでにやりたいこと......?あれ、こんなの書いたっけ......でも、書いてあるのは間違いなく私の字だ、でも、なら......
「真音、って......」
まさしく、唖然とする私の目の前に、誰かの足......どこか見覚えのある、傷の入ったスニーカーを履いた足が、とん......と、優しく下りてきました。
......そして、途端に私の視界がぱあっと明るく......
「......一愛、ちゃん......?」
「......!」
目の前にいたのは、30代ぐらいに見えるのに、どこか優しい雰囲気のお兄さんがいました。
「......真音......?」
色々考えて困惑しているせいでフリーズしてしまった私に、
「一愛ちゃんっ!!」
「わきゅっ!!」
お兄さんは、名前を呼びながら思い切り抱きついてきました......
......その瞬間、
「......!」
......私は、全てを思い出したのです。
「っ、やっぱり一愛ちゃんだ!!一愛ちゃんっ、一愛ちゃん......!」
私の旦那さんは、頼れる優しい旦那さんは......
「一愛ちゃんっ、よかった、本当に良かったっ......」
「......な、真音、わた、私、は......」
「......一愛ちゃん、ごめんね......」
泣きながら、お兄さん......真音は、私に向かってこう言いました。
「......一愛ちゃんの、最後の時に、僕はそばにいてあげられなかったっ......そこから、10年、もっ......」
......そう、私は......10年前に......
『っ、ごほっ、げほ、づ、う゛っ......』
『小枝樹さん、小枝樹さん!?』
......この世を既に、去っていたのです。
ビビりでぼっちな地縛霊。 甘都生てうる@(●︎´▽︎`●︎) @teuru_muau55
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