20日 【没原稿】途中で書くの面倒になったやつ(一応文章の練習にはなったのでよしとします。文章構成や言葉選びについてご指摘お待ちしています。特に語彙が素人すぎるので直したい)

「待ちな」


 ずんと落ちるような低い声が地を這うように響き、空気がびぃんと張り詰めた。


 ここは東怪道は黑濃の竹林。真上から照らす陽光が、そよ風で揺れる竹の葉を黄緑色に透かしている。その場に香るは、数刻前の小雨が染み込んだ土の匂い。一見してのどかな風景ではあったが、そこに相応しくない緊迫感が周囲に充満していた。


 とある旅人と、とある大柄な武者が、道をすれ違い……

 互いにしばらく歩いた後で、振り返った武者が、旅人を呼び止めたのである。


「そこのおまえだ。待てと言っている」


 その武者は、和装を着崩し、胸元の筋肉をこれ見よがしに露出させている。ぎょろりとした眼球、太い眉。無造作なざんばら髪は、およそ正道をゆく武士のものではない。背には三尺三寸もあろうかという大太刀を背負っており、男が異様の剣士であることを物語る。


 呼びかけに足を止めた旅人は、線の細い、小柄な侍であった。


 鼠色の袴に、青の羽織。頭に乗せるは三度笠。

 腰に帯びるは、変哲もなき打刀。

 珍妙なことに、その傍らには小さなぶち猫が一匹寄り添い、懐いている。


 侍は背を向けていたが、首だけを傾けて大柄の武者へ横目を向けた。


「……はて。拙者に何用か」

「己れは名を十郎太。捻じ切り十郎太といやあ、黑濃じゃ知らん奴ぁいねえ」

「はて……」

「旅人ならわからなくても仕方あるめえよ。これから否応にも知ることになるがな。ところでよ……」


 武者の眼光が凄味を増した。


「黑濃八刃衆が七、鬼灯丸を斬ったってなぁ、おめえか?」


 問われた侍は、すう、と目を細める。

 答えず、無言で佇んだ。

 その反応に、武者は、頭をがしがしと掻く。


「……己れは鬼灯丸とは同じ師の下で高め合った中でよお。同門で一番を競い合ったもんだ。が、奴のが毎度一枚上手でよ。結果だけ見りゃあ勝って負けての繰り返しだったが、己れぁ、いつも負けてばっかだったと思ってる。あいつは、頃合いを見計らって、わざと負けてたんだ。貧乏長屋で育ち、道の雑草を食って飢えを凌いでた己れは、剣で身を立てねえといけねえ。そういう事情を知っていて、あいつは……」


 武者がゆっくりと、歩む。侍へと近づいていく。


「それでもあいつの才能は、隠し通せるもんじゃあなかった。城主様から黑濃最強の剣士を集めた八刃衆へと引き立てられた後は、水を得た魚ってなもんだ。悪逆人からあやかしまで、ばったばったと薙ぎ倒す。あいつは遠いところまでいっちまった……己れはと言やぁ、酒の勢いで人を殴り、お奉行様を怒らせて、黑濃の地から追い出されちまった。未だに道端の草で食いつなぐ……あの頃の、まんまさ……」


 足を止める。

 武者と侍の距離、二間三尺。


「仇を討ちてえ」


 背負った大太刀をずらりと抜く。


「鬼灯丸が……八刃衆が全滅した。そんなことあるはずがねえ。ねえが、事実、己れぁ見た。脳天からパックリ真っ二つになった、鬼灯丸の屍を。己れは男泣きに泣いた。ぜってぇ、仇をとってやる。地べたに這いつくばるだけだった己れに、優しく手を差し伸べて、立たせてくれた。剣という、生きる意味をくれた。そんなあいつがぽっと出の素性もわからん輩に倒されるなんてなぁ、許せねえ。だから……己れぁ仇討ちをしねえとなんねえんだ」

「先程から、何のことやらさっぱり……」


 ずどん、と武者が一歩踏み出し「しらばっくれんじゃァねえッッ!!」とがなる。


「ここまで言われて迫られて、眉ひとつ動かぬその胆! 何かは知ってるに決まってらァッ!」


 ざり、と地面を踏みしめる武者。


「……今一度問う。おめえが、鬼灯丸を斬ったのか?」


 竹林に風が吹く。

 ぶち猫が、侍の足下に寄り添い、武者を丸い目で見上げている。

 武者の決して引かぬ決意を見て取り、侍は、小さく溜息を吐いた。


 薄い唇が弧を描く。


「そうだと、言ったら?」

「――――鬼灯丸が朋友、捻じ切り十郎太」


 握った柄をみしりと唸らせ、ぢゃきりと大太刀を八相に構える。


「参るッ!」


 踏み込む。

 剣閃。

 風が舞い、


 侍が嗤う。

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